Ⅱ-3 卵巣癌領域
低侵襲手術で行い,切除範囲を意識し,かつ術中播種を予防する手術操作が推奨される。
BRCA1/2 病的バリアント保持女性に対して卵巣癌の発症リスクを低減することを目的としてリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)が推奨される。しかし実施にあたっては良性疾患に対する付属器切除術の術式とは異なり, HBOC の臨床病理学的特徴を考慮した術式が求められるため標準的な術式について検討する。
健常臓器摘出の観点からは低侵襲手術で行われることが望ましい。 RRSO 検体から浸潤性または上皮内の卵巣,卵管および腹膜癌が 2.2%~ 4.6%の頻度で発見されることが報告されており1)~4), RRSO 施行時には腹腔内の十分な観察と腹腔洗浄液細胞診,腹膜に所見があれば生検が必要である。 BRCA1/2 病的バリアント保持者に対する卵巣摘出術後の残存卵巣から卵巣癌が発生したとの報告はないものの,良性疾患での症例報告はあるため5),卵巣の完全摘出を心がけなければならない。 RRSO を模擬した手順で子宮角で卵管を切除した際の子宮検体 20 例を病理学的に検討した前向き研究では,子宮角 40 箇所中 29 箇所(73%)で長さ中央値 6 mm,表面積中央値 14 mm2で子宮角に卵管が残存していたことに注意が必要である6)。上記を考慮し, RRSO は以下の手順,術式で行われることが推奨される7)~10)。
RRSO 施行時の子宮合併切除の適否については従前より議論が続けられてきたが7)11),依然として一定の見解は得られていない。乳癌に対するホルモン療法や卵巣欠落症状等に対するホルモン補充療法時にメリットがあるとも考えられている12)13)。 1,083 例の RRSO のみが行われた BRCA1/2 病的バリアント保持者を対象とした前向きコホート研究では,観察期間中央値 5.1 年の間に子宮内膜癌が発生したのは 8 例であり RRSO 後の明らかなリスク増加は認められなかった14)。一方で, BRCA1 病的バリアント保持者では子宮体部漿液性癌のリスクが増加[0.18 expected〔O/E ratio:22.2(95% CI:6.1-56.9,P<0.001)〕]していた。以上を踏まえて,( BRCA1 病的バリアント保持者に対して)子宮の合併切除を行うことのメリットとデメリットについて術前に十分な説明を行う15)。ただし, RRSO 施行時の子宮摘出については,子宮摘出を実施する保険適用がある場合を除いて保険収載されていないことに注意が必要である。
RRSO 摘出検体の病理組織学的診断に関しては,sectioning and extensively examining the fimbriated end(SEE-FIM)プロトコールに準じて標本を作成し診断されることが求められる16)(卵巣癌 CQ2 参照)。また,その際にオカルト癌や漿液性卵管上皮内癌(serous tubal intraepithelial carcinoma:STIC)を認める場合がある。遺伝カウンセリング体制ならびに病理医の協力体制が整っている施設において,婦人科腫瘍専門医が臨床遺伝専門医と連携して RRSO を行うことが推奨される17)。
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