Ⅱ-6 悪性黒色腫領域
BRCA2病的バリアントの保持は,悪性黒色腫発症リスクが上昇する可能性が示唆される。
BRCA病的バリアントの保持は,乳癌,卵巣癌以外の癌のリスクを上昇させる可能性が指摘されている。悪性黒色腫についても発症リスクの上昇の可能性が指摘されており,本FQでは,BRCA病的バリアントが悪性黒色腫発症リスクと関連があるかどうかについて検討した。
BRCA2病的バリアントが同定された173家系の3,728人を解析し,乳癌,卵巣癌以外の悪性腫瘍発生リスクを調査した報告では,悪性黒色腫について相対リスク2.58(95%CI:1.28—5.17)と報告されており,BRCA2病的バリアントとの関連が示唆されている。悪性黒色腫はINK4A(p16)に病的バリアントを有することで発症頻度が高くなることも記載されている1)。
630人の皮膚悪性黒色腫患者と3,700人の健常対照群を比較検討が行われた報告では,BRCA2p.N991D病的バリアントが悪性黒色腫発症リスクと関連していることが示されている(OR=1.8,P=0.002)2)。
268人のBRCA1病的バリアント保持家系と222人のBRCA2病的バリアント保持家系の乳癌,卵巣癌以外のがんの発生リスクを検討した報告では,BRCA2病的バリアント保持者においてブドウ膜黒色腫のリスクの増加が確認された〔RR:99.4(95%CI:11.1—359.8)〕3)。
BRCA2病的バリアントとの関連性を示唆する報告が多い一方で,BRCA1/2両者の病的バリアント保持者1,072人(BRCA1:613 例,BRCA2:459例)の追跡調査で有意差はないが,BRCA1病的バリアントを有する患者において悪性黒色腫の発生が多い傾向がみられたとの報告もある4)。
皮膚悪性黒色腫患者470人の腫瘍組織検体でスクリーニングを行った報告では,BRCA2病的バリアント保持症例は4例(0.85%)であった5)。
また,皮膚悪性黒色腫と診断されたユダヤ人患者92人中乳癌の既往がある患者14人に対し,病的バリアント(BRCA1:185delAG,5382insC,BRCA2:6174delT)スクリーニングを行った報告ではBRCAの病的バリアントは確認されなかった。また患者家族において遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)の特徴を持った患者もいなかった。このことから,皮膚悪性黒色腫患者において,BRCA1/2の病的バリアントスクリーニングは推奨しないとしている5)6)。
以上より,BRCA病的バリアント保持者は悪性黒色腫の発症リスクが上がる可能性があるが,まだ十分な根拠は不足しており議論の余地が残る。そのため現時点ではBRCA病的バリアント保持者に対する悪性黒色腫の積極的なサーベイランスは勧められない。また,わが国でのBRCA病的バリアント保持と悪性黒色腫との関連についての報告はない。悪性黒色腫においては白色人種と有色人種での臨床病型の割合が異なるため,人種差の視点からも今後の更なる検討が必要である。
hereditary breast and ovarian cancer,BRCA2,BRCA1,gene mutation,melanoma