Guidebook for Diagnosis and Treatment of Hreditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome 2017

CQ19.BRCA 変異保持者に対し,リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)の実施は推奨されるか?

推奨グレード
B
遺伝カウンセリング体制ならびに病理医の協力体制が整っている施設において,倫理委員会による審査を受けたうえで,婦人科腫瘍を専門とする医師が臨床遺伝専門医などの遺伝の専門家と連携してRRSO を行うことが推奨される。
背景・目的

BRCA 変異保持女性における生涯の卵巣癌発症リスクは高率である。そして卵巣癌に対する確実な早期発見法がなく,進行卵巣癌の予後は不良である。このためBRCA 変異保持者に対して卵巣癌の発症を予防する目的でリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が考案されている。そこでBRCA 変異保持者に対するRRSO の実施について検討する。

解 説

RRSO によって卵巣癌リスクが軽減することが多くの研究で立証されている1)~7)。BRCA 変異保持者を対象としたメタアナリシスで,RRSO 後の卵巣癌または卵管癌の発症リスクは79% 減少することが示された6)。さらに2,482 人のBRCA 変異保持者を対象とした前方視的多施設共同コホート研究で,RRSO は卵巣癌,卵管癌および腹膜癌を減少させるだけでなく,全死亡リスクを60% 減少させることが示された7)。したがって,RRSO は推奨される。
しかし,RRSO 後には0.5~4.3% の頻度で腹膜癌が発生することが報告されており1)~5)7),RRSO後もサーベイランスが必要と考えられる。またRRSO により浸潤性または上皮内の卵巣,卵管および腹膜癌が2.2~4.6% の頻度で発見されることが報告されており2)3)6)8),RRSO 時には腹腔洗浄液細胞診および,摘出された卵巣,卵管の詳細な病理組織学的検索が必要である。そのため摘出した検体の取り扱いについて十分に理解した病理医の協力体制が整っていることが必要である(二次資料①)。
RRSO の手技としては,卵巣近位部の卵巣提索を2 cm,子宮角までのすべての卵管,卵巣および卵管を覆うすべての腹膜,特に卵巣および/または卵巣と骨盤側壁との間にできた癒着の下の腹膜を切除することを推奨している(二次資料②)。
RRSO はBRCA 変異保持者の乳癌リスクを減少させることが報告されており2)4)7),メタアナリシスによりその減少効果は51% と報告されている6)。一方,近年のオランダHBOC 研究グループによる研究では,これまでに報告された研究についてバイアスを最小限にする方法で改めて解析した結果,RRSO によるBRCA 変異保持者に対する乳癌リスクの減少効果は認められなかった9)
さらに前方視的多施設共同コホート研究で,RRSO によりBRCA2 変異保持者の乳癌リスクは有意に減少するが,BRCA1 変異保持者の乳癌リスクは有意な減少が認められなかったと報告されており5),今後RRSO によるBRCA 変異保持者に対する乳癌リスクの減少効果についてはさらに検討を有する。
RRSO による外科的閉経は卵巣欠落症状としての更年期症状や脂質異常症や骨粗鬆症を早期に惹起することが懸念されるため,女性医学を専門とする者の関与が必要である(二次資料①)。
RRSO をどの時期に行うべきかに関しては,明確な結論は出ていないが,一般には35~40歳で出産が終了し次第施行することが推奨され(二次資料②),場合によってはRRSO 後にホルモン補充療法を行うことが考慮される(CQ25 参照)。
RRSO の実施に際しては,挙児希望などの社会的状況にも配慮する必要があり,臨床遺伝専門医などのがんの遺伝医療に精通した医療者と連携した遺伝カウンセリングのうえ,本人の意思に基づいて実施する。なお現時点でRRSO は各施設の倫理委員会などで承認を受けたうえで実施することが望ましい。また,現時点でわが国の医療制度の中では保険診療として行えないことにも留意する必要がある。

検索キーワード

Pubmed でBRCA,RRSO のキーワードを用いて検索し,システマティックレビューやガイドライン,臨床研究,RCT,研究デザインで絞り込みを行った。

参考にした二次資料

① 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の啓発および取り扱い検討小委員会;日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会.BRCA1 またはBRCA2 遺伝子変異保持者に対するリスク低減卵管卵巣摘出術について.日産婦誌. 2016; 68(6): 1332-34.
② NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, Genetic/Familial High—Risk Assessment: Breast and Ovarian Cervical Cancer Screening, ver2. 2017.

参考文献
  1. Kauff ND, Satagopan JM, Robson ME, et al. Risk-reducing salpingo-oophorectomy in women with a BRCA1 or BRCA2 mutation. N Engl J Med. 2002; 346(21): 1609-15.[PMID:12023992]
  2. Rebbeck TR, Lynch HT, Neuhausen SL, et al; Prevention and Observation of Surgical End Points Study Group.
    Prophylactic oophorectomy in carriers of BRCA1 or BRCA2 mutations. N Engl J Med. 2002; 346(21): 1616-22.[PMID:12023993]
  3. Finch A, Beiner M, Lubinski J, et al; Hereditary Ovarian Cancer Clinical Study Group. Salpingo-oophorectomy and the risk of ovarian, fallopian tube, and peritoneal cancers in women with a BRCA1 or BRCA2 Mutation. JAMA. 2006; 296(2): 185-92.[PMID:16835424]
  4. Domchek SM, Friebel TM, Neuhausen SL, et al. Mortality after bilateral salpingo-oophorectomy in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers: a prospective cohort study. Lancet Oncol. 2006; 7(3): 223-9.[PMID:16510331]
  5. Kauff ND, Domchek SM, Friebel TM, et al. Risk-reducing salpingo-oophorectomy for the prevention of BRCA1-and BRCA2-associated breast and gynecologic cancer: a multicenter, prospective study. J Clin Oncol. 2008; 26(8): 1331-7.[PMID:18268356]
  6. Rebbeck TR, Kauff ND, Domchek SM. Meta-analysis of risk reduction estimates associated with risk-reducing salpingo-oophorectomy in BRCA1 or BRCA2 mutation carriers. J Natl Cancer Inst. 2009; 101(2): 80-7.[PMID:19141781]
  7. Domchek SM, Friebel TM, Singer CF, et al. Association of risk-reducing surgery in BRCA1 or BRCA2 mutation carriers with cancer risk and mortality. JAMA. 2010; 304(9): 967-75.[PMID:20810374]
  8. Sherman ME, Piedmonte M, Mai PL, et al. Pathologic findings at risk-reducing salpingo-oophorectomy: primary results from Gynecologic Oncology Group Trial GOG-0199. J Clin Oncol. 2014; 32 (29): 3275-83.[PMID:25199754]
  9. Heemskerk-Gerritsen BA, Seynaeve C, van Asperen CJ, et al; Hereditary Breast and Ovarian Cancer Research Group Netherlands. Breast cancer risk after salpingo-oophorectomy in healthy BRCA1/2 mutation carriers:revisiting the evidence for risk reduction. J Natl Cancer Inst. 2015; 107(5).[PMID:25788320]

総論/各論 目次

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