Ⅱ-4 前立腺癌領域
前立腺癌患者におけるBRCA遺伝学的検査は,以下の条件のいずれかを満たす症例に関して推奨される。
BRCA病的バリアントは,乳癌・卵巣癌のみならず前立腺癌のリスクとなることも知られている1)。前立腺癌症例における遺伝学的検査の有用性を示すエビデンスは乏しいが,プレシジョン・メディシンの概念が広がるにつれて注目を集めている。ここでは,前立腺癌症例に対するBRCA遺伝学的検査の適応について検討した。
転移性前立腺癌患者の12~17%にDNA修復遺伝子等の生殖細胞系列病的バリアントを認めており,BRCA2の病的バリアントが最も頻度が高く,BRCA1と合わせると約6%である2)。複数の観察研究において,前立腺癌家族歴,グリソンスコア4+4または4+5以上,導管癌/導管内浸潤癌,T3a以上の局所進行癌,遠隔転移症例ではBRCA1あるいはBRCA2をはじめとするDNA修復遺伝子の病的バリアントの頻度が高い傾向にあった3)~8)。また,65歳未満で発症した前立腺癌症例でBRCA2の病的バリアント保持率が高かったとの報告もある9)。DNA修復遺伝子の病的バリアントを有する前立腺癌症例は去勢抵抗性前立腺癌(castration—resistant prostate cancer:CRPC)進展までの期間が有意に短いという報告もあることから(6.3 vs. 13.2カ月,HR3.73,P<0.001)10),アンドロゲン除去療法の奏効期間が短い症例はBRCA遺伝学的検査がオプションとして考慮される。前述の観察研究においてBRCA以外にATM,NBN,TP53の他,MSH2を始めとするミスマッチ修復(mismatch repair:MMR)遺伝子の病的バリアント保持者もハイリスク群に含まれており,BRCA以外の遺伝子パネルによる検査も考慮されることは付記しておく。
NCCN前立腺癌ガイドライン11)ではT3a以上,グリソンスコア4+4以上,PSA20ng/mL超のいずれかを満たす高リスク群,所属リンパ節または遠隔転移症例,BRCA1あるいはBRCA2病的バリアント,MMR遺伝子病的バリアントの家族歴を有する症例において遺伝学的検査を推奨している。60歳未満で中リスク以上の前立腺癌と診断された,あるいは前立腺癌でがん死した近親者が複数いるという家族歴を有する場合にも遺伝学的検査が推奨されている。
また,Philadelphia Prostate Cancer Consensus Conference 2019において前立腺癌患者における生殖細胞系列病的バリアントの遺伝学的検査について協議されている12)。薬物療法の耐性の有無に限らない転移性前立腺癌の患者や,60歳未満で中リスク以上の前立腺癌と診断された,あるいは前立腺癌でがん死した,転移性前立腺癌と診断された,第一度近親者が1人もしくは第二度近親者が複数いる,という家族歴を有する場合にもBRCAやMMR遺伝学的検査が推奨されている。血縁者にHBOC/Lynch(リンチ)症候群関連の発癌を2例以上認める例ではBRCAやMMR遺伝学的検査が考慮されるとしている。グリソンスコア4+4以上,前立腺導管癌もしくは導管内浸潤癌の病理学的因子を含む前立腺癌,臨床病期がT3a以上の局所進行癌ではBRCAやMMR遺伝学的検査が考慮されると記載されている。
なお,近年標準治療終了後にわが国において2019年に適応となった腫瘍組織による遺伝子パネル検査において,BRCA病的バリアント保持を指摘され,二次的所見として生殖細胞系列病的バリアント保持が疑われる症例においては,ポリ(ADP‒リボース)ポリメラーゼ〔poly(ADP‒ribose)polymerase:PARP〕阻害薬のためのコンパニオン診断としては必須ではないものの(前立腺癌FQ2参照),患者や認定遺伝カウンセラーと相談のうえで,遺伝学的検査が推奨される。
なお,家族歴の聴取という点では,前立腺癌のみならず乳癌や卵巣癌についても念頭に置くことは追記しておきたい。
prostate cancer,BRCA2,BRCA1,ATM,germline testing,germline mutation,Family history,Lynch mutation,metastatic prostate cancer,high risk