Guidebook for Diagnosis and Treatment of Hreditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome 2017

CQ15.BRCA 変異保持者にMRI は推奨されるか?もしMRI が実施できない環境ではどのようなサーベイランスが望ましいか?

推奨グレード
B
25歳以上のBRCA 変異を有する女性には,年に1 回の乳房の造影MRI 検査が推奨される。
推奨グレード
C1
造影MRI が施行できない環境下においては,年に1 回のマンモグラフィ検査が現時点では推奨されているが,生命予後の改善効果は認められていない。J-START では,40歳代の比較的若年の女性に対して超音波検診を併用することにより,早期での乳癌の検知が可能との結果が報告されており,BRCA 変異保持者にも超音波検査が有用である可能性が示唆される。
背景・目的

BRCA 変異保持者が70歳までに乳癌に罹患する可能性は49~57%と高率である。MRI が有効なスクリーニングとして,乳癌死を減少させることができるのかどうかを検討した。

解 説

従来,一般の乳がん検診に広く用いられてきたマンモグラフィは,BRCA 変異保持者に対しては,病変検出率が高くないことが知られている。これは,BRCA 変異保持者の乳癌発症年齢が一般の乳癌よりも若く,高濃度乳房が多いことが原因の1 つと考えられている。血縁者に乳癌患者がいる高リスク群を対象としたマンモグラフィ,超音波検査,MRI の乳癌の検出率を比較した前向き多施設コホート(The EVA trial)では,マンモグラフィのみが5.4/1000,超音波検査のみが6.0/1000,マンモグラフィと超音波検査の組み合わせが7.7/1000 であるのに対して,MRI のみで14.9/1000 とMRI 単独での感度が圧倒的に良好であることが報告されている1)BRCA1 変異保持者を対象とした多施設共同研究では,94 病変のうち,MRI では88 病変(93.6%)が検出されたのに対して,マンモグラフィによって検出可能であった病変は48 病変(51.1%)であった2)。生存率の向上に寄与する可能性を示唆する報告もされてきている。1,909 人をリクルートし,半年ごとの視触診と1 年に1 回のマンモグラフィとMRI でサーベイランスした前向きのstudy では,358 人の生殖細胞系列変異保持者が参加して行われおり,マンモグラフィとMRI の浸潤癌検知率は33.3% vs. 79.5%であり,病変の良悪性を識別する能力も格段にMRI のほうが優れていたと報告している。つまり,浸潤癌の検知率に有意な差を認めていることから,間接的に生命予後改善効果への寄与が推測されている。さらに,これら変異保持者のうち乳癌を発症した患者の長期予後についても言及しており,遠隔転移無再発生存率および6 年時での全生存率がそれぞれ,83.9%,92.7%であったと報告している3)。乳癌罹患ハイリスク者を対象として,コントロール群を設定する介入試験を行うことは困難であり,単アームの設定での報告であるものの,MRI を併用したサーベイランス群の比較的良好な予後が報告されている。また,87人のBRCA2 変異保持者を対象として,MRI とマンモグラフィとのサーベイランスとしての効果を比較検討した研究では,MRI によるサーベイランス群の10 年生存率が100%であったのに対して,マンモグラフィによるサーベイランス群は85.5%,スクリーニングを行わなかった群は74.6%であり,生存率に有意差が認められたと報告している4)BRCA 変異保持者102 人を対象者として含む前向きコホートでは,サーベイランスしない群に比して,マンモグラフィのみによるサーベイランスでは10 年生存率に改善が認められず(73.7% vs. 87.7%),マンモグラフィにMRI が追加された場合に有意差をもって予後が改善されているという結果であった(95.3%)。ただし,マンモグラフィのみによるサーベイランスと,マンモグラフィ+MRI によるサーベイランスでは,有意差が認められなかった(P=0.075)5)
NCCNガイドライン(Genetic/Familial High-Risk assessment:Breast and Ovarian)などでは,マンモグラフィを併用したサーベイランスを1 年ごとに行うことが推奨されている。米国における疫学的な背景や乳癌のデータベースを参考に,最も経済的に効率の良いインターバルをコンピュータで算出した研究では,35~64 歳のBRCA 変異保持者に対して,1 年ごとのマンモグラフィとMRI との併用サーベイランスが最も効率的であると報告されている6)。25~34歳では,特にBRCA2 変異保持者での,乳癌発生頻度が少ないため,効率が悪くなると言及している。
MRI 単独によるサーベイランスがいいのか,他のモダリティとの併用がいいのかという点について,BRCA 変異保持者を含むハイリスク患者を対象に,マンモグラフィ,超音波検査,MRI の3 つのモダリティを使用して前向きにサーベイランスを行った単施設からの報告では,MRI とマンモグラフィの併用もしくはMRI とマンモグラフィ,超音波検査の併用によるサーベイランスが最も検知率が高かったとしている7)BRCA 変異保持者1,951 人を対象として,MRI によるサーベイランスにマンモグラフィを上乗せする効果があるかどうか調査した研究で,全変異保持者を対象とした解析ではマンモグラフィ追加によって感度の上昇は認められなかったものの,40歳以下のBRCA2 変異保持者では,3 分の1 がマンモグラフィのみで検知された乳癌であったと報告されている8)
MRI を施行できない状況下においては,例えばNCCN ガイドライン(Genetic/Familial High-Risk assessment:Breast and Ovarian)では,30歳以上の女性に対してはマンモグラフィを行うことが勧められている。マンモグラフィは電離放射線被曝を伴う検査方法であり,BRCA 変異保持者にとっては発がんのリスクを増加させる要因となる可能性があるため,若年者に安易に行うことは避けるべきであると考える。こちらの点については,CQ 14 を参照されたい。乳房に対する超音波検査は,欧米などのstudy ではあまり活用されない検査方法であるが,わが国から発信したエビデンスであるJ—START では,マンモグラフィ単独の検診よりも超音波検査併用の検診のほうが,早期の乳癌発見率が高かったことを報告している9)。このstudy にリクルートされたのは40歳代の女性であり,BRCA 変異保持者や40歳代以外の年齢者に対する有用性は確かめられていないが,超音波検査が高濃度乳房に対しても感度の高い検査であることを踏まえれば有用性がある可能性が高いと考えられる。
わが国においては,乳癌未発症者に対するMRI サーベイランスは,乳癌罹患ハイリスク者に対しても保険診療が認められていないため,BRCA 変異保持者であってもサーベイランスが定期的に行われていないケースが多いことが予想される。他国の報告を参考にしながら,サーベイランスを奨励していき,徐々にわが国の疫学を反映させた推奨度の高いサーベイランス方法を確立していかねばならない。

検索キーワード

PubMed でBRCA,breast neoplasms,MRI 等のキーワードを用いて登録文献を検索した。

参考にした二次資料

① National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian, ver1. 2017.

参考文献
  1. Kuhl C, Weigel S, Schrading S, et al. Prospective multicenter cohort study to refine management recommendations for women at elevated familial risk of breast cancer: the EVA trial. J Clin Oncol. 2010; 28(9): 1450-7. [PMID:20177029]
  2. Obdeijn IM, Winter-Warnars GA, Mann RM, et al. Should we screen BRCA1 mutation carriers only with MRI? A multicenter study. Breast Cancer Res Treat. 2014; 144(3): 577-82.[PMID:24567197]
  3. Kriege M, Brekelmans CT, Boetes C, et al; Magnetic Resonance Imaging Screening Study Group. Efficacy of MRI and mammography for breast-cancer screening in women with a familial or genetic predisposition. N Engl J Med. 2004; 351(5): 427-37.[PMID:15282350]
  4. Evans DG, Harkness EF, Howell A, et al. Intensive breast screening in BRCA2 mutation carriers is associated with reduced breast cancer specific and all cause mortality. Hered Cancer Clin Pract. 2016; 14: 8.[PMID:27087880]
  5. Evans DG, Kesavan N, Lim Y, et al; MARIBS Group. MRI breast screening in high-risk women: cancer detection and survival analysis. Breast Cancer Res Treat. 2014; 145(3): 663-72.[PMID:24687378]
  6. Plevritis SK, Kurian AW, Sigal BM, et al. Cost-effectiveness of screening BRCA1/2 mutation carriers with breast magnetic resonance imaging. JAMA. 2006; 295(20): 2374-84.[PMID:16720823]
  7. Riedl CC, Luft N, Bernhart C, et al. Triple-modality screening trial for familial breast cancer underlines the importance of magnetic resonance imaging and questions the role of mammography and ultrasound regardless of patient mutation status, age, and breast density. J Clin Oncol. 2015; 33(10): 1128-35.[PMID:25713430]
  8. Phi XA, Saadatmand S, De Bock GH, et al. Contribution of mammography to MRI screening in BRCA mutation carriers by BRCA status and age: individual patient data meta-analysis. Br J Cancer. 2016; 114(6): 631-7. [PMID:26908327]
  9. Ohuchi N, Suzuki A, Sobue T, et al; J-START investigator groups. Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive  ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti—cancer Randomized Tria(l J-START): a randomised controlled trial. Lancet. 2016; 387(10016): 341-8.[PMID:26547101]

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