JOHBOC 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 | 編

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本ガイドラインで用いる
用語の解説

遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)
狭義にはBRCA1あるいはBRCA2BRCA1/2)の生殖細胞系列病的バリアントに起因する乳癌,卵巣癌,さらには前立腺癌,膵癌等の易罹患性症候群であり,広義にはBRCA1/2以外の易罹患性に関わる複数の遺伝子に起因するものを含む場合がある。がんの発症・未発症を区別しない概念である。
相同組換え修復(homologous recombination repair:HRR)
DNAの二本鎖切断を正確に修復するために使用される。BRCA1/2はHRRにおいて重要な役割を果たす。相同組換え修復に異常が生じている状態を相同組換え修復欠損(homologous recombination deficiency:HRD)と呼ぶ。
BRCA遺伝学的検査
HBOCの診断のためにBRCA1あるいはBRCA2の生殖細胞系列バリアントを調べる検査を本ガイドラインでは「BRCA遺伝学的検査」と記載する。
多遺伝子パネル検査(multi—gene panel testing)
複数の遺伝子の病的バリアントを網羅的に解析することで,個人の遺伝的なリスクを推定するための検査。本ガイドラインでは特に,がんの発症に関わる生殖細胞系列病的バリアントを検出する検査を示す。
バリアント
バリアントとはDNA塩基配列における個人差を示すものであり,病気の原因と考えられるもの,病気の原因とは考えられないもの,および現時点では判断できないものがある。遺伝子の病的バリアント(変異)には生殖細胞系列のものと後天的に体細胞に生じたものがある(日本医学会.医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン,2022年.https://jams.med.or.jp/guideline/geneticsdiagnosis_2022.pdf)
病的バリアント(pathogenic variant)
日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2022年)による「分析的妥当性」「臨床的妥当性」が確立した検査で検出され,疾患の表現型に関与すると判断できることを原則とする。バリアントの病的意義の解釈には,ACMG/AMPのガイドラインやENIGMAのガイドライン等が使用されることが多い。公的データベースに病的バリアントとして登録されていたとしても,false positiveである場合があるので,必要に応じて,臨床情報等を含めて総合的に検討する。特に,生殖細胞系列に病的バリアントを認める場合はgermline pathogenic varian(t GPV)と呼ぶ。
* ACMG:American College of Medical Genetics
  AMP:Association of Molecular Pathology
  ENIGMA:Evidence-based Network for the Interpretation of Germline Mutant Alleles
病的バリアント保持者(pathogenic variant carrier)
わが国では「保因者」という用語が常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式の疾患においてヘテロ接合でバリアントを保持するももの,生涯にわたって表現型を示さない人を指す場合に用いられてきた。HBOCをはじめとした常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式の遺伝性腫瘍は成人—高齢発症の場合もあり,「保因者」という用語が,今後表現型を示さないという誤解を避けるため,ここでは「病的バリアント保持者」とする。
Germline Findings
全ゲノム解析,全エクソーム解析,がんゲノムプロファイリング検査等で同定された明らかな病的バリアントについて,本来の検査の目的であるものは「一次的所見」,本来の目的ではないが解析対象となっている遺伝子で特に生殖細胞系列と疑われる病的バリアントは「二次的所見」と呼ばれてきた。一方で「二次的」という言葉を用いることが適切かどうかという議論がある。本ガイドラインでは,がんゲノムプロファイリング検査で生殖細胞系列由来が同定あるいは疑われる病的バリアントをGermline Findingsと呼ぶ。
PGPV(presumed germline pathogenic variant)
生殖細胞系列由来であることが推定される病的バリアント。がんゲノム医療のように腫瘍組織や血液循環腫瘍DNA(ctDNA)のみを検体とした解析の結果から,生殖細胞系列由来であることが推定される場合に用いられる。
VUS(Variant of uncertain significance)
遺伝学的検査において,標準塩基配列とは異なっているが病的意義が不明または確定していないバリアント。将来的に結果の解釈が変更となる可能性がある。結果の解釈が変更された場合は,検査会社から追加レポートが発行される可能性があるため,検査対象者と再度連絡を取れる(リコンタクト)体制を整える必要がある。
Inconclusive
検査の技術的な限界等が原因で,検査結果や臨床的意義が判断できないバリアント。解釈が変更される可能性がある。特定の治療薬選択の適応とはならない(BRACAnalysisの場合)。
Special Interpretation
現在の分類基準(ACMG/AMPのガイドライン等)では,判定が難しいバリアント。タンパク質の機能には影響を及ぼすが,疾患発症率(浸透率)が低いものを示す。特定の治療薬選択の適応とはならない(BRACAnalysisの場合)。
浸透率(penetrance)
ある年齢までに表現型(観察可能な特徴や形質)が出現する率。
リスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo—oophorectomy:RRSO)
事前評価で卵管・卵巣にがんの存在の可能性が少ないと判断した状況のもと,卵巣癌のがん発症リスク低減のために両側卵管・卵巣を摘出する術式を指す。
リスク低減乳房切除術(risk reducing mastectomy:RRM)
事前評価で乳房にがんの存在がないと判断された状況で,乳癌の発症リスク低減のために乳房を切除する術式を指す。片側の乳癌術後に対側の乳房を切除する対側リスク低減乳房切除術(contralateral risk reducing mastectomy:CRRM)および乳癌の未発症者が両側の乳房を切除する両側リスク低減乳房切除術(bilateral risk reducing mastectomy:BRRM)がある。
サーベイランス
ここでは,遺伝性腫瘍関連遺伝子の病的バリアント保持者に対し,がんのハイリスク臓器に対してきめ細かく計画的に検査を行うためのがん予防策を指す。対策型の検診とは概念が異なる。
クライエント
ここでは,遺伝カウンセリングの来談者を指す。遺伝学的検査未施行者やがんの未発症者を含めた血縁者,家族等の関係者も包括する。
遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングは,疾患の遺伝学的関与について,その医学的影響,心理学的影響および家族への影響を人々が理解し,それに適応していくことを助けるプロセスである。このプロセスには,①疾患の発生および再発の可能性を評価するための家族歴および病歴の解釈,②遺伝現象,検査,マネージメント,予防,資源および研究についての教育,③インフォームド・チョイス(十分な情報を得たうえでの自律的選択),およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング,等が含まれる(日本医学会.医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン,2022年.https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis_2022.pdf)。