JOHBOC 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 | 編

本ガイドラインで用いる
用語の解説

遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)
BRCA1あるいはBRCA2の生殖細胞系列病的バリアントに起因する乳癌,卵巣癌,前立腺癌,膵癌等の関連がんの易罹患性腫瘍症候群を指す。
BRCA遺伝学的検査
HBOCの診断のためにBRCA1およびBRCA2の生殖細胞系列の遺伝子バリアントを調べる検査を本ガイドラインでは「BRCA遺伝学的検査」と記載する。
バリアント
標準塩基配列と比較したときの塩基配列や構造の違い。従来,(病的)変異と呼ばれていたものは病的バリアントと称される。バリアントの中には病的意義があるもの,病的意義のないもの(多型),VUS(後述参照)等,幅広いものが含まれる。
病的バリアント(pathogenic variant)
日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2011年)による「分析的妥当性」「臨床的妥当性」が確立した検査で検出され,短縮型機能喪失バリアントもしくは公的データベースやACMGのガイドラインにおいて,pathogenicあるいはlikely pathogenicとされている病的なバリアントと判断できることを原則とする。ただし,公的データベースに登録された情報についても,false positiveである場合があるので,必要に応じて,臨床情報等を含めて総合的に検討する。
* ACMG:American College of Medical Genetics
病的バリアント保持者(pathogenic variant carrier)
「保因者」という用語は一般には常染色体劣性遺伝形式の疾患においてヘテロ接合でバリアントを保持して生涯発症に至らない人を指す場合に用いられ,「生涯疾患を発症しない」と誤解される可能性がある。HBOCをはじめとした遺伝性腫瘍は成人—高齢発症の場合もあり,誤解を避けるため「保因者」の使用を避ける傾向にある。
Germline Findings
全ゲノム解析,全エクソーム解析,がんゲノムプロファイリング検査等で同定された明らかな病的バリアントについて,本来の検査の目的であるものは「一次的所見」,本来の目的ではないが解析対象となっている遺伝子で特に生殖細胞系列と疑われる病的バリアントは「二次的所見」と呼ばれてきた。一方で「二次的」という言葉を用いることが適切かどうかという議論がある。本ガイドラインでは,がんゲノムプロファイリング検査で生殖細胞系列由来が同定あるいは疑われる病的バリアントをGermline Findingsと呼ぶ。
PGPV(presumed germline pathogenic variant)
生殖細胞系列由来であることが推定される病的バリアント。がんゲノム医療のように腫瘍組織のみを検体とした解析の結果,生殖細胞系列由来であることが推定される場合に用いられる。
リスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo—oophorectomy:RRSO)
事前評価で卵管・卵巣にがんの存在の可能性が少ないと判断した状況のもと,卵巣癌のがん発症リスク低減のために両側卵管・卵巣を摘出する術式を指す。
リスク低減乳房切除術(risk reducing mastectomy:RRM)
事前評価で乳房にがんの存在がないと判断された状況で,乳癌の発症リスク低減のために乳房を切除する術式を指す。片側の乳癌術後に対側の乳房を切除する対側リスク低減乳房切除術(contralateral risk reducing mastectomy:CRRM)および乳癌の未発症者が両側の乳房を切除する両側リスク低減乳房切除術(bilateral risk reducing mastectomy:BRRM)がある。
サーベイランス
ここでは,遺伝性腫瘍関連遺伝子の病的バリアント保持者に対し,がんのハイリスク臓器に対してきめ細かく計画的に検査を行うためのがん予防策を指す。対策型の検診とは概念が異なる。
クライエント
ここでは,遺伝カウンセリングの来談者を指す。遺伝学的検査未施行者やがんの未発症者を含めた血縁者,家族等の関係者も包括する。
Variant of uncertain significance(VUS)
遺伝学的検査において,標準塩基配列とは異なっているが病的意義が不明または確定していないバリアント。
浸透率(penetrance)
ある年齢までに表現型(観察可能な特徴や形質)が出現する率。
認定遺伝カウンセラー
非医師の臨床遺伝の専門家として,日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で運営する制度委員会が認定する資格。認定試験を受けるには,遺伝カウンセラー認定養成課程を設置した大学院を修了する必要がある。詳細は制度委員会ホームページを参照(http://plaza.umin.ac.jp/~GC/)。なお,「認定遺伝カウンセラー」は商標登録されている。