Guidebook for Diagnosis and Treatment of Hreditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome 2017

CQ6.BRCA 遺伝学的検査によって,変異陰性もしくはVUS の結果が得られた場合はどのように対応すべきか?

  VUS は現時点では病的意義が不明な変異であり,その臨床的な対応は診療関係者で協議したうえで検討する。
背景・目的

BRCA 遺伝学的検査は,臨床診療の場で家族性乳癌および卵巣癌を疑う患者を拾い上げ,遺伝診療および遺伝カウンセリングを行う過程で,HBOC の検査基準に照らし合わせ選択された遺伝学的検査の適切な候補者を対象に行われるものである。その中で,発端者に対するBRCA 遺伝学的検査の結果は,①HBOC の原因となる遺伝子変異の保持者,②発症リスクに関する意義が明らかになっていないVUS(variants of uncertain significance)の保持者,③HBOC の原因となる遺伝子変異・VUS をもたない,の3 つに大別することができる。①はHBOC と診断され,リスク低減手術やサーベイランスなどHBOC に対する遺伝診療・がん診療が行われる。それに対し,②VUS 保持者の場合,患者がVUS の意義を明確に理解するための方法や検査後の医学的管理方針などは十分に確立されているわけではない。また,現在,BRCA 遺伝学的検査を受ける半数以上は,③HBOC の原因となる遺伝子変異・VUS をもたない患者であり,これらの患者においても,その意義を明確に理解するための方法や検査後の医学的管理方針などは十分に確立されているわけではない。さらに,他の遺伝性乳癌や卵巣癌を伴う症候群の可能性を調べるマルチ遺伝子パネル検査の使用が可能になり,どのような場合にマルチ遺伝子パネル検査を検討するべきかという問題が浮上してきた。そこで,VUS 保持者やHBOC の原因となる遺伝子変異・VUS をもたない場合,現状ではどのように対応するべきかを検討した。

解 説

これまで,わが国では,HBOC の遺伝学的検査として臨床診断に使用できるBRCA 遺伝学的検査は,1 社からの提供に限定されていた。そのため,遺伝学的検査で検出された遺伝子バリアントやその結果の解釈が,検査実施施設によって異なるといった問題は,ほぼ発生してこなかった。しかし,今後,BRCA 遺伝学的検査は複数の会社を利用することが可能になり,さらに医療施設自体が検査を行うことも可能となることから,検査費用の低下が期待される一方で,複数の実施施設を通して,検査精度を高度に維持し検出された遺伝子バリアントの解釈を統一する取り組みが必要となる。現在,わが国では,BRCA 遺伝学的検査は,次世代シーケンス技術でBRCA1BRCA2 のスプライス部位のイントロン側を少し含むすべてのエクソンを解析する検査と,MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法でBRCAを含む数十Mbp に及ぶ広いDNA 領域の変化(特にDNA 再構成)を解析する検査を併せて行うことが標準的である。その遺伝学的検査の結果は,NCCN ガイドラインでは真の陽性(True-positive),意義不明のバリアント(Inconclusive),変化認めず(Indeterminate),真の陰性(True-negative)の4 種類に分けられている(表1)。その中で,真の陰性(True-negative)は,未発症者を対象とし,その家系の他の一員で確認された原因となる遺伝子バリアントを調べた結果,その未発症者には認められずHBOC ではないと診断された場合で,一般集団と同じ対応でよいとするものである。発端者あるいはその家系の中で最初に検査を受ける患者を対象としたBRCA 遺伝学的検査の結果は,真の陽性(True-positive),意義不明のバリアント(variants of unknown significance),変化認めず(Indeterminate)に分けられる。しかし,現在,遺伝診療の場では,表1・結果2 の,それぞれPathogenic,VUS,Benign という呼び方が普及している。また,ACMG などでは2)3),エビデンスの強さでPathogenic をPathogenic とLikely pathogenic に,Benign をLikely benign とBenignに分け,Uncertain significance を加えて合計5 グループの分類を提唱している。しかし,推奨されるサーベイランス方針は,Pathogenic とLikely pathogenic,Likely benign とBenign はそれぞれ同じであるため,実質的にはPathogenic,VUS,Benign の3 つの分け方が臨床上,効率的である。

表1 BRCA 遺伝学的検査結果およびその説明

結果11) 結果22) 説明1)
真の陽性
(True-positive)
Pathogenic HBOC の原因となる遺伝子変異の保持者
意義不明のバリアント
variants of unknown significance
(Inconclusive)
VUS(variants of uncertain significance) 現在,発症リスクに関する意義が明らかになっていないバリアントの保持者
変化認めず
(Indeterminate)
Benign HBOC の原因となる遺伝子変異・VUS をもたない
真の陰性
(True-negative)
Negative 家系の他の一員で確認された原因となる遺伝子変異をもたない

1.VUS 保持者と診断された場合の対応

VUS は,先にも記載した通り,現時点では,乳癌・卵巣癌の発症リスク増加と関連する変異か良性(benign)のバリアントか不明である。したがって,VUS 保持者と診断された場合,その遺伝情報をサーベイランスなどの医学的管理方針決定に利用することができないため,遺伝学的検査前と同じく,その患者自身の既往歴や家族歴,その他のリスク因子の情報を,2 世代,3 世代にわたり可能な限り収集し,それらの情報を基盤にHBOC が疑われる程度に応じ,強く疑われる場合にはHBOC と同程度の,弱い場合には受診・検査頻度を減らすなど,遺伝学的/家族性リスク評価に応じたサーベイランス計画を提案するよう推奨されている1)3)4)。さらに,VUS の意義を明らかにするための研究が,これまでにも盛んに進められ3)5),また現在では,BRCA のVUS を登録してリスク評価や臨床的重要性を理解するため国際的ネットワーク(evidence-based network for the interpretation of germline mutant alleles:ENIGMA)6)7)やデータベース(BRCA ShareTM)8)が構築され活動している。したがって,VUS と理解されていたバリアントがPathogenicまたはBenign へと診断が変更される可能性が十分にある。そこで,VUS 保持者と診断された場合の重要な更なる点は,このようにバリアントの解釈が変化したとき,その患者に接触できるような仕組みを作成しておくことが推奨されている4)。また,VUS 保持者と診断された患者が,遺伝カウンセリングを通してVUS の診断的意味を十分に理解しているかを調査した結果では,間違って理解している,あるいは理解が不十分な遺伝カウンセリングの受診者が存在することが報告9)されており,このような状況に対する策を取ることも重要である。

2.変異陰性(benign)と診断された場合の対応

発端者あるいは家系の中で初めて検査を受ける人を対象としたBRCA 遺伝学的検査において,BRCA の原因となる遺伝子変異およびVUS がともに検出されなかった場合,変異陰性,または,Benign と診断される。この診断は「遺伝性でない」ことを意味するものではなく,本人の既往歴や家族歴,臨床的リスク因子の情報を十分に収集し,それをもとにサーベイランス案を提案することが推奨されている3)4)。また,このような患者において,既往歴・家族歴から遺伝性乳癌または卵巣癌を含むHBOC 以外の遺伝性腫瘍症候群を疑う場合には,単一の表現型あるいは複数の表現型に関連する一連の遺伝子を同時に解析するマルチ遺伝子パネル検査が,一定の効果を上げる9)。また,VUS 保持者と診断された場合でも,その既往歴・家族歴から遺伝性乳癌または卵巣癌を含むHBOC 以外の遺伝性腫瘍症候群を疑う場合には,マルチ遺伝子パネル検査を考慮することもできる。マルチ遺伝子パネル検査の詳細については CQ 4 を参照のこと。既往歴・家族歴が認められず,遺伝的要因の寄与度が少ないと判断される場合は,一般集団に近いサーベイランス法を提案する。さらに,変異陰性,または,Benign と診断された場合も,その意義を十分に理解していない患者が存在する調査結果が報告されており10),そのような状況の対応策も重要である。

検索キーワード

PubMed でBRCA,HBOC,VUS,Genetic Services 等のキーワードで検索した。さらにハンドサーチで重要な文献を追加した。

参考文献
  1. National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian, ver1. 2017.
  2. Richards S, Aziz N, Bale S, et al; ACMG Laboratory Quality Assurance Committee. Standards and guidelines for the interpretation of sequence variants: a joint consensus recommendation of the American College of Medical Genetics and Genomics and the Association for Molecular Pathology. Genet Med. 2015; 17(5): 405-24. [PMID:25741868]
  3. Lindor NM, Goldgar DE, Tavtigian SV, et al. BRCA1/2 sequence variants of uncertain significance: a primer for providers to assist in discussions and in medical management. Oncologist. 2013; 18(5): 518-24. [PMID:23615697]
  4. Euhus D. Genetic testing today. Ann Surg Oncol. 2014; 21(10): 3209-15. [PMID:25029991]
  5. Culver JO, Brinkerhoff CD, Clague J, et al. Variants of uncertain significance in BRCA testing: evaluation of surgical decisions, risk perception, and cancer distress. Clin Genet. 2013; 84(5): 464-72. [PMID:23323793]
  6. Eccles DM, Mitchell G, Monteiro AN, et al; ENIGMA Clinical Working Group. BRCA1 and BRCA2 genetic testing pitfalls and recommendations for managing variants of uncertain clinical significance. Ann Oncol. 2015; 26(10): 2057-65 [PMID:26153499]
  7. Spurdle AB, Healey S, Devereau A et al; ENIGMA. ENIGMA-evidence-based network for the interpretation of germline mutant alleles: an international initiative to evaluate risk and clinical significance associated with sequence variation in BRCA1 and BRCA2 genes. Hum Mutat. 2012; 33(1): 2-7. [PMID:21990146]
  8. Béroud C, Letovsky SI, Braastad CD, et al; Laboratory Corporation of America Variant Classification Group, et al. BRCA Share: A Collection of Clinical BRCA Gene Variants. Hum Mutat. 2016; 37(12): 1318-1328. [PMID:27633797]
  9. Easton DF, Pharoah PD, Antoniou AC, et al. Gene-panel sequencing and the prediction of breast-cancer risk. N Engl J Med. 2015; 22(3): 2243-57[. PMID:26014596]
  10. Richter S, Haroun I, Graham TC, et al. Variants of unknown significance in BRCA testing: impact on risk perception, worry, prevention and counseling. Ann Oncol. 2013; 24 Suppl 8: viii69-viii74. [PMID:24131974]

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