このたび、中村清吾前理事長の後任として、第二代理事長を拝命いたしました大野真司でございます。
中村前理事長は、我が国における遺伝性乳癌卵巣癌に関する医療の普及・啓発にご尽力され、その発展に多大なる貢献を果たされました。その後任として、大きな責任を感じるとともに、身の引き締まる思いでございます。今後は、遺伝性乳癌卵巣癌医療の質の向上に向けて、真摯に取り組んでまいりたいと存じます。
遺伝子研究や解析技術の進展により、がん医療における遺伝性腫瘍の重要性は年々高まっております。特に、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントに起因する遺伝性乳癌卵巣癌は、患者数も多く、予防・診断・治療に加え、本人のみならず家族への心理的なサポートも見据えた長期的かつ包括的な診療体制の整備が強く求められています。
こうした背景を受けて、我が国における遺伝性乳癌卵巣癌症候群の診療体制整備と拡充を目的に、日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会の助言と指導のもと、2016年に日本乳癌学会、日本産科婦人科学会、日本人類遺伝学会の三学会が中心となり、「一般社団法人 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構」が設立されました。
さらに、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを有する方では、前立腺癌・膵臓癌・胃癌・食道癌・胆道癌などの罹患リスクも高いことが明らかとなってきたことから、2024年には、日本癌治療学会も本機構に加わり、より幅広いがん医療領域に対応する体制が整えられました。
当機構では、遺伝性乳癌卵巣癌の総合診療における質の保証と向上を目的に、主に以下の3つの事業を展開しております。
■ 施設認定事業
診療体制を患者および医療関係者に分かりやすく提示するために、遺伝性乳癌卵巣癌診療を行う施設を「基幹施設」「連携施設」「協力施設」の3つに区分し、施設認定を行っています。どの施設でどのような医療サービスを受けられるかを公表し、受診や施設連携の指針としています。
■ 教育研修事業
遺伝性乳癌卵巣癌に関する教育研修を実施するとともに、施設認定の要件として、当該施設の医療従事者が所定の研修を受講することを求めています。初学者向けのE-learningと、更新者向けのアップデートセミナーの2本立てのプログラムにより、遺伝学・乳癌・卵巣癌・その他関連癌に関する知識を体系的かつ網羅的に学べる体制を整えています。
■ 登録事業
2015年に日本HBOCコンソーシアムで開始された登録事業は、現在は当機構に継承されています。2025年7月時点の集計では、BRCA検査受検者は約19,300例、うち病的バリアント陽性者は約5,900例となっており、着実に登録数が増加しています。本データは、日本における遺伝性乳癌卵巣癌医療において極めて貴重な「ビッグデータ」となっています。
また、医療従事者向けの遺伝性乳癌卵巣癌診療ガイドラインと患者・家族・一般の方向けのガイドブックを発刊し、最新のエビデンスに基づいた遺伝性乳癌卵巣癌の診断、管理、および治療の具体的な指針を提供しています。
現在、遺伝性乳癌卵巣癌に関する医療の重要性は、日常診療の中でもさらに高まりを見せており、欧米のみならずアジア諸国でもその医療体制は着実に進化しています。
我が国においても、未発症者を含めた診断・治療の保険適用に関する制度整備、専門家や医療資源の不足への対応と体制の構築や診療連携の強化、社会全体での認知度向上・啓発活動(gene awareness等)、心理的・社会的支援(就労・妊娠出産・保険等)を含めたトータルケア体制の整備が急務となっております。
これまで、中村前理事長をはじめとする理事会の皆様が、本領域の発展のために多方面で活動され、関連学会との連携を深めてこられました。今後も、これまで以上に関係学会と緊密に連携を図りながら、我が国における遺伝性乳癌卵巣癌医療のさらなる充実、そして本領域における保険診療の確立を目指し、全力で取り組んでまいります。
皆様のご理解とご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。