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倫理審査規則・細則
倫理審査規則・細則

医学研究等に関する倫理審査規則

日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 医学研究等に関する倫理審査規則

第1条(目的)

この規則は、一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(以下「機構」という。)に所属する機関施設での医学研究等(以下「研究」という。)が倫理的配慮のもとに行われ、もって患者等の人権及び生命の擁護に寄与するために必要な事項を定めるものとする。

第2条(理事長の責務)

理事長は、機構における研究に関する最終的な責任を有し、適正に実施されるように監督しなければならない。

第3条(研究計画)

研究を計画する研究代表者は、あらかじめ倫理審査申請書(様式 1)を作成し、理事長へ提出する。

2.理事長は研究計画を倫理委員会に諮問する。研究計画の実施の可否は、理事会での承認ならびに倫理委員会での承認が必要である。

3.研究計画の承認の可否は、倫理審査結果通知書(様式 2)により申請者あて通知するものとする。

 

第4条(倫理審査)

倫理委員会は、理事長の諮問により研究に関し倫理上の配慮を求められる以下の事項について審議を行い、審議結果(様式 3)を作成し報告する。

(1)理事長に対し研究代表者から、研究の実施に関しての倫理審査申請書が提出され、審議が必要と認められた事項

(2)その他、理事長が倫理委員会において審議が必要と認めた事項

2.この条に定めるもののほか、倫理委員会の倫理審査の運営に関し必要な事項は細則にて定める。

第5条(雑則)

この規則の施行に関し必要な事項並びにその変更は、理事会の議決を経て理事長が定める。

附則

1.この規則は、平成30年6月15日から施行する。

倫理審査の運営に関する細則

第1条(目的)

日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構での医学研究等(以下「研究」と言う。)に関する倫理規則(平成30年6月15日施行)第4条の規定に基づき、倫理委員会(以下「委員会」という。)の倫理審査の運営について必要な事項を定めるものとする。

第2条(組織)

委員会は次に掲げる委員をもって構成する。

(1)委員長(1名)

(2)委員(5~7名)

(3)委員長は機構の理事が務める。委員の構成は、医師並びに倫理・法律を含む人文・社会科学面の有識者、自然科学面の有識者、一般の立場の者のなかから委員長が必要と認めた者(1名以上)を含むものとする。

2.委員会の構成は理事会での議決を経て理事長が委嘱する。

3.第1項に掲げる委員の任期は 2 年とする。ただし、委員が任期途中で欠けた場合における後任の補充委員の任期は、前任者の残任期間とする。

4.委員は再任することができる。

第3条(委員長)

委員長は、会務を総理し、委員会を代表する。

2.委員長に事故あるとき又は委員長が欠けたときは、理事会にて委員長を選出する。

3.委員長が当該研究計画の研究代表者である場合は、委員長の指名により委員1名が委員長の職務を代行する。

第4条(審議の方針)

委員会は、医学的、科学的、倫理的、社会的等の観点から、次の事項に留意して調査検討し、審議する。

(1)研究の対象になる患者等の人権の擁護に関すること

(2)研究によって生じる患者等への不利益及び安全性に関すること

(3)患者等に対する研究内容の説明及び同意に関すること

(4)医学上の貢献度の予測に関すること

(5)審議は下に記す法律・倫理指針等を尊重し、慎重に進めること

 

臨床研究法(2018年2月28日公布)

医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン (2011年2月発表)

ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(2014年11月25日一部改定)

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(2017年2月28日一部改正)

遺伝子治療臨床研究に関する指針 (2016年11月25日一部改正)

第5条(委員会の招集等)

委員会は、委員長が招集し、その議長となる。

2.委員会は、3分の2以上の委員が出席しなければ開くことができない。

3.委員長は、急を要する場合その他特別の事情がある場合は、委員会の開催に代え書面等により表決を求めることができる。

第6条(委員会の議事等)

委員会の議事は、出席委員の合意をもって決することを原則とする。

2.委員会は、倫理審査申請書提出者に委員会への出席を求めて、研究内容等の説明及び意見を聴取することができる。

3.倫理審査申請書を提出した委員長(議長)及び委員は、その審議及び議決に加わることができない。

4.前条第3項の規定により書面表決をする場合は、前 3 項の規定を準用する。

5.審議記録は、翌年度から10年間保存するものとする。

第7条(記録の公開)

委員会及び議事録は原則公開とする。

2.委員長又は委員の発議により、患者のプライバシー保護及び医学研究上の秘密の保護等の観点から、委員会及び会議録を非公開にする必要があると出席委員の過半数で議決したときは、これを公開しないことができる。ただし、この場合は、委員会はその理由を公表しなければならない。

第8条(審議結果の通知)

委員長は、審議を終了した場合には、理事長に対し審議結果通知書(様式3)により、承認、不承認等の意見を通知するものとする。

第9条(庶務)

会議の庶務は、事務局において処理する。

第10条(雑則)

この細則に定めるもののほか、委員会の運営その他委員会に関し必要な事項は、委員長が委員に諮って定める。

第11条

この細則の変更は、理事会の議決を経て行う。

附則

1.この細則は、平成30年6月15日から施行する。

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日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)学術総会への演題応募における倫理的手続きに関する指針

1.はじめに

 一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(以下JOHBOC)は、遺伝性乳癌卵巣癌(以下HBOC)及びその疑いのある患者や家族に対する診療体制の整備と拡充を図り、国民の医療乃至予防医学の向上に寄与することを目的として、2016年8月に設立された。主たる事業は、HBOC診療施設の認定、HBOCに関する教育研修、HBOCの患者等の登録、HBOCに関する調査研究であり、ゲノムを含む遺伝学的情報を取扱う。

 学術総会において報告されるヒトを対象とした医学系研究は、関連する法律、政令、省令、指針および通知等を遵守して行われなければならない。「学術集会への演題応募における倫理的手続きに関する指針」(以下、本指針)は、日本医学会連合研究倫理委員会、日本人類遺伝学会、日本遺伝カウンセリング学会、日本遺伝子診療学会、日本乳癌学会、日本産科婦人科学会が示した指針を基に作成されたものであり、今後、当該指針や「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」等の各種関連倫理指針が改正された場合などには必要に応じて適宜改定を行う。

 本指針において記述した具体例は、各会員の理解を助けることを目的として典型的なものを示したものである。全ての事案が網羅されているわけではなく、発表演題の内容によっては別途考慮すべき要素があり得ることに留意し、個々の発表演題の内容に応じた適切な対応を行う必要がある。医学系研究・症例報告を適切に実施するにあたって、研究対象者・症例報告対象者(患者・クライエント・研究参加ボランティア等)の尊厳と人権が最大限尊重されるよう、自らが本指針を遵守し、必要に応じて所属機関の倫理審査を受けて承認を得た上で、承認内容に従って適切に行動する義務がある。但し、本指針は本領域の発展を目指した自由な研究活動等を拘束し制限するためのものではなく、あくまで研究者が研究対象者・症例報告対象者(患者・クライエント・研究参加ボランティア等)の尊厳・人権を最大限尊重し、倫理的な配慮を充分に行った上で幅広い研究活動等を行う必要がある。

 なお、本指針はオリジナルな研究や症例報告を応募する際の倫理的手続きに関するものであり、公表済み論文から引用された記述・資料のみを使用した総説形式の演題は本指針の対象外である。

2.用語の定義

 本指針で使用される用語の定義を示す。以下の説明の多くは「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(2021年3月23日)およびガイダンス(2021年4月16日)3)からの抜粋であるが、本指針としての判断等が一部含まれている。

一般的に、症例報告は、「傷病の予防、診断又は治療を専ら目的とする医療」に分類され、「他の医療従事者への情報共有を図るため、所属する機関内の症例検討会、機関外の医療従事者同士の勉強会や関係学会、医療従事者向け専門誌等で個別の症例を報告する」もので、医学系研究に関する倫理指針の適応範囲外とされている。また、医学的に確立している臨床検査(保険適用またはガイドライン等で示されているなど、妥当性の認められている場合)は研究倫理指針の対象外とされている。本指針では、患者・クライエント・研究参加ボランティア等の個人情報保護のための手続きや、症例報告等を応募する際の手続きを定めるが、「侵襲」や「介入」等、研究を目的とする行為を伴う場合や探索的な位置づけで行われた遺伝子解析の結果を含む症例の報告については研究としての手続きを求める。

生存する個人に関する情報であって、次に掲げるいずれかに該当するものをいう。

  1. 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)
  2. 個人識別符号が含まれるもの

個人情報に加えて、個人に関する情報であって、死者について特定の個人を識別することができる情報を含めたものをいう。

次に掲げるいずれかに該当する文字、番号、記号その他の符号のうち関連の法令に定めるものをいう。

  1. 特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの
  2. 個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り当てられ、又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され、若しくは電磁的方式により記録された文字、番号、記号その他の符号であって、その利用者若しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異なるものとなるように割り当てられ、又は記載され、若しくは記録されることにより、特定の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者を識別することができるもの

本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する記述等が含まれる個人情報をいう。

特定の個人を識別することができることとなる記述等(個人識別符号を含む)の全部又は一部を削除すること(当該記述等の全部又は一部を当該個人と関わりのない記述等に置き換えることを含む。)をいう。この指針では、「匿名化されているもの(特定の個人を識別することができないもの)」と「匿名化されている(直ちに個人識別できないよう、加工又は管理されたもの)」に分類している。

匿名化された情報から、必要な場合に研究対象者・症例報告対象者を識別することができるよう、当該研究対象者・症例報告対象者と匿名化の際に置き換えられた記述等とを照合することができるようにする表その他これに類するものをいう。

匿名化されているもののうち、以下の項目を満たすことで特定の個人を識別することができないもの

  1. 情報単体で特定の個人を識別することができるもの(例:氏名、顔画像 等)を含まない
  2. 他の情報と照合することによって特定の個人を識別することができるもの(例:「対応表」によって特定の個人を識別することができる他の情報と照合できるもの)を含まない
  3. 個人識別符号(例:ゲノムデータ 等)を含まない

匿名化されているもののうち、その記述単体で特定の研究対象者・症例報告対象者を直ちに判別できる記述等を全部取り除くような加工がなされているもの(対応表を保有する場合は対応表の適切な管理がなされている場合に限る)

研究対象者・症例報告対象者又はその代諾者等が、実施又は継続されようとする研究(試料・情報の取扱いを含む)・症例報告に関して、目的および意義並びに方法、対象者に生じる負担、予測される結果(リスクおよび利益を含む)等についてまず十分な説明を受ける。その後、対象者又はその代諾者等が、受けた説明を理解した上で自由意思に基づいて研究者等又は既存試料・情報を提供される者に対し与える、当該研究・症例報告を実施又は継続されることに関する同意をいう。この際に説明すべき事項は研究・症例報告の種類により異なるため、十分な確認が必要である。また、対象者が未成年の場合や疾病等により十分な判断能力を有しないと判断される場合には対象者の発達や理解度に応じて、理解できる言葉や用語、図表を用いて可能な限り十分な説明に努めた上で、インドームド・アセントの取得が推奨される。

インフォームド・コンセントを得る手続等については、研究者等が研究・症例報告を実施しようとするとき、又は既存試料・情報の提供を行う者が既存試料・情報を提供しようとするときは、研究機関の長の許可を受けた研究計画書に定めるところにより、定められた手続に従って、原則としてあらかじめインフォームド・コンセントを得なければならない。

研究目的で行われる、穿刺、切開、薬物投与、放射線照射、心的外傷に触れる質問等によって、研究対象者(患者・クライエント・研究参加ボランティア等)の身体又は精神に傷害又は負担が生じることをいう。

未承認医薬品や未承認医療機器の使用、既承認医薬品・医療機器の承認等の範囲(効能・効果、用法、用量等)を超える使用、その他に医療保険の適応となっていない新規の医療行為を指す。すなわち、既承認医薬品や既承認医療機器の適応外使用、医薬品の過量投与が含まれる。

研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因(健康の保持増進につながる行動、傷病の予防、診断や治療のための投薬・検査等)を制御する行為を行うこと。また、研究目的で実施される「通常の診療を超える医療行為」も含まれる。

転帰や予後等の診療情報を収集して実施する研究。ただし本指針で定義する「症例報告」は除く。

試料・情報のうち、次に掲げるいずれかに該当するものをいう。

  1. 研究計画書が作成されるまでに既に存在する試料・情報
  2. 研究計画書の作成以降に取得された試料・情報であって、取得の時点においては当該研究計画書の研究に用いられることを目的としていなかったもの(例:残余検体、診療記録)

「既存試料・情報」以外の試料・情報

当該研究について情報を研究対象者等に直接通知するか、または当該機関の掲示板やホームページ上で公開し、必要に応じて研究対象者等が研究への参加を拒否する機会を保障すること(その場合、拒否の意思表示を受け付ける窓口(連絡先)を明示する)。この手続きの際に通知又は公開するべき事項は以下の1〜6、および必要に応じて7と8である。

  1. 提供の事実:試料・情報の利用目的又は他の研究機関への提供を利用目的とする旨
  2. 提供の項目:利用又は提供する試料・情報の項目
  3. 提供方法:自らの研究機関内又は他の研究機関への提供の方法
  4. 利用の範囲:利用する研究機関の範囲
  5. 利用目的:利用する研究機関の利用目的
  6. 責任者:試料・情報の管理について責任を有する者の氏名又は名称
  7. 拒否機会の保障:研究対象者の求めに応じて、研究対象者が識別される試料・情報の利用又は他の研究機関への提供を停止すること。
  8. 拒否の方法:研究対象者の求めを受け付ける方法

3.倫理審査や機関の長の許可、インフォームド・コンセントが原則不要な研究

(1)法令の規定により実施される研究:都道府県単位や全国規模の「がん登録事業」、「感染症発生動向調査」、「国民健康・栄養調査」など

(2)法令の定める基準の適用範囲に含まれる研究:「省令」等によって規定されている研究

(3)試料・情報のうち、次に掲げるもののみを用いる研究

  1. 既に学術的な価値が定まり、研究用として広く利用され、かつ、一般に入手可能な試料や情報(論文、データーベースとして広く公表されているデータやガイドライン等)を用いた研究。研究用として広く出回っている各種培養細胞を用いた研究。ただし、ヒトiPS細胞、ヒトES細胞、ヒト組織幹細胞を利用した研究は厚生労働省ホームページの「再生医療について」4)を参照し、再生医療等安全確保法、政令、省令および通知を遵守しなければならない。
  2. 既に匿名化(特定の個人を識別することができないものであって、対応表が作成されていないものに限る)されている情報

4.演題応募時の倫理的手続き

本指針では応募演題を、必要な倫理的手続きに応じて図1と2に記述した A、 B、 C、 D、 E の5つのカテゴリーに分類した(図1)。図2のフローチャートにより研究・症例報告の内容がいずれのカテゴリーに分類されるかが確認できる。前項(III)の「倫理審査や機関の長の許可、インフォームド・コンセントが原則不要な研究・症例報告」を、 本指針ではカテゴリーAに分類した。
なお、前項(III)も含めいずれのカテゴリーの研究・症例報告においても、学術集会での発表に症例の提示が含まれる場合には、使用する画像、動画などの診療情報の個人情報保護に十分留意すること、具体的には「6.症例報告」の項目1)の記載に準じた対応が必要である。
以下に、演題提出前に講ずるべき手続きをカテゴリー分類に沿って説明する。

 人を対象としない研究(動物実験や遺伝子組み換え実験などの研究)については「ライフサイエンスにおける生命倫理に関する取り組み」6) あるいは「ライフサイエンスにおける安全に関する取り組み」7) を参照し、 各機関での適切な対応の元に実施された研究であること。

 ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、ヒト組織幹細胞を利用した研究の場合には基礎研究、再生医療に関係した臨床研究のいずれにおいても厚生労働省ホームページの「再生医療について」4) を参照し、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」4)に基づき、各機関での適切な対応の元に実施された研究であること。

 またヒトの遺伝子治療に関する研究の場合には「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」3)を参照し、各機関での適切な対応の元に実施された研究であること。

 なお、「特定臨床研究」に相当する研究の場合には、「臨床研究法」5)が求める対応が必要となる。

「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」3)が適応される生殖細胞系列変異又は多型性(germline variant)を解析する研究においては、事前に各機関の倫理審査委員会あるいはそれに準じた諮問委員会の審査に基づく機関の長の許可と患者・クライエント・研究参加ボランティア等あるいはその代諾者のインフォームド・コンセントが必須である。

注釈:「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」3)対象外の事項

ア 解析結果が提供者およびその血縁者の診療に直接生かされることが医学的に確立されている臨床検査(BRCA1/2遺伝子変異、K-ras 遺伝子変異、HER2 遺伝子増幅、c-kit 遺伝子変異など)や、それに準ずるヒトゲノム・遺伝子解析

イ 癌等の疾病において、病変部位に後天的に出現し、次世代には受け継がれない遺伝子の変異や遺伝子発現、および蛋白質の構造または機能に関する研究

ウ 疾病に関与する遺伝子群が新たに同定されても、その遺伝子が生殖細胞系列変異・多型性などの子孫に受け継がれるものでない場合。

なお、「特定臨床研究」に相当する研究の場合には、「臨床研究法」5)が求める対応が必要となる。

 単一機関の研究であっても多機関共同研究であっても、いずれかの機関で倫理審査委員会や治験審査委員会あるいはそれに準じた諮問委員会での審査に基づく機関の長の許可が必要である。また対象者あるいはその代諾者の文書によるインフォームド・コンセントが必須である。介入を行う研究については、研究の実施に先立って、UMIN、JAPIC、または日本医師会が設置している公開データーベースに登録しておく必要がある。ただし、平成27年2月9日以前から継続して実施されている介入研究については、発表時までに公開データーベースに登録しておくことが求められる。

 なお、「特定臨床研究」に相当する研究の場合には、「臨床研究法」5)が求める対応が必要となる。

 観察研究は研究デザインとしての前向き観察研究、後ろ向き観察研究の区別で倫理的対応が区別されるのではなく、使用する試料・情報が「既存試料・情報」か「新たに取得する試料・情報」かにより、倫理的対応が異なる。さらに自機関のみの試料・情報を用いた研究か、他機関からの試料・情報の供与を受けた研究かの区別も影響する。「観察研究」は原則として倫理審査委員会あるいはそれに準じた諮問委員会の審査に基づく機関の長の許可、研究対象者(患者・クライエント・研究参加ボランティア等)あるいはその代諾者のインフォームド・コンセントが必要である。しかしすべての研究対象者(患者・クライエント・研究参加ボランティア等)あるいはその代諾者からインフォームド・コンセントを得ることが実質的に困難な場合などは、「オプトアウト」による手続きの簡略化が可能な場合もある。

 一般的には医学系研究に関する倫理指針の適応範囲外(カテゴリーA)とされているが、「侵襲」や「介入」等、研究を目的とする行為を伴う場合や探索的な位置づけで行われた遺伝子解析の結果を含む症例の報告は、ここでいう「症例報告」ではなく、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」4)の適用範囲内と考えられる。また、高難度新規医療技術・未承認新規医療品等による医療の提供が行われた場合の症例の報告においては、それぞれ適切な手続きを講じる必要がある。

 症例報告における科学的に的確な記述の意義は極めて高く、報告がなされた際には想定されなかったような意義が数十年後に見出されることもまれではない。また、症例報告を重視することは、医学上の意義はもちろんのこと、個々の患者・クライエントへのより深い洞察ときめ細かい対応をも生むものでもあり、目の前の患者・クライエントに対する医療の向上をもたらしうる。したがって、その価値はいつの時代においても、極めて高いものである。

 電子ジャーナル化とインターネットの発達により、症例報告が、広く社会からのアクセスが可能になってきており、また症例報告の検索も瞬時におこなわれる時代にあって、科学性を担保しながら、症例報告における個人情報をより厳格に保護することは、私達にとって重要な課題であり、対象者に不利益をおよぼすことがないよう、最大限の努力が必要となる。症例報告における個人情報の保護に関しては、診療活動に係る「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイダンス9」」(平成29年4月14日 通知)に準じて、留意する点を以下に述べる。

 


 

①症例報告における留意点

 スライドまたはポスターによる発表では、医師、医療関係者による聴講・閲覧が主であるが、それ以外の人々が閲覧する可能性もある。そのため、発表にあたり患者・クライエントのプライバシーに係る項目や演題名については、個人が特定されないように配慮する。また、一般に対象者の特定に繋がりうる情報は記載しないようにするが、科学的に正確な記載は学術上の必須条件でもあることから、適切な記載の仕方について十分に検討することが望まれる。事実を改変して記載することは不正であり容認されない。

ア 記載してはならない情報:患者・クライエント個人の特定可能な氏名、診療番号、イニシャルまたは「呼び名」を含めて容易に個人が特定される事項。 

イ 患者・クライエントの居住地:記載しない。ただし、疾患の発生場所が病態等に関与すると考えられ、報告に含めた方が良いと考えられる場合は、区域までに限定して記載することを可とする。(A県、B市など)

ウ 日付:日付については病歴を理解する上で必要な場合も多く、個人が特定される可能性が低いと判断されれば記載してよい。病歴上の年月の記載は、年月までの記載で十分と判断されれば年月の記載に止めるようにするが、急性の経過を取るような場合は、必要に応じて詳しく記載することも検討する。なお、歴史的なことを論ずる等必須の場合を除いて年については、具体的な数字の記載を控えるようにする(X年、X-1年、X+1年など)。例)X年9月

エ 地名・機関名:他医療機関などで診断・治療を受けている場合、原則その機関名ならびに所在地を記載しないが、疾患発症や病態に関与する場合など搬送元、紹介元の情報が不可欠と考えられる場合には、例外的に区域(都道府県名、政令指定都市など)、その機関名称までは記載してよい。 例)A県、B病院

オ 診療科名:記載してもよいが、特定の状況においては記載しないことが望ましい場合もあり、配慮する。

カ 家系図(家族歴):家系図は症例報告にとって必須の情報であることが多く、改変は許されないが、必要に応じて、その一部を示すなどの配慮は可能である。患者・クライエントの家族に関する情報を記載する場合には、親の職業等の情報も含めて患者・クライエントを特定できないように配慮する。

キ 既往歴・職業歴:経過を判断する上で重要な情報となる場合は、記載してよい。

ク 臨床検査データ番号:画像情報、生理学的検査情報、生検・剖検等の臨床検査データに含まれる番号などは記載しない。

ケ 遺伝子、ゲノム情報:確定診断につながる遺伝子やゲノムの情報自体が要配慮個人情報となり得ることから、学会発表においては患者・クライエント(またはその代諾者)から承諾が得られたことを記載する。

 顔を含む身体の写真:発表の目的を熟慮し、当該情報が必要不可欠な場合に限定して使用する。発表内容に関して顔写真が不可欠と判断された場合、個人が特定される可能性を最大限に回避できるよう留意し、患者・クライエント(またはその代諾者)への十分な説明と共に書面を用いた同意取得が望ましい。一般に、目の部分をマスキングした顔写真は特定の個人を識別できないと考えられる。顔以外の身体写真を使用する場合も、同様の説明をおこない十分な配慮のもと同意を取得する。顔写真の発表時は、患者・クライエント(またはその代諾者)から承諾が得られていることを記載する。

 

②以上の配慮をしても個人が特定される可能性のある場合は、発表に関する同意を患者・クライエント(またはその代諾者)から得るか、倫理委員会または機関で症例報告の適切性を判断する委員会で倫理指針の趣旨への適合性の審査を受けて機関の長の許可を得る。(カテゴリーB に準ずる)

 

③「侵襲」や「介入」等、研究を目的とする行為を伴う場合や研究上の探索的な位置づけで行われた遺伝子解析の結果を含む症例の報告は、本指針における「症例報告」ではなく、倫理委員会あるいはそれに準じた諮問委員会の審査に基づく機関の長の許可を得て、患者・クライエント(またはその代諾者)から研究および発表に関する同意を得る。(カテゴリーC

 

④「傷病の予防、診断又は治療を専ら目的とする医療」の範囲に準ずる事例報告には、医師の裁量の元、もしくは当事者の了解の元に、標準とは違う医療行為の実施、外国の検査会社や外部の研究機関に遺伝学的検査を依頼した場合など、正式な研究計画書を書けるほど確定していない、もしくは、研究の端緒となるような事例の紹介の場合がある。その場合には「症例報告」(カテゴリーA)に準ずるが、発表に関する同意を必ず患者・クライエント(またはその代諾者)から得る。

 

⑤高難度新規医療技術・未承認新規医療品等による医療の提供にあたっては、厚生労働科学特別研究班「高難度新規医療技術の導入プロセスにかかる診療ガイドライン等の評価・向上に関する研究班」により「高難度新規医療技術の導入に当たっての医療安全に関する基本的な考え方」8)が作成されている。これらに該当する場合には、研究を目的としない症例報告においても各機関の方針に則った手続きが行われていることが求められる。

参考

【応募演題のカテゴリー分類とカテゴリーを判断するためのフローチャート】

図 1     応募演題のカテゴリー分類:PDF

図 2     応募演題のカテゴリーを判断するためのフローチャート:PDF

附則

1.この指針は、令和5年6月22日から施行する。