Ⅱ-1 遺伝子診断・遺伝カウンセリング領域
VUSは現時点では病的意義が不明なバリアントであり,その結果を医学的管理方法の決定には利用できない。その場合の臨床的な対応は,本人の既往歴,家族歴,臨床的リスク因子等を考慮して診療関係者および当事者と話し合いのうえで検討する。VUSの解釈は将来修正される可能性があるため,継続的なフォローが推奨される。
遺伝学的検査の結果は,①遺伝性腫瘍の原因となる遺伝子の病的バリアント保持者,②発症リスクに関する意義が明らかになっていないVUSの保持者,③解析した遺伝子において病的バリアント・VUSが検出されない,の3つに大別することができる。①は診断された遺伝性腫瘍症候群に関するサーベイランスやリスク低減手術等の遺伝診療・がん診療が行われる。それに対し,②VUS保持者の場合,推奨される医学的管理方針等は十分に確立されているわけではない。また,現在,BRCA遺伝学的検査を受けた結果,半数以上の被検者で③病的バリアント・VUSが検出されず,これらのクライエントにおいても,その意義を明確に理解するための方法や検査後の医学的管理方針等は十分に確立されているわけではない。さらに,近年,BRCA1/2以外の乳癌や卵巣癌を伴う他の遺伝性腫瘍症候群の可能性を調べるMGPが臨床検査として使用可能になり,解析する遺伝子が増加するに伴いVUSの検出頻度も増加することが想定される。そこで,VUS保持者について現状ではどのように対応するべきかを検討した。
遺伝学的検査は,被検者から採取したDNA(主に血液中の有核細胞由来)を抽出し,目的遺伝子の塩基配列を決定することにより行われる。塩基配列が決定された後,代表的なリファレンス配列と被検者の塩基配列を比較し,バリアントを抽出する。そこで抽出されたバリアントの病的意義の解釈の判定が行われ,最終的に結果報告書が作成される。ほとんどの被検者でリファレンス配列と異なる塩基配列は複数検出されるが,多くは病的意義が認められない良性(benign)のバリアントである。Benignの場合,臨床検査会社から返却される結果報告書には個別のバリアントは記載されず,「病的バリアントが検出されず」という記載になる。一方で検出されたバリアントの意義が明確ではない場合,VUSと判断される。検出されたバリアントは病原性のエビデンスの強さで,pathogenic, likely pathogenic, likely benign, benign, VUS(variant of uncertain significance)の合計5グループに分類することが推奨されている1)。しかし,推奨される医学的管理は,pathogenicとlikely pathogenic, likely benign とbenignはそれぞれ一般臨床では同じ扱いがされるため,実質的にはpathogenic, VUS, benignの3つの分け方が臨床上,効率的である。
バリアントの解釈は上記のように分類されることが一般的であるが,検査結果報告書への記載方法については臨床検査会社で異なる。検査結果として「VUS」と記載されている場合もあるが,「病的バリアントは検出されなかった(陰性)」という項目とは別の欄に,「別途VUSが検出された」という記載の形式になっている検査結果報告書もあるため,VUSの記載方法については委託するラボの報告書の形式を確認しておくことが望ましい。
日本人におけるVUS保持率は,BRCA1/2のみの検査の場合6.5%と報告されている2)3)。また,MGPでは,複数の遺伝子を解析するため,30%前後でVUSが検出される4)5)。遺伝性腫瘍を疑った(92.8%がHBOCもしくはLynch(リンチ)症候群に関するNCCNガイドラインの検査基準を満たす)252,223症例を対象とした25遺伝子のMGPでは,28.7%に1つ以上のVUSが検出されたと報告されている4)。また,ヨーロッパにおいて主に乳癌,卵巣癌家族歴のある症例を対象にした36遺伝子のMGPでは,34.8%にVUSが検出されたと報告されている5)(遺伝 BQ6参照)。
検出されたバリアントの解釈は,ACMG/AMP*recommendation1)をベースに行われるが,臨床検査会社はそのうえで独自の方法6)により最終的に判断するため,検査会社により解釈に齟齬が生じる場合がある7)。
また,VUSの意義を明らかにするための研究が,これまでにも盛んに進められており,現在ではBRCA1/2のVUSを登録してリスク評価や臨床的重要性を理解するため国際的ネットワーク(evidence—based network for the interpretation of germline mutant alleles:ENIGMA)8)9)やデータベース(BRCA Share)10)が構築され活動している。したがって,VUSと解釈されていたバリアントがpathogenicもしくはbenignへと診断が変更される可能性が十分にある。これまでに報告された単一施設からのデータでは,遺伝学的検査(84%がMGP,14%はBRCA1/2のみの検査)の結果がVUSであった症例では,11.3%(30/266)の症例の解釈が再分類されたという報告がある(観察期間3.5 年)11)。この報告では,再分類された症例の97%はlikely benignへ,3%がlikely pathogenicへと修正されており,多くはbenign側への修正となっている。しかし,pathogenicへ修正される場合もあるため注意が必要である。
このようにバリアントの病的意義に関する研究によりデータベースは日々更新されており,医療機関内でデータベースの更新を確認するために,遺伝診療部門との連携が望ましい。また,解釈が修正された場合には,臨床検査会社から修正報告書が発行される場合がある。修正された報告内容は発端者のみならず血縁者にとっても重要な情報であるため,再度連絡を取れる(リコンタクト)体制を整えておく必要がある(遺伝BQ4参照)。
また,遺伝学的検査結果は施設内の関係者が将来にわたって参照できるよう,適切な管理のもとに電子カルテ上に保管する等の対応が必要である。
AMP:Association of Molecular Pathology
VUSは,先にも記載した通り,現時点では,乳癌・卵巣癌の発症リスク増加と関連するバリアントか,良性(benign)のバリアントかの意義が不明である。したがって,VUS保持者と診断された場合,その遺伝情報をサーベイランス等の医学的管理方針決定に利用することができないため,遺伝学的検査前と同じく,その患者自身の既往歴や家族歴,その他のリスク因子の情報を,2世代,3世代にわたり可能な限り収集し,それらの情報をもとに,遺伝性腫瘍症候群が疑われる程度に応じ,高い場合には遺伝性腫瘍と同程度の,低い場合には受診・検査頻度を減らす等,遺伝学的リスク評価に応じたサーベイランス計画を提案するよう推奨されている12)~14)。
前述の通り,将来的にVUSの解釈が再分類される可能性があるため,VUS保持者と診断された場合は,バリアントの解釈が修正されたとき,その患者に接触できるような仕組みを構築しておくことが推奨されている14)。また,VUS保持者と診断された患者が,遺伝カウンセリングを通してVUSの診断的意味を十分に理解しているかを調査した結果では,間違って理解している,あるいは理解が不十分なクライエントがいると報告15)されており,病的バリアントだけではなく,VUSの場合も十分な遺伝カウンセリングでの情報提供を行うことが重要である。
variants of uncertain significance,VUS,BRCA,HBOC,hereditary breast/ovarian cancer