国内では,「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(いわゆるLGBT 理解増進法)」が2023 年6 月23 日に施行されている。また,標準家系図用語体系では2022 年の改定で,ジェンダーに関する表記が追加・更新されている1)2)。そこには,医療サービスを受ける個人が,自身の健康データと医学的ナラティブ(語り,物語)の所有権を有することが認識され,個人と家族の医療文書の作成は,医療提供者が患者と共有するものになりつつある背景がある。自身の医療記録へ完全にアクセスできる患者は,自らの健康を改善し維持するための取り組みにより参加する傾向が強いことが示されており3),人々が自身の電子カルテにアクセスできるようになると,患者の差異やアイデンティティを尊重した診療を行うことが重要になる。
主な変更点として,①性(セックスとジェンダー)に関する記号と用語を定義,②保因者を表す「ドット」の廃止,③評価・検査を表す「E」の削除(内容は「E」を使用せずに記載)があげられる。
推奨されている記載方法を図1~4 1)2)に示す。
生物学的な属性であるセックスと文化的社会的な属性であるジェンダーを区別し,家系図記号はジェンダーを表す(四角,丸,菱形)。そのため,家族歴を聴取する者は,まず発端者・相談者へ質問してジェンダーを確定する。
ジェンダーアイデンティティが出生時に割り当てられたセックスと一致している個人(シスジェンダー)の場合は,記号の下に記載は不要である。菱形の下に記載がない場合は,個人のセックスおよびジェンダーが不明または特定できないことを示す。それ以外は,ジェンダーの記号の下に,AMAB(assigned male at birth,出生時に男と割り当て),AFAB(assigned female at birth,出生時に女と割り当て),UAAB(unassigned at birth,出生時の割り当てなし)と記載する。ただし,まだジェンダーアイデンティティを表明していない子どもや,妊娠,死産,親族の場合,セックスとジェンダーが一致してないことが判明していない限り,両者は一致するものとする。
機密性とプライバシーを維持するために,個人識別情報を限定する。凡例には,家系図の解釈に必要なすべての臨床情報(例:塗りつぶしや陰影の定義)を含める。
臨床で用いる家系図には,発端者・相談者の名前,識別のための親族の名字やイニシャル(適宜),家系図を記録した人の名前と肩書き,ヒストリアン(家族歴の情報を伝える人),記録・更新の日付,家系図作成の適応(例:超音波異常,家族性のがん,発達遅滞等),両祖父母の祖先(臨床上,関係がある場合)を記載する。
個体記号の下(または右下)には,年齢(または出生年や死亡年),検査結果(例:ゲノムシークエンス,遺伝子パネル,核型,超音波検査等)の他,個体番号(例:I-1,I-2,I-3)等を記載する。
電子カルテ,家系図ソフト,家族・病歴の調査用紙,検査依頼書では,セックスとジェンダーの両方を記録できるようにすることが重要である。両者を混同してしまうと,例えばトランスジェンダーの男性が婦人科的なケアを見落とされることになりかねない。しかし,医療者は,患者の安全を考慮し,対処することも重要である。例えば,差別や偏見にさらされる不幸の可能性を考慮し,この情報を恒久的な診療録の一部として記録するかどうか,どのように記録するかを患者と話し合うことも重要である。