Guidebook for Diagnosis and Treatment of Hreditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome 2017

CQ7.遺伝学的検査を希望しないクライエントにはどのように対応すべきか?

解 説

遺伝学的検査を受けるかどうかは,クライエント個人の自由な意思によって選択される1)2)。医療者は,検査について十分説明し(CQ2 参照),クライエントが十分に理解したうえで下した選択を尊重する。検査の希望がなくても,クライエントの臨床所見や家族歴など個々の状況に応じて,本人と家系員にとって適切なサーベイランス(CQ 56 を参照)を提案する。

1.遺伝学的検査を希望しない患者に伝えること

・患者の自由な意思が尊重されること
・検査に関係なく,最善の医療が提供されること
・HBOC の概要およびその可能性があることの説明
・本人の既往や家族歴に応じて,適切なサーベイランスを提案
・リスクがあると考えられる血縁者へのサーベイランスの呼びかけ
・気持ちが変わったときには,いつでも検査を受けられることを説明

2.クライエントの状況に応じた対応

HBOC が強く疑われるクライエントは,検査を受けなくてもHBOC に準じた長期のサーベイランスが必要となる。また,血縁者にサーベイランスと家系に適したサーベイランスを呼びかけてもらうことの重要性について十分に理解してもらう。
NCCN ガイドラインは,BRCA 遺伝学的検査の拾い上げ基準に合致する場合,詳細なリスク評価と遺伝カウンセリングを推奨しているが,その結果,検査を希望しなかったクライエントについては,以下の2 通りに分けた対応を示している1)
 ①家系内で変異が確認されている場合
  HBOC に準じたサーベイランスを提示して,適切なフォローアップを続ける。
 ②家系内で変異が確認されていない場合
  本人および家族歴に応じて,個々に適切なサーベイランスとともに家系内の継続的な調査を提案する。
BRCA 遺伝学的検査を提示されたが,検査を受けないという選択をした患者を調査した研究がある。これによれば,検査を希望しなかった理由として,遺伝学的検査は自分には関係ないものという考え,治療への不安,疾患そのものを否定したい気持ち,保険加入などにおける差別への怖れ,家族への影響,血縁者の反対などがあげられた3)
わが国では,BRCA 遺伝学的検査は保険収載されておらず(2017 年8 月現在),経済的な理由から検査を希望しないというケースも少なくない。ただし検査を希望しなかった患者が,治療が一段落した後に検査を希望して来院することがある。また家族の結婚や妊娠などのライフイベントを機に,気持ちに変化が起こることも十分考えられるため,クライエントや家族のフォローを続け,本人や血縁者が検査を希望したときにスムーズに対応できる関係性を構築・維持しておく必要がある。
またクライエントのなかには,本人は検査を望んでいるが,家族やパートナーの反対があるために本人の意思に反して検査を受けないとの意思表示をするケースも考えられる。医療者は,本人の意思によるものかを確認し,遺伝学的検査については本人の自由な意思が最も尊重されることを改めて伝え,家族とも十分に話し合ってもらうことが必要である。
なお遺伝学的検査を受けなくても,NCCN の推奨に従って,検査で陽性となった患者と同様のフォローアッププログラムを受けた患者は,遺伝学的検査を受けた患者と同様の満足感を得られたとの報告がある4)。このようにHBOC の可能性が極めて濃厚な家系では,遺伝学的検査は必ずしも必要ではないこともある。
CQ1 で先述したように,近い将来,治療法を選択するうえで遺伝学的検査が必須となる可能性も否めないが,現時点では,①医療者はクライエントの治療や健康管理に役立つ可能性がある選択肢の1 つとして遺伝学的検査を提示すること,②クライエントが自由な意思に基づいて検査を受けないことを選択した場合には,適切なサーベイランスを提案し,血縁者を含めたフォローアップを続けることが重要である1)

検索キーワード

PubMed でBRCA,HBOC,refuse,reject,Genetic Services 等のキーワードで検索した。

参考文献
  1. National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian, ver2. 2016.
  2. 日本家族性腫瘍学会.家族性腫瘍における遺伝子診断の研究とこれを応用した診療に関するガイドライン(2000年版).http://jsft.umin.jp/
  3. Lodder L, Frets PG, Trijsburg RW, et al. Attitudes and distress levels in women at risk to carry a BRCA1/BRCA2 gene mutation who decline genetic testing. Am J Med Genet A. 2003; 119A(3): 266-72.[PMID:12784290]
  4. Schlich-Bakker KJ, ten Kroode HF, Wárlám-Rodenhuis CC, et al. Barriers to participating in genetic counseling and BRCA testing during primary treatment for breast cancer. Genet Med. 2007; 9(11): 766-77.[PMID:18007146]

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