推奨グレード C1 |
経腟超音波検査および血清CA125 値測定を用いたサーベイランスによる卵巣癌の予後改善効果は十分ではない。 |
推奨グレード C1 |
定期的な経腟超音波検査および血清CA125 値測定によるサーベイランスを考慮する。 |
背景・目的
BRCA 変異保持者において,RRSO は卵巣癌発生リスクを低下させ生命予後を改善するが,妊孕性温存の希望がある場合や,その他クライエントの意思などの理由で,RRSO が実施できない場合がある。
そこで,BRCA 変異保持者において,RRSO が実施できない場合の卵巣癌サーベイランス法について検討した。
解 説
NCCN*ガイドラインでは,「卵巣癌のリスク低減手術を選択しなかった女性では,経腟超音波検査を30~35 歳から考慮してもよい。また血清CA125 値測定もサーベイランス検査として考慮してよい。ただし,これらのサーベイランス法がRRSO の代替法として妥当であることを示すエビデンスはない。」とされている1)。経腟超音波検査および血清CA125 値を併用する一般健常人を対象とした卵巣癌スクリーニングの有用性を否定する報告がある。Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian(PLCO)Cancer Screening Trial において,55~74 歳の78,216 人の女性を1993 年から2001年の間に登録し,スクリーニング群と非スクリーニング群にランダム化して検討したところ,発見される卵巣癌の進行期や予後に違いを認めなかった2)。また,1991~2007 年の間に,BRCA 変異を有する981 人を含む,卵巣癌の発生リスクが10%以上と見積もられた3,532 人の女性において,1 年ごとにスクリーニングが行われたところ,初回に卵巣癌が診断された26 例中17例(65%)および,その後に診断された38 例(スクリーニング時27 例とインターバル時11 例)中24 例(63%)がⅢ期,Ⅳ期症例であり,その頻度に有意差はなかった。BRCA 変異を有する症例に絞っても,初回に卵巣癌が診断された21 例中17 例(81%)およびその後に診断された28 例中17例(61%)がⅢ期,Ⅳ期症例であり,やはり有意差はなく,生存期間にも違いを認めず,卵巣癌の高リスク群におけるスクリーニングは無効と結論付けられた3)。また,1993~2005 年に,BRCA 変異を有する888 人の女性で1 年に1 度のサーベイランスが行われ,5 例は初回に卵巣癌が発見され,5 例はその後のサーベイランスの際,そして残り5 例はインターバルの時期に発見された。ⅡC 期はサーベイランスで発見された1 例とインターバルの時期に発見された1 例のみで,他はすべてⅢ期,Ⅳ期癌であった。Ⅲ期,Ⅳ期の頻度が高いことと,インターバルの時期に発見されることが多いことから,やはりサーベイランスは無効と結論付けられた4)。
しかし,より最近の研究では異なる結果が得られている。2001~2005 年に202,638 人の女性を登録し,1 年ごとの経腟超音波検査と血清CA125 値測定の併用(n=50,640),1 年ごとの経腟超音波検査(n=50,639),スクリーニングなし(n=101,359)にランダム化しフォローアップされたところ,初回に発見された卵巣癌症例を除くと,経腟超音波検査と血清CA125 値測定を併用した群はスクリーニングなしの群に比して卵巣癌による死亡率が20%減少し,これは統計学的に有意で
あった5)。また,上記のPLCO データを再解析したところ,スクリーニングのときあるいはスクリーニングから1 年以内に発見された卵巣癌は,それ以外の群に比して有意に予後が良好であると報告された6)。さらに,2002~2008 年に,卵巣癌の生涯罹患率が10%以上と見積もられた3,563人の女性(遺伝子変異を調べた1,034 人中538 人においてBRCA 変異あり)を登録し,1 年ごとの経腟超音波検査と血清CA125 値測定が行われた。この研究において,スクリーニングから1 年を過ぎて発見された卵巣癌は86%(6/7)がⅢC 期以上であったのに比して,スクリーニングのときあるいはスクリーニングから1 年以内に発見された卵巣癌のうちⅢC 期以上であったものは26%(6/23)のみと有意に少なかった7)。なお,そのようなハイリスク女性に対し,1 年ごとの経腟超音波検査と血清CA125 測定に4 カ月ごとの血清CA125 値測定を追加しても,早期症例の頻度がより増えることはないことも報告された8)。現在のところ,1 年未満の間隔でスクリーニングを行うことの有用性を示したエビデンスは存在しない。
結論として,卵巣癌のスクリーニングは無効とする報告も多いが,最近は,BRCA 変異を有するハイリスク群も含め,1 年ごとの経腟超音波検査と血清CA125 値測定を行うことが,卵巣癌の早期発見やある度の予後改善につながるとする報告がされつつある。しかし,スクリーニングを行っていても,インターバルの時期に発見される例や,Ⅲ期,Ⅳ期で発見される例も多く,スクリーニングによる死亡率減少効果は十分ではないことを念頭に置き,クライエントに説明しておくことが必要である。
*NCCN:National Cancer Comprehensive Network
検索キーワード
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参考文献
- National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian, ver1. 2017.
- Buys SS, Partridge E, Black A, et al; PLCO Project Team. Effect of screening on ovarian cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian(PLCO)Cancer Screening Randomized Controlled Trial. JAMA. 2011; 305(22): 2295-303.[PMID:21642681]
- Evans DG, Gaarenstroom KN, Stirling D, et al. Screening for familial ovarian cancer: poor survival of BRCA1/2 related cancers. J Med Genet. 2009; 46(9): 593-7.[PMID:18413372]
- Hermsen BB, Olivier RI, Verheijen RH, et al. No efficacy of annual gynaecological screening in BRCA1/2 mutation carriers; an observational follow-up study. Br J Cancer. 2007; 96(9): 1335-42.[PMID:17426707]
- Jacobs IJ, Menon U, Ryan A, et al. Ovarian cancer screening and mortality in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening(UKCTOCS): a randomized controlled trial. Lancet. 2016; 387(10022):945—56.
[PMID:26707054] - Koshiyama M, Matsumura N, Konishi I. Clinical Efficacy of Ovarian Cancer Screening. J Cancer. 2016; 7(10):1311-6. [PMID:27390606]
- Rosenthal AN, Fraser L, Manchanda R, et al. Results of annual screening in phaseⅠ of the United Kingdom familial ovarian cancer screening study highlight the need for strict adherence to screening schedule. J Clin Oncol. 2013; 31(1): 49-57.[PMID:23213100]
- Rosenthal AN, Fraser L, Philpott S, et al; Barts Cancer Institute, et al. Final results of 4-monthly screening in the UK Familial Ovarian Cancer Screening Study(UKFOCSS Phase 2).J Clin Oncol. 2013; 31(suppl; abstr 5507)