Guidebook for Diagnosis and Treatment of Hreditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome 2017

CQ28.BRCA 変異保持者における禁煙,食生活など生活習慣の改善に関するエビデンスはあるか?

■ 要旨

 全体としてBRCA 変異保持者を対象に乳癌のリスク要因を検討した研究は少なく,対象者数も少ないことから,解釈に限界があるものの,体重・肥満度(体重増加ありでリスク増加),身体活動(活動度が高い群でリスク減少),経口避妊薬の使用(使用者でリスク増加),授乳歴(ありでリスク減少)については,一般集団を対象としたエビデンスの評価結果に矛盾しない結果であった。一方,アルコール摂取(摂取群でリスク減少)や初産年齢(遅い群でリスク減少)は,一般集団を対象とした研究結果と異なる可能性が示唆され,また喫煙や出産歴は,結果が一致していないことから評価は困難であった。ただし,アルコール摂取および喫煙については乳癌以外の疾病予防も考慮して,「節度のある飲酒」,「タバコは吸わない」ということが大切である。

背景・目的

 一般集団を対象とした疫学研究からのエビデンスの蓄積とその評価により,アルコールの摂取を控え,閉経後の肥満を避けるために体重を管理し,身体活動量を増すことなどが,乳癌予防には重要であることが示されている。BRCA 変異保持者(特にBRCA1)における乳癌はホルモン受容体やHER2 が陰性のものが多く,ホルモン受容体の陽性と陰性ではリスク要因が異なることが指摘されていることを考慮すると,BRCA 変異保持者のリスク要因は一般集団のものと異なる可能性がある。しかし,BRCA 変異保持者を対象に乳癌のリスク要因を検討した疫学研究は少なく,系統的な評価も十分行われていない。そこで,本CQ では,特に変容可能な生活習慣に関する乳癌のリスク要因として,体重・肥満度,身体活動,アルコール摂取,喫煙を取り上げ,さらに生殖に関連する要因として,経口避妊薬,出産歴,初産年齢,授乳について,現状のエビデンスを整理し,解説を加えた1)~4)。また一般集団におけるリスク要因との違いを考察する際の参考として,これらの要因について日本乳癌学会の診療ガイドラインにおけるエビデンスグレードを表1 にまとめた。

解 説

 各項目について3~8 件程度の報告があったが,その多くは,遺伝性腫瘍を扱う医療機関においてBRCA の遺伝学的検査が実施され,変異保持者として登録された患者を対象としている。その中で,乳癌の発症例に未発症例をマッチングして構築した症例対照研究,あるいは後向きあるいは前向きコホート研究のデザインによる変異保持者コホートに基づく解析が行われていた。このように調査対象者の条件として遺伝学的検査が必須であるため,対象者の特性が検査を受ける理由により影響を受けている可能性は否定できない。また発症例と未発症例を対象とした症例対照研究の結果については,思い出しバイアスや選択バイアスの影響を考慮する必要がある。その他,発症例を対象にした場合には,その予後に関連する要因の影響,つまり生存バイアスも考慮する必要がある。したがって,結果の解釈のうえでは,このようなバイアスの影響を考慮することが重要である。
 全般的にサンプルサイズが小さい研究が多く,それを克服するために多国間の多施設共同研究も実施されている。また変異保持者の登録数の増加に伴う再解析の結果も報告されており,先行研究の間で対象者が重複している研究があることに注意が必要である。その他,今回の検索では日本人の変異保持者を対象とした研究は見つからず,主に欧米人を対象とした研究結果に基づく解説である点は注意が必要である。現状のエビデンスと解釈のまとめを表2 に示したが,上記のような注意点を考慮して,慎重に受け止めることが肝要である。

表1 日本乳癌学会の診療ガイドラインにおけるエビデンスグレードのまとめ

要 因 エビデンスグレード
体重・肥満度 閉経前 可能性あり
閉経後 確 実
身体活動 閉経前 証拠不十分
閉経後 ほぼ確実
アルコール摂取 ほぼ確実
喫煙 ほぼ確実
経口避妊薬 可能性あり
出産歴確 
初産年齢確 
授乳確 

表2 BRCA 変異保持者における現状のエビデンスと解釈のまとめ

要因 報告数 結果のまとめ 解釈(一般集団における結果との比較)
体重・肥満度 体重増加ありでリスク増加を示唆する結果あり 矛盾しない結果
身体活動 活動度が高い群でリスク減少を示唆する結果あり 矛盾しない結果
アルコール摂取 摂取群でリスク減少を示唆する結果あり 異なる可能性
喫煙 結果が一致しない 解釈は困難
経口避妊薬 使用者でリスク増加を示唆する結果あり 矛盾しない結果
出産歴 結果が一致しない 解釈は困難
初産年齢 遅い群でリスク減少を示唆する結果あり 異なる可能性
授乳 ありでリスク減少を示唆する結果あり 矛盾しない結果

1.体重・肥満度

 体重・body mass index(BMI)に関しては5 件の報告があった。初期の小規模な研究からは,BMI との間に関連がみられないという結果5),初経時あるいは21 歳時点で健康的な体重であった群の乳癌罹患年齢は,過体重・肥満の群に比べて有意に遅いという結果6)が報告されている。現時点では最大規模の症例数(1,073 例)を含む多国間の多施設共同の症例対照研究では,18 歳から30 歳の間の体重変化と乳癌リスクとの間の関連を検討し,体重変化が小さい群に比べて,減少した群では有意なリスク減少が観察された7)。この関連は,特に30 歳から40 歳以下で診断された症例とBRCA1 変異保持者の群において有意な結果であった。また対象者全体では,体重増加との間に有意な関連は観察されなかったが,BRCA1 変異保持者の中で2 人以上の出産歴がある人では,体重増加がリスク増加と有意に関連していた。その後,フランス系カナダ人を対象にした症例対照研究から,18 歳または30 歳からの体重増加は乳癌の有意なリスク増加と関連していることが報告された8)。またオランダのBRCA 変異保持者コホート研究では,閉経前の乳癌との間には関連はみられなかった。一方,閉経後についてはBMI および体重増加との間に有意ではないが正の関連がみられ,また体重が72 kg 未満の群に比べ,それ以上の群では有意なリスク増加が観察された9)
 World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research(WCRF/AICR)の報告書によると,閉経後の肥満・腹部肥満・成人になってからの体重増加はリスク要因であり,一方,閉経前の肥満は予防要因という評価である。これは主に欧米人を対象とした疫学研究のエビデンスに基づいた国際的な評価であるが,日本人のエビデンスに基づく評価については,国立がん研究センター研究開発費による研究班「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」によると(http://epi.ncc.go.jp/cgi—bin/cms/public/index。cgi/nccepi/can_prev/outcome/index),閉経後の肥満は「確実」なリスク要因,閉経前の肥満はリスク要因として「可能性あり」という評価であり,閉経前は国際的評価と逆になっている。これは日本人を対象とした8 つのコホート研究からなるプール解析の閉経前を対象にした解析において,BMI が30 以上の群で有意なリスク増加を観察した点を考慮したことによる。日本乳癌学会の診療ガイドラインにおいても同様の評価となっている。
 このような一般集団を対象としたエビデンスの評価結果を踏まえ,BRCA 変異保持者を対象にしたエビデンスを見直すと,研究数が少なく,閉経前後やBRCA1 とBRCA2 の変異による違いなどの評価は困難であるが,全体として若いころの体重管理,特に体重増加に気をつけることが,その後の乳癌リスクの増加を避けるうえで重要と考えられる。

2.身体活動

 身体活動に関しては3 件の報告がある。1 つ目は,10 代に運動をしていない群に比べ,していた群の乳癌罹患年齢は有意に遅いという結果である6)。フランス系カナダ人を対象にした症例対照研究では,身体活動度との間に関連はみられなかったが8),オランダのBRCA 変異保持者コホート研究では,身体活動度が高い群においてリスク減少が観察され,特に30 歳以前の身体活動において有意なリスク減少がみられた10)
 身体活動は予防要因として,WRCF/AICR の報告書では,閉経前が「可能性あり」,閉経後は「ほぼ確実」な要因と評価されている。また国立がん研究センターの研究班は予防要因として「可能性あり」と評価しており,また日本乳癌学会の診療ガイドラインでは閉経前が「証拠不十分」,閉経後は「ほぼ確実」と評価されている。 BRCA 変異保持者を対象にしたエビデンスは3 件と少ないが,そのうち2 件が「リスク減少」を示唆していることから,現時点では一般集団を対象としたエビデンスの評価結果と同様と解釈できると考える。

3.アルコール摂取

 アルコール摂取に関しては4 件の報告がある。フランス系カナダ人を対象にした症例対照研究では,アルコール摂取との間に関連はみられなかった8)。50 歳未満を対象にした多国間の多施設共同の症例対照研究では,BRCA1 変異保持者の中では,アルコール摂取との間に関連はみられなかったが,BRCA2 変異保持者の解析において,アルコール摂取群での有意なリスク減少が観察された11)。現時点で最大規模の症例数(1,925 例)を含む多国間の多施設共同の症例対照研究では,BRCA1 変異保持者の解析において,アルコール摂取群での有意なリスク減少が観察されたが,その一方でBRCA2 変異保持者の中では関連はみられなかった12)。またフランスのBRCA 変異保持者コホート研究では,アルコール摂取との間に関連はみられなかった13)
 WRCF/AICR の報告書によると,アルコール摂取は「確実」なリスク要因である。国立がん研究センターの研究班では「証拠不十分」との評価であるが,日本乳癌学会の診療ガイドラインではリスク要因として「ほぼ確実」と評価されている。
 BRCA 変異保持者を対象にしたエビデンスをみる限り,現時点では「リスク増加」を示す研究がなく,むしろ「リスク減少」を示唆する結果もあることから一般集団での評価とは異なる可能性が考えられる。しかし,乳癌以外の疾病予防も考慮すると,前述の国立がん研究センターの研究班が提言する「日本人のためのがん予防法」に示された「飲むなら,節度のある飲酒をする。飲む場合はアルコール換算で1 日あたり約23 g 程度(日本酒1 合)まで。」が参考となる。

4.喫 煙

 喫煙についてはこれまでに7 件の報告がある(うち1 件は,ほぼ同じ対象者を解析した研究のため以下の解説からは除外した)。米国・カナダの症例対照研究(186 ペア)において,非喫煙者に比べ喫煙者(過去・現在)の乳癌リスクは有意に低いことが観察された14)。その後,これらの対象者を含め,11 カ国の多国間の多施設共同の症例対照研究(1,097 ペア)が実施されたが,喫煙との間に有意な関連はみられなかった15)。さらに対象者を蓄積し,2,538 ペアで解析を行ったところ,全
体としては有意な関連はみられなかったものの,BRCA1 変異保持者の解析において,過去喫煙者は非喫煙者に比べ有意なリスク増加が観察された16)。その他,ポーランドのBRCA1 変異保持者を対象にした症例対照研究では,喫煙との間に関連は観察されなかったが17),50 歳以下の非ヒスパニック系のBRCA 変異保持者を対象とした多国間の多施設共同の症例対照研究では,いずれの変異保持者においても喫煙者における有意なリスク増加がみられた18)。フランスのBRCA 変異保持者コホート研究では,非飲酒者を対象にした解析において喫煙者における有意なリスク増加が観察されたが,飲酒者を対象にした解析では関連はみられなかった13)。これはBRCA1 変異保持者に限っても同様の結果であった。BRCA2 変異保持者については,飲酒の有無による喫煙の影響の違いはみられず,pack—year が21 以上の群で有意なリスク増加が観察された。
 国際がん研究機関による発がん性評価に関する2009年の報告書において,「限定的な証拠あり」という評価で,リスク要因の可能性が指摘されている。また,国立がん研究センターの研究班でも「可能性あり」と評価されており,日本乳癌学会の診療ガイドラインではリスク要因として「ほぼ確実」という評価である。
 BRCA 変異保持者を対象にしたエビデンスをみると,初期の研究では「リスク減少」が示唆されていたが,その後,「関連なし」あるいは「リスク増加」を示唆する結果も出ており,結果は一致していない。しかし,喫煙に関しては他の疾患への影響も考慮すると,「日本人のためのがん予防法」に示された「たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける。」が参考となる。

5.経口避妊薬

 経口避妊薬の使用に関しては8 件の報告があった。ノルウェーとポーランドのBRCA1 変異保持者を対象にした症例対照研究17)19),および12 カ国の多国間の多施設共同の症例対照研究20)の3件の研究では,経口避妊薬の使用歴との間に有意な関連は観察されなかった。特に3 つ目の多国間の多施設共同の症例対照研究では,BRCA1 変異を有するペアが1,847,BRCA2 変異を有するペアが714 と,先行研究の中では比較的規模が大きい研究であった。一方,残りの5 件は経口避妊薬の使用歴がある群での乳癌リスクの増加を報告している。11 カ国の多国間の多施設共同の症例対照研究では,BRCA2 変異保持者(330 ペア)の中では関連はみられなかったものの,BRCA1変異保持者(981 ペア)において経口避妊薬の使用歴がある群の有意なリスク増加が観察された21)。同様に13 カ国の多国間の多施設共同の症例対照研究(2,492 ペア)では,BRCA1 変異保持者において経口避妊薬の使用歴がある群の有意なリスク増加がみられた22)。また,50 歳以下の非ヒスパニック系のBRCA 変異保持者を対象とした多国間の多施設共同の症例対照研究では,BRCA1 変異保持者の中では関連はみられなかったが,BRCA2 変異保持者のうち5 年以上の使用歴がある群で有意なリスク増加がみられた23)。英国・フランス・オランダにおけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究では,いずれの変異においても使用期間が長い群での有意なリスク増加が観察された24)。同様にユダヤ人のBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究でも,変異にかかわらず使用歴がある群で有意なリスク増加がみられた25)
 一般集団を対象にした疫学研究の大規模なメタアナリシスによると,経口避妊薬を現在使用している人は有意なリスク増加がみられ,使用中止後10年以上経過した群ではリスク増加がみられなくなるという報告がある26)。国際がん研究機関の発がん性評価の報告書においても「発がん性あり」という評価であり,日本乳癌学会の診療ガイドラインではリスク要因として「可能性あり」という評価である。
 前述のBRCA 変異保持者を対象にしたエビデンスについては,「関連なし」か「リスク増加」であり,必ずしも一致した結果とはいえないものの,概して一般集団を対象にしたエビデンスと矛盾しない結果と考える。一方,BRCA 変異保持者を対象に経口避妊薬の使用と卵巣癌のリスクとの関連を検討したメタアナリシスでは,使用者の有意なリスク低下が報告されており,一般集団を対象にしたエビデンスの評価結果に一致するものであった(CQ21,コラム1 参照)2)4)。したがって,その使用についてはその他の利益なども考慮し,慎重に検討すべきである。

6.出産歴

 出産歴および出産数に関しては7 件の報告があった。初期の北米の症例対照研究において,出産数が多い群で有意なリスク増加が観察された27)。その後,対象者数を蓄積するとともに調査地域を拡大して,多国間の多施設共同の症例対照研究で検討したところ,BRCA1 変異保持者の中では出産数が4 人以上の群で有意なリスク減少がみられ,一方,BRCA2 変異保持者では,出産数の増加に伴い有意なリスク増加がみられた28)。また先行研究の中では最大規模の症例数を含む多国間の多施設共同の症例対照研究(BRCA1 変異を有するペアが1,847,BRCA2 変異を有するペアが714)では,変異にかかわらず,未経産に比べ出産数が1 人または2 人の群で有意なリスク増加がみられ,4 人以上では関連はみられなかった20)。その他,残りの4 件の研究では,出産数が多い群でリスク減少を報告している。英国・フランス・オランダにおけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究では,全体として出産数が多い群で有意なリスク減少が観察され,変異別の検討でも統計的に有意な結果ではなかったが傾向は同様であった29)。スペインにおけるBRCA変異保持者を対象としたコホート研究でも,これと同じ結果であったが30),フランスにおけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究では変異別の解析でも有意なリスク減少がみられた31)。また,英国におけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究でも,同様の結果であったが,対象者全体とBRCA1 変異保持者を対象にした解析で有意なリスク減少がみられた32)
 一般集団を対象にした疫学研究の大規模なメタアナリシスによると,出産歴なしに比べ,ありの群では有意なリスク減少がみられ,出産1 回あたりのリスク減少は7%という結果であった33)。日本乳癌学会の診療ガイドラインでもリスク減少は「確実」という評価である。一方,BRCA 変異保持者を対象にしたエビデンスについては,前述のように「リスク増加」と「リスク減少」を示す研究があり,結果が一致しないため評価は困難である。

7.初産年齢

 初産年齢については4 件の報告があった。英国・フランス・オランダにおけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究では,BRCA1 変異保持者を対象にした解析で,初産年齢が20 歳未満に比べて30 歳以上の群で有意なリスク減少を観察した29)。一方,BRCA2 変異保持者を対象にした解析では,逆に,20~24 歳と25~29 歳の群で有意なリスク増加がみられた。初産年齢が遅い群でのリスク減少は,スペインとフランスにおけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究でも観察されており30)31),スペインではBRCA1 変異保持者を対象にした解析で20 歳未満に比べて30 歳以上の群のリスクは有意でないものの減少傾向がみられた30)。またフランスの研究では,いずれの変異においても有意ではないが25~29 歳と30 歳以上の群でリスク減少の傾向がみられた31)。一方,英国におけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究では,BRCA1 変異保持者を対象にした解析では初産年齢との間に関連は観察されず,BRCA2 変異保持者を対象にした解析では,30 歳以上の群で有意なリスク増加がみられた32)
 一般集団を対象にした疫学研究の大規模なメタアナリシスによると,初産年齢が遅い群に比べ早い群では有意なリスク減少がみられ,1 歳早くなるごとのリスク減少は3%という結果であった33)。日本乳癌学会の診療ガイドラインでも初産年齢が遅いことはリスク要因として「確実」という評価である。BRCA 変異保持者を対象にしたエビデンスについては,特にBRCA1 変異保持者において,逆に初産年齢が遅い群で有意なリスク減少が比較的一致して観察されており,まだ研究数は少ないものの一般集団を対象にした研究結果とは異なる可能性が示唆される。

8.授 乳

 授乳歴については6 件の報告があった。北米・ヨーロッパ・イスラエルの多国間の多施設共同の症例対照研究(BRCA1 変異を有するペアが685,BRCA2 変異を有するペアが280)において,BRCA1 変異保持者を対象にした解析で,授乳歴がない群に比べ授乳歴が1 年以上の群で有意なリスク減少を観察したが,BRCA2 変異保持者を対象にした解析では有意な関連はみられなかった34)。その後,7 カ国に拡大した多国間の多施設共同の症例対照研究(BRCA1 変異を有するペアが1,243,BRCA2 変異を有するペアが422)においても同様の結果が観察された35)。その他,ポーランドのBRCA1 変異保持者を対象にした症例対照研究17),先行研究の中では最大規模の症例数を含む多国間の多施設共同の症例対照研究(BRCA1 変異を有するペアが1,847,BRCA2 変異を有するペアが714)においても,同様にBRCA1 変異保持者のみで授乳期間が長い群でのリスク減少がみられた20)。一方で,英国・フランス・オランダにおけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究29)やフランスにおけるBRCA 変異保持者を対象としたコホート研究31)では,いずれの変異においても授乳歴との間に有意な関連は観察されなかった。
 WRCF/AICR の報告書によると,授乳は「確実」な予防要因である。国立がん研究センターの研究班では「可能性あり」との評価であるが,日本乳癌学会の診療ガイドラインでは「確実」と評価されている。前述のBRCA 変異保持者を対象にしたエビデンスについては,「リスク減少」か「関連なし」であり,必ずしも一致した結果とはいえないものの,概して一般集団を対象にしたエビデンスと矛盾しない結果と考える。

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