JOHBOC 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 | 編

Ⅱ-2 乳癌領域

BRCA病的バリアントを有する乳癌患者に対する周術期薬物療法は,非保持者と同様の治療が推奨されるか?

ステートメント

BRCA病的バリアントを有する周術期乳癌患者に対し,アンスラサイクリン系薬剤やタキサン系薬剤以外に特定の薬物を勧めるほどのデータはない。

  1. 1背景

    BRCA病的バリアント保持者の乳癌はDNA傷害作用のあるプラチナ製剤やPARP阻害薬に感受性が高いと考えられており,周術期薬物療法における,これらの有効性に関して検討を行った。乳癌の標準的周術期薬物療法はアンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤を用いたレジメンであり,これらにプラチナ製剤,あるいはPARP阻害薬を追加した試験治療と,標準治療を比較した臨床試験を検索した。3つのRCTと2つの統合解析が抽出された。BRCA病的バリアント保持者集団に関する統合解析は2つのRCTの統合解析だが,いずれもBRCA病的バリアントの有無を割付因子に採用していない。また,PARP阻害薬の追加効果を検証した第Ⅲ相試験の結果が未報告のため,当該CQはFQとした。

    さらに,BRCA病的バリアント保持者の周術期乳癌におけるアンスラサイクリン系薬剤とプラチナ製剤の有効性を直接比較したランダム化第Ⅱ相試験の結果が報告されている。

  2. 2解説

    メタアナリシスの1つはTNBCを対象とした9つのRCT(n=2,109)で,うち2つのRCT〔Gepar-Sixto(GBG66), BrighTNess〕におけるBRCA病的バリアント保持者のサブ解析(n=96)がなされている1)BRCA病的バリアント保持者において,アンスラサイクリン,タキサン系薬剤よりなる標準治療に比べ,プラチナ製剤の追加による病理学的完全奏効(pathological completeremission:pCR)率の改善を認めていない〔OR:1.17(95%CI:0.51—2.67,P=0.711)〕。もう1つの統合解析はTNBCを対象としたプラチナ製剤併用の7つのRCT(n=808)を用いた,pCRに関するBRCA病的バリアント保持者と非保持者の比較を目的としており2),当該FQのスコープから外れると考える。

    GeparSixto(GBG66)試験ではTNBCを有する315例をパクリタキセル,ドキソルビシン,ベバシズマブ,カルボプラチン,あるいはパクリタキセル,ドキソルビシン,ベバシズマブにランダムに割り付け,術前に18回投与した(ベバシズマブは6回)3)。TNBC全体ではカルボプラチンによるpCR率の改善が認められたが,BRCA病的バリアントのサブ解析では認められていなかった。

    BrighTNess試験ではTNBCと診断された634例を,パクリタキセル,カルボプラチン,PARP阻害薬veliparib,あるいはパクリタキセル,カルボプラチン,あるいはパクリタキセルの3つの治療群に盲検的にランダムに割り付け,3週毎に4サイクル行い4),その後,AC療法を2~3週毎に4サイクル追加し,手術を実施している。主要評価項目であるpCR率においてパクリタキセル単独に比べカルボプラチンの上乗せ効果は認められたが,veliparibの追加効果は認められなかった。

    その他,術前にエリブリンとカルボプラチンを3週毎に行い,pCR率を検証した探索的な単群第Ⅱ相試験も報告されている5)

    TBCRC031試験ではBRCA病的バリアント保持者のHER2陰性早期乳癌患者を,シスプラチン(75mg/m2,3週毎を4サイクル),あるいはAC療法(ドキソルビシン60mg/m2,シクロホスファミド600mg/m2,2~3週毎に4サイクル)に割り付け,pCRにおけるシスプラチンの優越性を検証している6)。シスプラチン群のpCR率は18%,AC療法群は26%で,シスプラチンの優越性は認められなかった〔RR:0.70(90%CI:0.39—1.2)〕。以上より,アンスラサイクリン系薬剤をシスプラチンで置き換えることは推奨できない。

    これまでの臨床試験結果をまとめると,BRCA病的バリアントを有する原発性乳癌患者の周術期薬物療法として,現在の標準治療であるアンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤に替わるレジメンは確立していない。ただし,プラチナ製剤の追加によるpCR率の改善に関する報告は散見されており,今後更なるレジメン開発が期待される。

  3. 3キーワード

    primary systemin treatment:BRCA,breast neoplasms,primary systemin treatment,platinum compounds ,Poly ADP—ribose polymerase 1 inhibitor,immune checkpoint inhibitor,denosmab,cost,patient preference

    adjuvant teratment:BRCA,breast neoplasms,adjuvant teratment,platinum compounds,Poly ADP—ribose polymerase 1 inhibitor,immune checkpoint inhibitor,denosmab,cost,patient preference

  4. 4参考文献

    • 1) Poggio F, Bruzzone M, Ceppi M, et al. Platinum—based neoadjuvant chemotherapy in triple—negative breast cancer:a systematic review and meta—analysis. Ann Oncol. 2018;29(7):1497—508.[PMID:29873695]
    • 2) Caramelo O, Silva C, Caramelo F, et akl. The effect of neoadjuvant platinum—based chemotherapy in BRCA mutated triple negative breast cancers—systematic review and meta—analysis. Hered Cancer Clin Pract. 2019;17:11.[PMID:30962858]
    • 3) Hahnen E, Lederer B, Hauke J, et al. Germline Mutation Status, Pathological Complete Response, and Disease—Free Survival in Triple—Negative Breast Cancer:Secondary Analysis of the GeparSixto Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol. 2017;3(10):1378—85.[PMID:28715532]
    • 4) Loibl S, O’Shaughnessy J, Untch M, et al. Addition of the PARP inhibitor veliparib plus carboplatinor carboplatin alone to standard neoadjuvant chemotherapy in triple—negative breast cancer (BrighTNess):a randomised, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2018;19(4):497—509.[PMID:29501363]
    • 5) Kaklamani VG, Jeruss JS, Hughes E, et al. Phase Ⅱ neoadjuvant clinical trial of carboplatin and eribulin in women with triple negative early—stage breast cancer(NCT01372579). Breast Cancer Res Treat. 2015;151(3):629—38.[PMID:26006067]
    • 6) Tung N, Arun B, Hacker MR, et al. TBCRC 031:Randomized Phase Ⅱ Study of Neoadjuvant Cisplatin Versus Doxorubicin-Cyclophosphamide in Germline BRCA Carriers With HER2-Negative Breast Cancer(the INFORM trial). J Clin Oncol. 2020;38(14):1539—48.[PMID:32097092]