Guidebook for Diagnosis and Treatment of Hreditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome 2017

CQ18.乳癌未発症者のBRCA 変異保持者に対し,タモキシフェンによる化学予防は勧められるか?

推奨グレード
C2
BRCA 変異保持者に対し,タモキシフェンによる化学予防を行う十分な根拠がないため推奨されない。

■ 推奨グレードを決めるにあたって

BRCA 変異保持者において,乳癌の障害発症リスクは26~84%と高率であり,またBRCA 変異を有する乳癌患者で対側乳癌を発症する10年累積発症率は18~40%であり,変異陰性患者の3%に比べ非常に高率である。したがって,発症予防を行うことは非常に重要である。リスク低減卵管卵巣摘出術や乳房切除術といった外科的な処置が予防法として主に検討されるが,侵襲性の高さや合併症,不可逆性を伴うため,外科的予防法の適応は慎重に行われなければならない。そこで,非外科的予防法である化学予防の有効性について検討する必要がある。

背景・目的

BRCA 変異保持者に対する乳癌発症の化学予防を検討した研究は非常に限られている。化学予防の対象として,BRCA 変異を有する乳癌未発症の女性に対する乳癌発症予防と,BRCA 変異を有する乳癌を発症した患者に対する対側乳癌の発症予防に分けて検討する。

解 説

BRCA 変異を有する乳癌未発症の女性に対する乳癌発症予防に関しては,米国のNational SurgicalAdjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)Breast Cancer Prevention trial(P-1 trial)のサブセット解析が行われ,タモキシフェンはBRCA2 変異保持者においては乳癌発症リスクを62%減少させるものの,BRCA1変異保持者においては乳癌発症リスクを低減しないことが明らかになった1)。しかし,解析対象患者が少ないことが本解析の問題点である。288 人の発症者の中で,BRCA1 変異保持者は8 人,BRCA2 変異保持者は11 人と非常に少なかったことから,本解析の信頼性に限界がある。BRCA2 変異保持者がBRCA1 変異保持者に比べ予防効果が示された理由については,ホルモン受容体陽性乳癌の割合の違いが関与していると考えられる。すなわち,BRCA1 においては乳癌のほとんどがトリプルネガティブであるのに対しBRCA2 ではホルモン受容体陽性乳癌が多くを占めることによると考えられる。
BRCA 変異を有する乳癌を発症した患者に対する対側乳癌の発症予防に関しては,これまでタモキシフェンによる対側乳癌の発症予防についての観察研究が報告されている2)~6)。また,これらの報告のメタアナリシスも行われ,BRCA 変異を有する患者において,タモキシフェンによる対側乳癌の予防効果が示された7)。しかし,対象となった臨床研究がすべて観察研究であり,また症例数に限りがあるため,このメタアナリシスをもってタモキシフェンの予防効果を証明することはできないと考えられる。したがって現時点では,BRCA 変異の状況によって術後補助ホルモン療法を変更する必要はなく,術後ホルモン療法の適応は臨床的判断に基づいて検討すべきである。

検索キーワード

検索はPubMed にてBRCA1,BRCA2,Tamoxifen 等のキーワードを用いて登録文献を検索した。

参考文献
  1. King MC, Wieand S, Hale K, et al; National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project. Tamoxifen and breast cancer incidence among women with inherited mutations in BRCA1 and BRCA2: National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Projec(t NSABP-P1)Breast Cancer Prevention Trial. JAMA. 2001; 286(18): 2251-6.[PMID:11710890]
  2. Phillips KA, Milne RL, Rookus MA, et al. Tamoxifen and risk of contralateral breast cancer for BRCA1 and BRCA2 mutation carriers. J Clin Oncol. 2013; 31(25): 3091-9.[ PMID:23918944]
  3. Narod SA, Brunet JS, Ghadirian P, et al; Hereditary Breast Cancer Clinical Study Group. Tamoxifen and risk of contralateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers: a case-control study. Hereditary Breast Cancer Clinical Study Group. Lancet. 2000; 356(9245): 1876-81.[PMID:11130383]
  4. Metcalfe K, Lynch HT, Ghadirian P et al. Contralateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers. J Clin Oncol. 2004; 22(12): 2328-35.[ PMID:15197194]
  5. Reding KW, Bernstein JL, Langholz BM, et al; WECARE Collaborative Study Group. Adjuvant systemic therapy for breast cancer in BRCA1/BRCA2 mutation carriers in a population-based study of risk of contralateral breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 2010; 123(2): 491-8.[PMID:20135344]
  6. Gronwald J, Robidoux A, Kim-Sing C et al; Hereditary Breast Cancer Clinical Study Group. Duration of tamoxifen use and the risk of contralateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers. Breast Cancer Res Treat. 2014; 146(2): 421-7.[PMID:24951267]
  7. Xu L, Zhao Y, Chen Z et al. Tamoxifen and risk of contralateral breast cancer among women with inherited mutations in BRCA1 and BRCA2: a meta-analysis. Breast Cancer. 2015; 22(4): 327-34.[PMID:26022977]

総論/各論 目次

総論/各論 目次

PAGETOP