Ⅱ-2 乳癌領域
ブレストアウェアネス(breast awareness)は,乳癌の早期発見のために,女性一般に推奨されており,BRCA病的バリアント保持者に対しても推奨される。
ブレストアウェアネス(breast awareness:BA)とは「乳房の意識化」とも訳され,女性自身が自分の乳房の状態に日頃から関心をもち,乳房を意識して生活する健康教育のことを指す1)~3)。BAは単なる自己検診ではなく,乳房を意識する生活習慣を通じて,乳房の変化を自覚したら速やかに医療機関へ受診するといった行動を含めた概念であり,乳房・乳癌に関する知識や理解を深める健康教育である。
BRCA病的バリアント保持者においても乳房の状態に関心をもち,家族歴や自身の乳腺濃度等,乳癌発症リスクおよび検診発見の難易に関連する知識をもつことは早期発見において重要である。
BAは90年代に英国で普及された概念で,わが国では,厚生労働行政推進調査事業費補助金「乳がん検診の適切な情報提供に関する研究」班(笠原班)が作成した下記の4項目が現在提唱されている4)5)。
BRCA病的バリアント保持者に対しては,対策型乳がん検診のみではなく,より若年からの乳癌専門医によるフォローや,造影乳房MRI等を含めたより詳細なサーベイランスが推奨されている(詳細については乳癌CQ4,5を参照)。本FQにおいてはこれら早期発見に関する二次予防に加えてBAの概念がBRCA病的バリアント保持者にも推奨され得るかどうかを検討した。
BRCA病的バリアント保持者に対するBAに関して下記のキーワードを用いて文献検索を行ったところBRCA病的バリアント保持者に対してBAの妥当性を直接に評価した文献は認められなかったが,BAに関連する文献にて検討した。
該当する文献なし。
BRCA病的バリアント保持者について自己検診は死亡率を下げないという報告がある6)一方で,トレーニングを受けたうえで18歳から毎月の自己検診が推奨されるというレビューもあり7),自己検診の有用性については一定の見解に達していない。また最後の検診から12カ月以内に発見される乳癌(中間期乳癌)患者がBRCA病的バリアント保持者では多いとされ,発見契機としては特にBRCA1病的バリアント保持者の41%が自己検診であるという報告があった8)。BRCA1のように進行が早く,中間期乳癌を発症するリスクが高い場合では,気を付けるべき乳房の異常所見に関する理解とセルフチェックおよび乳房の変化を自覚した場合にどう対処したらよいかを知っておくことは早期発見のために重要であると考えられる。
該当する文献なし。
不十分な知識と理解で行われる自己検診では乳房・乳癌に対する誤った認識や不安といった悪影響をもたらす可能性や,やり方がわからないといったことから自己触診習慣の維持が難しくなる傾向があるものの,患者教育を行うことで,自己検診の率が28%から62%に増えると報告されており,患者教育は有用な手段である可能性がある6)9)10)。
自己検診を実施していた75%に,自分の健康を自身でコントロールできているという満足が得られたという報告があった11)。
BAには前述の4つの項目が現在提唱されており,BRCA病的バリアント保持者に関しては,対策型乳がん検診に代えて,年に一度の造影乳房MRI等のより綿密なサーベイランスを含めたBA が推奨されるであろう。BAを浸透させる重要性の科学的根拠を示すことは難しいが,BAは現在の推奨サーベイランスを受けていても起こり得る中間期乳癌の発見契機となることが期待される。またBAの正しい理解と実践はBRCA病的バリアント保持者における健康に対する自己コントロール感の上昇とも関連があり心理的なベネフィットも期待される。
BRCA病的バリアント保持者においても乳房の状態に関心をもち,家族歴や自身の乳腺濃度等,乳癌発症リスクおよび検診発見の難易に関連する知識をもつことは早期発見において重要である。
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