JOHBOC 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 | 編

Ⅱ-2 乳癌領域

BRCA病的バリアント保持者の乳癌根治手術・リスク低減手術に再建術は推奨されるか?

ステートメント

BRCA病的バリアント保持者が乳癌根治手術・リスク低減手術を受けるにあたり,患者が乳房再建術を希望する場合は一次(同時)再建を実施することを推奨する。ただし,若年の対象者も多いことから,再建方法についてはそれぞれの整容性,合併症等を考慮し,話し合いのうえで決定することが望ましい。

  1. 1背景

    乳房再建術は2006年に自家組織再建,2013年に人工物再建が保険適用となり,早期乳癌患者への確立した治療である。そして片側乳癌発症患者へのCRRM・乳房再建術は2020年から保険適用となった。そこでBRCA病的バリアント保持者に対する乳癌根治手術・リスク低減手術と併用した乳房再建術の実施について検討する。

  2. 2解説

    ❶ 乳房再建の適応・時期

    遺伝学的検査は適切な事前の遺伝カウンセリングを受けたうえで実施することができるが,その後のリスク低減手術は,通常,少なくとも若年成人(18~25歳)の年齢範囲の後半まで延期されることが多く,患者の成熟度と自律性のレベルを考慮して,個々の患者に応じて考慮される1)。対側手術の適応について,手術合併症のリスクが高い患者(肥満,喫煙者,糖尿病等)については慎重に判断する2)

    乳房再建術については十分に確立され,経験のある形成外科医が行えば安全に行うことができるため,RRMを選択する女性の大多数は,一次(同時)乳房再建を選択している3)

    ❷ 乳房再建の方法

    切除術式としてSSM,NSMが選択されることが多く4)5),再建対象としての皮膚欠損は少ない。両術式の詳細については乳癌BQ2にゆずる。

    乳房再建の術式は自家組織と人工物に大別される。自家組織は遊離皮弁や有茎皮弁による再建であり,より自然で長期の安定性があるが,入院期間,瘢痕増加,脂肪の厚み等の点で若い世代には受け入れ難いことがある。一方で人工物は永久的なものではなく,拘縮等の変形や劣化による破損が起こり得ること,極めて稀ではあるが乳房インプラント関連大細胞型リンパ腫の報告があることを考慮する必要がある。若年成人においては将来の破損・拘縮を想定し,その際の人工物の入れ替え,自家組織への変更も視野に入れた治療方針を考える必要がある1)。予防切除に伴う再建においては,多くの場合,両側手術となるため,人工物再建でも対称性を得やすく,その割合が高くなる4)。Mullerらの19報告をまとめた総説によれば,3,716例のリスク低減NSMのうち85%は人工物,15%は自家組織で再建されている6)

    人工物再建はエキスパンダーを挿入してスペースを確保した後にシリコンインプラントに入れ替える二期再建が標準的であるが,皮膚欠損が少ないため,切除と同時にシリコンインプラントを挿入する一期再建も選択肢となる7)。また,特に中年以降で大きく下垂のある乳房では固定術を併用する術式も検討される8)。人工物を留置する層は大胸筋下(dual—plane もしくはsubmuscular)が一般的1)で,近年,欧米では人工物の皮下留置が見直されている9)ものの,日本においてはガイドラインの推奨から外れている。自家組織のうち,穿通枝皮弁等の遊離皮弁再建をNSM と組み合わせる場合には切開線と吻合血管の検討が必要である。

    ❸ 乳房再建の合併症

    日本のリスク低減手術のみの大規模統計はないが,治療的切除を含む人工物再建については国および学会での登録制で管理されている。2018年の合併症全体は一次一期再建で12.0%となり,うち抜去に至ったのが2.2%,一次二期再建の一期目が11.7%(抜去2.7%),二期目が4.2%(抜去0.6%)と報告されている10)

    自家組織について,治療的切除を含む腹部皮弁再建のメタアナリシスを行ったManらは6報告のプール解析から皮弁全壊死率は深下腹壁動脈穿通枝皮弁(deep inferior epigastric perforator:DIEP)(n=1,920)で2.0%,遊離腹直筋皮弁(transverse rectus abdominus myocutaneous:TRAM)(n=3,165)で1.0%に生じ,腹壁弛緩はDIEPで3.1%,TRAMで5.9%に生じたと報告した11)

    リスク低減手術・再建に関する報告として,Freyらは1,212例のNSMを治療目的と予防目的で比較し,治療目的群は感染,インプラント喪失,再建失敗,および漿液腫の発生率がリスク低減手術群より有意に高く,乳房皮膚壊死,乳頭壊死の割合は同等とした12)。Yoshimuraらはわが国での10例をまとめ,Grade3以上の重篤な有害事象はなく,再建を伴うリスク低減手術が安全に実施できると報告した13)

    一方,腫瘍学的な局所・領域再発率について,前述のFreyらは治療的NSMでは2.0%,リスク低減NSMでは0.1%と報告した12)

    ❹ 患者のQOL

    Mobergらは自家組織再建と人工物再建の再建乳房に対する満足度を比較し,自家組織で満足度が高いとした4)。Kazzaziらは両側乳房切除術と乳房再建術を受けた患者を両側治療切除術群,両側リスク低減乳房切除術(bilateral risk—reducing mastectomy:BRRM)群,併用(片側治療切除術+CRRM)群に分類し,併用群をBRCA診断によりさらに分類し満足度を調べた。治療群,BRRM群,併用群の順でスコアが下がり,BRCA病的バリアントの併用群で最も低いとして,リスク低減手術を受ける患者にとって,術前の期待値の管理が重要であることを強調した14)。Salibianらは多職種によるカウンセリングによる包括的で継続的なサポートが必要であると述べている1)

    ❺ 費用

    2020年からHBOCに対するリスク低減手術として片側乳癌発症患者へのCRRM・乳房再建術と卵巣癌発症患者へのBRRM・乳房再建術は保険適用となっている。HBOCと診断されても乳癌・卵巣癌未発症の場合のRRM・乳房再建術は保険の適用外であり自費診療での実施となる。その場合は各医療機関での倫理審査委員会等で承認を受けたうえで実施する必要がある。

    ❻ RRSOとの関連

    現在RRSOは腹腔鏡で施行〔laparoscopic(Lap)—RRSO〕されることが多いが,腹部の遊離皮弁を用いた再建を同時または後日に検討している際には,ポート孔の位置等を事前に打ち合わせ,遊離皮弁の血管茎の損傷を回避することが必要になる。また腹部の遊離皮弁を用いた再建を伴うRRMを先行して行い,後日Lap—RRSOを検討する際には,事前に関係診療科合同のカンファレンスを施行しLap—RRSO施行に関するリスク評価や手術時期を考えることが望ましい。

  3. 3キーワード

    乳癌根治手術:BRCA,breast neoplasms,immediate reconstruction,cost,patient preference,complication,implant,patient satisfaction

    リスク低減手術:BRCA,risk reducting mastectomy,immediate reconstruction,cost,patient preference,complication,implant,patient satisfaction

  4. 4参考文献

    • 1) Salibian AA, Frey JD, Choi M, et al. BRCA mutations in the young, high—risk female population:genetic testing, management of prophylactic therapies, and implications for plastic surgeons. Plast Reconstr Surg. 2018;141(6):1341—50.[PMID:29794695]
    • 2) Boughey JC, Attai DJ, Chen SL, et al. Contralateral prophylactic mastectomy(CPM)consensus statement from the American Society of Breast Surgeons:data on cpm outcomes and risks. Ann Surg Oncol. 2016;23(10):3100—5.[PMID:27469117]
    • 3) Baildam AD. Current knowledge of risk reducing mastectomy:indications, techniques, results, benefits, harms. Breast. 2019;46:48—51.[PMID:31082761]
    • 4) Moberg IO, Schou Bredal I, Schneider MR, et al. Complications, risk factors, and patients—reported outcomes after skin-sparing mastectomy followed by breast reconstruction in women with BRCA mutations. J Plast Surg Hand Surg. 2018;52(4):234—9.[PMID:29741462]
    • 5) van Verschuer VM, Mureau MA, Gopie JP, et al. Patient satisfaction and nipple—areola sensitivity after bilateral prophylactic mastectomy and immediate implant breast reconstruction in a high breast cancer risk population:nipple—sparing mastectomy versus skin—sparing mastectomy. Ann Plast Surg. 2016;77(2):145—52.[PMID:26076217]
    • 6) Muller T, Baratte A, Bruant—Rodier C, et al. Oncological safety of nipple—sparing prophylactic mastectomy:a review of the literature on 3716 cases. Ann Chir Plast Esthet. 2018;63(3):e6—13.[PMID:29030030]
    • 7) van Verschuer VMT, Mureau MAM, Heemskerk—Gerritsen BAM, et al. Long—term outcomes of bilateral direct-to-implant breast reconstruction in women at high breast cancer risk. J Plast Surg Hand Surg. 2018;52(4):245—52.[PMID:29806795]
    • 8) Gunnarsson GL, Bille C, Reitsma LC, et al. Prophylactic Nipple—Sparing Mastectomy and Direct—to—Implant Reconstruction of the Large and Ptotic Breast:Is Preshaping of the Challenging Breast a Key to Success? Plast Reconstr Surg. 2017;140(3):449—54.[PMID:28841601]
    • 9) Casella D, Di Taranto G, Marcasciano M, Sordi S, Kothari A, Kovacs T, Lo Torto F, Cigna E, Ribuffo D, Calabrese C. Nipple-sparing bilateral prophylactic mastectomy and immediate reconstruction with TiLoop® Bra mesh in BRCA1/2 mutation carriers:A prospective study of long—term and patient reported outcomes using the BREAST—Q. Breast. 2018;39:8—13.[PMID:29455110]
    • 10) 日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会.2019年度 乳房再建用エキスパンダー/インフプラント年次報告と合併症について.
      http://jopbs.umin.jp/medical/guideline/docs/gappeisho2019.pdf
    • 11) Man LX, Selber JC, Serletti JM. Abdominal wall following free TRAM or DIEP flap reconstruction:a meta—analysis and critical review. Plast Reconstr Surg. 2009;124(3):752—64.[PMID:19342994]
    • 12) Frey JD, Salibian AA, Karp NS, Choi M. Comparing Therapeutic versus Prophylactic Nipple—Sparing Mastectomy:Does Indication Inform Oncologic and Reconstructive Outcomes? Plast Reconstr Surg. 2018;142(2):306—15.[PMID:29794639]
    • 13) Yoshimura A, Okumura S, Sawaki M, et al. Feasibility study of contralateral risk—reducing mastectomy with breast reconstruction for breast cancer patients with BRCA mutations in Japan. Breast Cancer. 2018;25(5):539—46.[PMID:29520501]
    • 14) Kazzazi F, Haggie R, Forouhi P, et al. A comparison of patient satisfaction(using the BREAST—Q questionnaire)with bilateral breast reconstruction following risk—reducing or therapeutic mastectomy. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2018;71(9):1324—31.[PMID:30025758]