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Ⅱ-3 卵巣癌領域

BRCA1/2 病的バリアント保持者に対し,リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が実施されない場合,卵巣癌のサーベイランスの方法は何が推奨されるか?

ステートメント

BRCA1/2 病的バリアント保持者で RRSO が実施されない場合, 30~35 歳から医師の判断で経腟超音波検査および血清 CA125 検査を考慮してもよい。ただし,これらのサーベイランス法が RRSO の代替法として妥当であることを示すエビデンスはない。

  1. 1本 BQ の背景

    BRCA1/2 病的バリアント保持者において,卵巣癌の発生リスクを低下させ生命予後を改善するために RRSO が推奨されている。ここでは妊孕性温存希望がある場合やその他の理由により RRSO が実施できない場合の卵巣癌のサーベイランスの方法について検討した。

  2. 2解説

    これまでに行われた卵巣癌スクリーニングの有用性を検証した大規模な研究に関して解説する。

    ❶ 一般健常者を対象とした卵巣癌スクリーニングの有用性

    Prostate, Lung, Colorectal, Ovarian(PLCO)Cancer Screening Trial では, 55~74 歳の 78,216 人の女性を 1993~2001 年の間に登録し,スクリーニング群(1 年毎の経腟超音波検査と血清 CA125 検査を 4 年間行い,その後 2 年間は 1 年毎の血清 CA125 検査を実施)と非スクリーニング群にランダム化してスクリーニングの有用性を検証した。中央値 12.4 年の観察期間でスクリーニングにより卵巣癌の死亡率は減少しなかった〔RR:1.18(95%CI:0.82-1.71)〕1)。さらに観察期間を中央値 14.7 年に延長して再度解析を行ったが,同様の結果であった〔RR:1.06,(95%CI:0.87-1.30)〕2)

    UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening(UKCTOCS)では 50~74 歳の閉経後の 202,638 人の女性が 2001~2005 年に登録され,非スクリーニング群,複合的スクリーニング群〔1 年毎に risk of ovarian cancer algorithm(ROCA)に基づく血清 CA125 検査を行い, ROCA スコアが上昇していれば経腟超音波検査を実施〕,経腟超音波検査群(1 年毎に経腟超音波検査を実施)にランダム化された。中央値 11.1 年の観察期間で,卵巣癌と腹膜癌の Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ a 期の割合は,非スクリーニング群〔574 例中149 例(26%)〕と比較して複合的スクリーニング群で有意に高かった〔299 例中119 例(40%),P<0.0001〕。しかし,複合的スクリーニング群の卵巣癌の死亡率の有意な低下は認められなかった3)

    ❷ 卵巣癌発生高リスク群( BRCA1/2 病的バリアント保持者を含む)を対象として卵巣癌スクリーニングの有用性

     UK Familial Ovarian Cancer Screening Study(UKFOCSS)phase Ⅰ では卵巣癌の推定生涯リスクが 10%以上の 3,563 人の女性に 2002~2008 年まで 1 年毎の血清 CA125 検査と経腟超音波検査でスクリーニングが行われた。スクリーニング開始後に検出された卵巣癌または卵管癌 13 例中 4 例(30.8%)は Ⅰ / Ⅱ 期であった。卵巣癌または卵管癌 Ⅲ c 期以上の割合は,スクリーニングから 1 年以内に診断された群〔23 例中6 例(26.1%)〕よりスクリーニングから 1 年以上経過して診断された群〔7 例中6 例(85.7%)〕で有意に高かった(P=0.009)4)

    UK Familial Ovarian Cancer Screening Study(UKFOCSS)phase Ⅱ では卵巣癌の推定生涯リスクが 10%以上の 4,348 人の女性に 2007~2012 年まで ROCA に基づく血清 CA125 検査(4 カ月毎)と経腟超音波検査(1 年毎または ROCA スコアが上昇していれば 2 カ月以内)でスクリーニングが行われた。スクリーニング開始後に検出された卵巣癌または卵管癌 13 例中 5 例(38.5%)は Ⅰ / Ⅱ 期であった。 1 年以内に発生する卵巣癌または卵管癌を検出する感度,陽性的中率,陰性的中率はそれぞれ 94.7%, 10.8%, 100%であった。また卵巣癌または卵管癌 Ⅲb – Ⅳ 期の割合は,スクリーニング終了後 1 年以上経過して発見された群〔18 例中17 例(94.4%)〕よりも最終のスクリーニングから 1 年以内に発見された群〔19 例中7 例(36.8%)〕で有意に低かった(P<0.001)5)

    乳癌または卵巣癌の濃厚な家族歴または BRCA1/2 病的バリアントを保持する女性 3,692 人を対象とした研究では, ROCA に基づく血清 CA125 検査(3 カ月毎)と経腟超音波検査(1 年毎または ROCA スコアが上昇した場合)によるスクリーニングが行われた。スクリーニング開始後に 6 例の卵巣癌が検出され,このうち 3 例(50%)がⅠ/Ⅱ期であった。これは過去の報告から算出された BRCA1 病的バリアント保持者の卵巣癌 Ⅰ / Ⅱ 期の割合(10%)より早期ステージでの感度が有意に高かった6)。一方で,このダウンステージが生存率の改善につながるかはまだ明らかにされていない。

    ❸ 患者の生活の質(QOL)

    GOG-0199 は RRSO または卵巣癌スクリーニング(3 カ月毎の ROCA に基づいた血清 CA125 検査と 1 年毎または ROCA スコアで異常を認めた場合の経腟超音波検査)を選択した卵巣癌ハイリスク女性の調査を行う前向きコホート研究で,参加者は登録時, 6 , 12 , 24 , 60 カ月に生活の質(quality of life:QOL)に関するアンケートに回答した。 60 カ月のアンケートの回答率は 60%であった。アンケート結果を解析した結果,長期間の頻回な卵巣癌スクリーニングは健康関連 QOL に悪い影響を与えなかった7)

    ❹ 費用対効果

    スクリーニング関連の陽性的中率が低い(5~10.8%)ということが大きな課題と考える4)6)。この陽性的中率の低さは, 1 つの卵巣癌が発見されるために多くの手術が実施されていることを意味する。過去の,卵巣癌が疑われる患者の管理に対する婦人科超音波検査の質の影響を評価する前向きランダム化試験では,専門性の高い超音波検査を受けた群が一般的なルーチンによる超音波検査を受けた群に比して,不必要な手術を受ける回数や入院期間が短いことが示されており8),最近の ESGO等によるコンセンサス・ステートメントでは超音波の専門家による主観的評価が,良性および悪性の卵巣腫瘍の鑑別に最も優れているとされる9)。疾患の早期発見に関する現行のスクリーニング検査の限界と進行卵巣癌における予後の厳しさを踏まえ,早期診断に有用な非侵襲的癌バイオマーカーを探索するための大規模な前向き臨床研究が進行中であり,その結果が待たれる。

    ESGO:European Society of Gynaecological Oncology

    ❺ まとめ

    一般健常者を対象とした卵巣癌スクリーニングに関するランダム化比較試験では, 1 年毎の血清 CA125 検査と経腟超音波検査によるスクリーニングでは卵巣癌の死亡率低下は認められなかった。一方で,卵巣癌発生ハイリスク群( BRCA1/2 病的バリアント保持者を含む)に対しては卵巣癌のスクリーニングとして 3 または 4 カ月毎の ROCA に基づいた血清 CA125 検査と経腟超音波検査(1 年毎または ROCA スコアが上昇した場合)が行われた。これにより卵巣癌の早期発見例の割合が増える可能性が示唆されたが,卵巣癌の死亡率が低下するかは不明である。また 1 年毎のスクリーニングと比較して 3 または 4 カ月毎のスクリーニングが有効であるかについても十分なエビデンスはない。海外のガイドラインでは, 6 カ月毎の CA125 検査と経腟超音波検査と記載するものもみられるが,現状では低い推奨度にとどまる10)。血清 CA125 検査と経腟超音波検査によるスクリーニングは健康関連 QOL に悪い影響を与えないことから医師の判断で考慮してよい。一方で,陽性的中率は低いとの報告もあり,手術等による侵襲が大きくならないよう,精度の高い超音波検査法や非侵襲的バイオマーカーの確立が待たれる。

  3. 3主な検索キーワード

    BRCA,ovarian cancer,CA125,imaging,ultrasound,CT,PET-CT,surveillance

  4. 4参考文献

    • 1) Buys SS, Partridge E, Black A, et al;PLCO Project Team. Effect of screening on ovarian cancer mortality:the prostate, lung, colorectal and ovarian(PLCO)cancer screening randomized controlled trial. JAMA. 2011;305(22):2295-303.[PMID:21642681]
    • 2) Pinsky PF, Yu K, Kramer BS, et al. Extended mortality results for ovarian cancer screening in the PLCO trial with median 15 years follow-up. Gynecol Oncol. 2016;143(2):270-5.[PMID:27615399]
    • 3) Jacobs IJ, Menon U, Ryan A, et al. Ovarian cancer screening and mortality in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening(UKCTOCS):a randomised controlled trial. Lancet. 2016;387(10022):945-56.[PMID:26707054]
    • 4) Rosenthal AN, Fraser L, Manchanda R, et al. Results of annual screening in phase Ⅰ of the United Kingdom familial ovarian cancer screening study highlight the need for strict adherence to screening schedule. J Clin Oncol. 2013;31(1):49-57.[PMID:23213100]
    • 5) Rosenthal AN, Fraser LSM, Philpott S, et al;United Kingdom Familial Ovarian Cancer Screening Study collaborators. Evidence of stage shift in women diagnosed with ovarian cancer during phase Ⅱ of the United Kingdom familial ovarian cancer screening study. J Clin Oncol. 2017;35(13):1411-20.[PMID:28240969]
    • 6) Skates SJ, Greene MH, Buys SS, et al. Early detection of ovarian cancer using the risk of ovarian cancer algorithm with frequent CA125 testing in women at increased familial risk- combined results from two screening trials. Clin Cancer Res. 2017;23(14):3628-37.[PMID:28143870]
    • 7) Mai PL, Huang HQ, Wenzel LB, et al. Prospective follow-up of quality of life for participants undergoing risk-reducing salpingo-oophorectomy or ovarian cancer screening in GOG-0199:An NRG Oncology/GOG study. Gynecol Oncol. 2020;156(1):131-9.[PMID:31759774]
    • 8) Yazbek J, Raju SK, Ben-Nagi J, et al. Effect of quality of gynaecological ultrasonography on management of patients with suspected ovarian cancer:a randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2008;9(2):124-31.[PMID:18207461]
    • 9) Timmerman D, Planchamp F, Bourne T, et al. ESGO/ISUOG/IOTA/ESGE Consensus Statement on pre-operative diagnosis of ovarian tumors. Int J Gynecol Cancer. 2021;31(7):961-82.[PMID:34112736]
    • 10) Sessa C, Balmaña J, Bober SL, et al;ESMO Guidelines Committee. Risk reduction and screening of cancer in hereditary breast-ovarian cancer syndromes:ESMO Clinical Practice Guideline. Ann Oncol. 2023;34(1):33-47.[PMID:36307055]