JOHBOC 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 | 編

Ⅱ-2 乳癌領域

男性のBRCA病的バリアント保持者に対し，乳癌の一次予防・二次予防は推奨されるか？

ステートメント

男性のBRCA病的バリアント保持者に対しても乳癌の早期発見を目的とした二次予防の効果が期待される。

具体的な推奨内容やその生存率改善効果に関しては今後のデータの集積が持たれる。

  1. 1背景

    男性乳癌は，乳癌患者全体のうち1％程度であるといわれており，頻度が低い疾患である。男性乳癌は女性に発生するものと比べ，診断時の平均年齢が60～70歳と高齢であり1），発見時の組織学的グレードが高く，リンパ節転移を伴っている場合が多いと報告されており2），見かけ上では予後不良であることが多い。しかし，年齢と病期を揃えた場合の予後は，女性に発生する乳癌と同等であるとも報告されているため，女性同様早期発見のメリットは大きいと推察される1）。男性乳癌の治療について，手術療法は男性の乳腺組織の特徴から乳房全摘術が選択されることがほとんどであるが，放射線治療や薬物療法は基本的に女性と同じ乳癌の診療ガイドラインに準じて行われている3）4）。

    男性乳癌の発症リスクを上昇させる因子としては，乳癌等の家族歴があること，Klinefelter（クラインフェルター）症候群や他の遺伝要因があることが知られているが1）3），特にBRCAの生殖細胞系列の病的バリアントを保持することは男性乳癌の発症リスクが上昇する因子として知られており，男性乳癌患者のうちBRCAの生殖細胞系列の病的バリアント保持者はBRCA1で4％，BRCA2で4～14％であると報告されている5）6）。また，一般男性の乳癌の生涯発症頻度は0.1％といわれているのに対し，BRCA1の場合には1.2％，BRCA2の場合には7～8％のリスクであると報告されている6）。その他，片側乳癌発症後の対側乳癌の発症率は一般男性集団が2.7％であるのに対し，BRCA病的バリアント保持者では15.2％と報告されており7），対側乳癌のリスクも大きな差がみられる。

    男性乳癌の一次予防について，BRCA2病的バリアント保持者であったとしても，男性乳癌の浸透率は8％以下と一般女性の生涯乳癌発症率と同等かそれ以下であり，RRM等を積極的に推奨する根拠に乏しい。二次予防については，海外のガイドラインにて推奨されているものもあり，詳細については解説を参照。

    男性のBRCA病的バリアント保持者に対する一次予防・二次予防については，報告件数や有用性について情報が少なく具体的な方法や時期等について提唱することが現段階では困難であるといえる。しかし，現状得られる情報からは早期発見に伴う臨床的なメリットは十分期待できるため，二次予防の普及は望ましいと考えられる。男性にも乳癌が発症するという概念が広く普及しているわけではない現状を考慮すると，単に自己触診を啓発することにとどまらず，乳房の異常所見（しこり，乳頭分泌等）に関する知識や異常を感じた際の適切な医療行動等も含めた二次予防の普及が望まれる。今後は更なるデータを集積し検討を行っていくべき課題の1つであろう。

  2. 2解説

    ❶ 一次予防効果

    米国においてBRCA2病的バリアントを有する男性で乳癌既往があり，かつ女性化乳房症を認めた症例についてCRRMが実施された報告がある9）。乳房のリスク低減手術についての報告はこのケースレポートのみであった。

    ❷ 二次予防効果

    乳癌発症リスクの高い男性へのマンモグラフィの感度は92％，特異度は90％と報告されており1）5），またマンモグラフィによるスクリーニングのがん検出率は4.9/1000で一般女性と同等であるという報告もあり10），その他にも男性乳癌ハイリスク集団に対するマンモグラフィの有用性について示唆されるような報告がいくつかあった3）11）12）。しかし，報告件数自体は少なく，これらの報告の多くはBRCA病的バリアント保持者に限らず乳癌発症リスクの高い男性集団を対象にした報告であり，また生存期間の延長に関する報告はほとんどされていない。

    患者のQOL，合併症，医療コスト，患者満足度に関しては報告されている文献はなかった。

    ◎参考：海外ガイドラインにおける推奨

    NCCNのガイドラインではBRCAの生殖細胞系列のバリアントを有する男性について，35歳からの乳房自己触診の開始と医療機関で1年に1回の視触診を受けることが推奨されている。また，女性化乳房症がある場合には50歳から1年毎にマンモグラフィの実施，男性乳癌の家族歴がある場合には最も若く男性乳癌を発症したものの診断時年齢より10歳若い年齢より1年毎にマンモグラフィを実施することが検討されるとしている6）。

    ESMOのガイドラインではBRCAの生殖細胞系列のバリアントを有する男性について，30歳より医師による診察を1年に1回受けることが推奨されている。マンモグラフィ等，画像診断の実施については科学的な有用性はないとしている8）。

  3. 3キーワード

    surveyrance： BRCA，breast neoplasms，male，surveyrance，cost

    risk reduction treatment：BRCA，breast neoplasms，male， risk reducting mastectomy，cost，patient preference

  4. 4参考文献

    • 1） Reis LO, Dias FG, Castro MA, et al. Male breast cancer. Aging Male.2011；14（2）：99—109.［PMID：21204612］
    • 2） Silvestri V, Barrowdale D, Mulligan AM, et al；kConFab Investigators, et al. Male breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers：pathology data from the Consortium of Investigators of Modifiers of BRCA1/2. Breast Cancer Res. 2016；18（1）：15.［PMID：26857456］
    • 3） Hassett MJ, Somerfield MR, Baker ER, et al. Management of male breast cancer：ASCO Guideline. J Clin Oncol. 2020；38（16）：1849—63.［PMID：32058842］
    • 4） National Comprehensive Cancer Network. NCCN clinical Practice Guidelines in Oncology, Breast Cancer. Ver1.2021
    • 5） Johansen Taber KA, Morisy LR, Osbahr AJ 3rd, et al. Male breast cancer：risk factors, diagnosis, and management（Review）. Oncol Rep. 2010；24（5）：1115—20.［PMID：20878100］
    • 6） National Comprehensive Cancer Network. NCCN clinical Practice Guidelines in Oncology, Genetic/Familial High—Risk Assessment：Breast, Ovarian, and Pancreatic, Ver2. 2021
    • 7） Ottini L, Silvestri V, Rizzolo P, et al. Clinical and pathologic characteristics of BRCA—positive and BRCA—negative male breast cancer patients：results from a collaborative multicenter study in Italy. Breast Cancer Res Treat. 2012；134（1）：411—8.［PMID：22527108］
    • 8） Paluch—Shimon S, Cardoso F, Sessa C, et al；ESMO Guidelines Committee. Prevention and screening in BRCA mutation carriers and other breast/ovarian hereditary cancer syndromes：ESMO Clinical Practice Guidelines for cancer prevention and screening. Ann Oncol. 2016 Sep；27（suppl5）：v103—10.［PMID：27664246］
    • 9） Marino MA, Gucalp A, Leithner D, et al. Mammographic screening in male patients at high risk for breast cancer：is it worth it? Breast Cancer Res Treat. 2019；177（3）：705—11.［PMID：31280425］
    • 10） Gao Y, Goldberg JE, Young TK, et al. Breast cancer screening in high—risk men：a 12—year longitudinal observational study of male breast imaging utilization and outcomes. Radiology. 2019；293（2）：282—91.［PMID：31526252］
    • 11） Freedman BC, Keto J, Rosenbaum Smith SM. Screening mammography in men with BRCA mutations：is there a role? Breast J. 2012；18（1）：73—5.［PMID：22226069］
    • 12） Guiahi M, Gabram SG, Albain KS, et al. Clinical factors used to support prophylactic mastectomy for a male BRCA2 mutation carrier. Surgery. 2006；139（5）：704—6.［PMID：16701105］