Guidebook for Diagnosis and Treatment of Hreditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome 2017

CQ27.男性のBRCA 変異保持者に発生した前立腺癌に積極的な治療は勧められるか?

推奨グレード
C1
BRCA 変異を伴う前立腺癌は予後不良である。早期発見例では監視療法を行うことなく,積極的な治療介入が望まれる。転移を伴う症例に対して,現在PARP 阻害薬の臨床試験が進行中である。

■ 推奨グレードを決めるにあたって

通常の前立腺癌とは異なることを認識し,早期発見例では監視療法を行うことなく,積極的な治療介入が望まれる。特にBRCA2 変異を伴う患者は予後不良である。転移を伴う症例では,シスプラチンを中心とした抗がん化学療法あるいはPARP 阻害薬(本邦未承認)による治療が期待される。海外では多数例での治療成績が報告されているが,日本での治療例については報告がなく,推奨グレードはC1 とした。

解 説

BRCA 変異を有する男性は前立腺癌を発症するリスクが高いだけでなく,変異を有さない前立腺癌患者に比べると進展が早い。病理組織学的にはグリソンスコアが高く(8 以上)1),リンパ節転移の頻度が高く,予後不良である2)BRCA 変異の検索は悪性度が高く予後不良な前立腺癌であることのバイオマーカーであるという解釈も成り立つ。特にBRCA2 の変異では比較的若年発症が多く,病期が進行して診断され,悪性度も高く,生存期間の中央値は2.1 年に過ぎない3)。米国におけるBRCA2 変異を有する家系の前立腺癌患者182 人とBRCA1 変異を有する家系の前立腺癌患者119 人のコホートでは,前者の全生存期間の中央値は4.0 年,後者では8.0 年であった。BRCA2 変異を有する前立腺癌の予後は極端に悪いことがわかる。グリソンスコアと病期を調整して比較しても予後は不良であり,病理的な背景因子では説明できない4)。近年,前立腺癌の組織型としてintraductal carcinoma of the prostate(IDC-P)が注目されている。IDC-P は予後不良であり,BRCA2 変異を有する前立腺癌がこの組織型であることが多いとされる5)。IDC-P の組織型が優位であった場合にBRCA2 変異の有無を検索するアプローチを今後検討して行くことも考えられる。
前立腺癌全摘除術が施行されたハイリスク前立腺癌1,090 例を対象とし,DNA 修復経路(DNAdamage response:DDR)に関連する遺伝子発現プロファイルを調べ,BRCA を含むDDR 経路の制御異常を伴う症例では,有意に予後が悪いことが報告されている6)BRCA ががん細胞生物学的に有意に作用するという広い意味において,DDR 経路に着目することで,今後,ハイリスク前立腺癌の層別化による治療選択が議論されると考えられる。
以上より,通常の前立腺癌とは異なることを認識し,早期発見例では監視療法を行うことなく,積極的な治療介入が望まれる。転移を伴う症例では,シスプラチンを中心とした抗がん化学療法7)あるいはPARP 阻害薬(本邦未承認)による治療を考慮すべきものと考えられる。ドセタキセル治療後の転移性去勢抵抗性前立腺癌でDNA 修復遺伝子の異常を伴う患者を対象としたPARP阻害薬オラパリブの第Ⅱ相臨床試験では49 例が遺伝子解析で評価可能であり,16 例でDNA 修復遺伝子の変異を認め,このうち14 例でオラパリブに反応がみられた。この14 例中7 例はBRCA2 の体細胞変異が確認されており,そのうち3 例は生殖細胞系列変異が確認されている8)

検索キーワード

検索はPubMed にて,BRCA,prostate cancer,clinical feature or pathological feature or outcome(prognosis),のキーワードを用いて行った。抽出された60 件のうち,8 件を採用して検討を行った。

参考文献
  1. Narod SA, Neuhausen S, Vichodez G, et al; Hereditary Breast Cancer Study Group. Rapid progression of prostate cancer in men with a BRCA2 mutation. Br J Cancer. 2008; 99(2): 371-4.[PMID:18577985]
  2. Tryggvadóttir L, Vidarsdóttir L, Thorgeirsson T, et al. Prostate cancer progression and survival in BRCA2
    mutation carriers. J Natl Cancer Inst. 2007; 99(12): 929-35.[PMID:17565157]
  3. Mitra A, Fisher C, Foster CS, et al; IMPACT and EMBRACE Collaborators. Prostate cancer in male BRCA1 and BRCA2 mutation carriers has a more aggressive phenotype. Br J Cancer. 2008; 98(2): 502-7.[PMID:18182994]
  4. Euhus DM, Robinson L. Genetic predisposition syndromes and their management. Surg Clin North Am. 2013; 93(2): 341-62.[PMID:23464690]
  5. Risbridger GP, Taylor RA, Clouston D, et al. Patient-derived xenografts reveal that intraductal carcinoma of the prostate is a prominent pathology in BRCA2 mutation carriers with prostate cancer and correlates with poor prognosis. Eur Urol. 2015; 67(3): 496-503.[PMID:25154392]
  6. Evans JR, Zhao SG, Chang SL, et al. Patient-Level DNA Damage and Repair Pathway Profiles and Prognosis After Prostatectomy for High-Risk Prostate Cancer. JAMA Oncol. 2016; 2(4): 471-80.[PMID:26746117]
  7. Cheng HH, Pritchard CC, Boyd T, et al. Biallelic Inactivation of BRCA2 in Platinum—sensitive Metastatic Castration—resistant Prostate Cancer. Eur Urol. 2016; 69(6): 992-5.[PMID:26724258]
  8. Mateo J, Carreira S, Sandhu S, et al. DNA-Repair Defects and Olaparib in Metastatic Prostate Cancer. N Engl J Med. 2015; 373 (18): 1697-708.[PMID:26510020]

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