Ⅱ-2 乳癌領域
乳癌未発症のBRCA1/2 病的バリアント保持者に対し,BRRM を条件付きで推奨する。
推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨
エビデンスの確実性:中,合意率:91%(11/12 名)
推奨の解説:本ガイドラインで実施したメタ解析の結果から,乳癌未発症者のBRCA1/2 病的バリアントの保持者におけるBRRM が両側乳房の乳癌発症リスクを減少させることは確実といえる。一方で生存率の改善効果に関しては,RRSO の影響を受けたエビデンスが多く,不確実性が依然として残る。BRRM を提案する際はエビデンスの不確実性を考慮するとともに,価値観の多様性に配慮し,本人だけでなく家族も含めた協働意思決定が重要である。またBRRM の実施に際しては患者と医療者の協働意思決定が極めて重要であり,これらを実践できる遺伝カウンセリングを含む体制が十分に整っている施設で行うべきである。
乳癌未発症のBRCA1/2 病的バリアント保持者において,80 歳までの乳癌累積罹患リスクは約70%と報告されている1)。これらの対象者に対する医学的介入の選択肢はサーベイランスとBRRM である。卵巣癌については早期発見が難しく,適切なサーベイランスが確立されていないこともあり,欧米の各ガイドラインではリスク低減手術の推奨度が高い。一方,乳癌についてはサーベイランスの有効性が確立されているため,BRRM の実施について当事者にどのように説明し,意思決定をすることが適切であるかは難しい問題である。また2020 年4 月より一定の施設基準を満たす医療機関においてHBOC 診療を保険診療として実施することが可能になったが,乳癌未発症者に対するBRRM の実施は卵巣癌・卵管癌・原発性腹膜癌の既発症者に限定されており,これらが発症していない場合には依然として自費診療の中で行う必要がある。
本CQ ではBRRM 実施と非実施の2 群間で,「乳癌発症リスクの低減効果」「全生存率」「合併症」「費用対効果」「患者の意向」「患者の満足度」の6 項目をアウトカムとして設定して評価した。
本CQ に対する文献検索の結果,本ガイドライン2021 年版に加えて新たにPubMed380編,Cochrane68編,医中誌107編が抽出され,計555 編がスクリーニング対象となった。2 名のシステマティックレビュー委員が独立して計2 回の文献スクリーニングを行い,抽出された18 編がシステマティックレビューの対象となった。本ガイドラインでは,新たに「乳癌発症リスクの低減効果」に関して2 編の論文を採用し2)3),本ガイドライン2021 年版で採用された論文6編4)~9)と合わせて定量的システマティックレビュー(メタ解析)を行った。その他の採用論文は「乳癌全生存期間」1 編,「合併症」2編,「費用対効果」4 編,「患者の満足度」9 編,「患者の意向」6 編であり,これらについては定性的システマティックレビューを行った。
今回,新たに2 編を加えた8 編でメタ解析を行った。BRCA1 およびBRCA2 を合わせて解析した結果では,RR:0.06(95%CI:0.03-0.15,P<0.00001)であった(図1a)。統計学的な異質性は中等度であった(I2=63%)。またBRCA1 およびBRCA2 のイベント数が判明している文献でBRCA1 とBRCA2 を分けて解析しても,前者ではRR:0.07(95%CI:0.02-0.23,P=0.0001),後者ではRR:0.08(95%CI:0.02-0.30,P<0.0002)であり,2 つの遺伝子の違いによる差はほとんどないことが示された(図1b,c)。ただし,いずれの検討においてもfunnel plot により出版バイアスが否定できない結果には注意が必要である。しかしながら,各研究や今回のメタ解析を通して乳癌発症リスク低減効果は一貫しており,エビデンスの確実性は強とした。【エビデンスの確実性:強】
全生存率を検討している論文ではサーベイランス群と比較してBRRM 群で予後を改善する傾向を示す報告はあるものの,多くの論文でRRSO が行われている対象者が含まれている。Heemskerk-Gerritsen らの報告によると,死亡率に関する検討ではサーベイランス群に対してBRRM 群はHR:0.20(95%CI:0.02-1.68)であった4)。またIngham らの報告によると,生存率に関する検討ではサーベイランス群に対してBRRM 群ではHR:0.25(95%CI:0.03-1.81)であった5)。また,今回新たに加わったMarcinkute らの報告では,サーベイランス群に対してBRRM 群でHR:0.32(95%CI:0.09-1.17,P=0.091)と予後を改善する傾向を示しているものの,統計学的な有意差は示されず,またRRSO の交絡も調整されていなかった3)。よって,今回新たに加わった文献を踏まえても,全生存率に関してはいずれも予後を改善する傾向を示しているが,有意差は認められていない。また多くの研究で多変量解析が行われておらず,RRSO 等の交絡因子の調整がされていないことが重要な点である。さらに,BRRM の選択は患者本人の意思によるものであり,この点でも選択・実行バイアスが大きくなると考えられる。このような理由からエビデンスの確実性は弱とした。【エビデンスの確実性:弱】
研究毎にアウトカムが大きく異なっており,手術関連の合併症,ボディイメージ,満足度,健康関連QOL(health-related QOL)等,多岐にわたる。手術関連の合併症の報告では,30 日以内の術後早期合併症が51.6%に認められ,部分的な皮弁壊死が29.9%と最多であり,続いて創感染17.0%,血腫形成8.1%,漿液腫(seroma)7.6%に認められている。
30 日以降では感染症が9.9%に認められた。また再建術が行われている症例ではインプラント関連の合併症(被膜拘縮,感染あるいは皮弁壊死によるインプラント抜去等)が29.8%,自家組織再建関連の合併症(再手術,皮弁の部分または全壊死等)は58.3%と報告されている10)。また,今回新たに加わった2 編はいずれも再建術を行っている症例についての報告であり11)12),この2 編を加えても,合併症の報告については患者背景やアウトカムに統一性がなく,ほとんどの研究がBRRM を実施した患者の単アーム研究であることからエビデンスの確実性は非常に弱とした。【エビデンスの確実性:非常に弱】
わが国から1 編,Yamauchi らの報告があり,35 歳でRRM を実施,45 歳でRRSO を実施する設定で検討されているが,BRCA1 ではRRM+RRSO を,BRCA2 ではRRM を行うことが最も優れた費用対効果があることを示した13)。ただし,この研究ではMarkov モデルを解析に用いているが,その際に用いられているデータはすべてわが国のデータではないことが研究の限界(limitations)になっている。
今回,新たに4 編の報告が加わっており,うち2 本でシステマティックレビューの結果が報告されている。Wei X らの報告では,22 編のシステマティックレビュー(うち9 編がBRCA1/2 病的バリアント保持者に対するRRM,RRSO の検討)の結果が報告されており,予防切除術は,サーベイランスまたは介入なしと比較した場合,乳癌の高リスク,卵巣癌の中間/高リスク,子宮内膜癌の高リスクの女性において,ほとんどの研究で極めて費用対効果が高いか,または費用を節約するという結果であった14)。また予防切除術は様々な感度分析においても費用対効果を維持し,手術や治療の費用にはあまり影響されなかった。また,Simões らのシステマティックレビューではRRSO を受けた報告も含まれているが,リスク低減手術を受ける割合が低いほどICER が高くなり,逆に高いほどICER が低くなるという傾向がみられた15)。以上より,海外の論文も概ねBRRM による良好な費用対効果があることを示唆する結果を報告しているが,研究毎に評価基準や比較対象に一貫性がないことからエビデンスの確実性は非常に弱とした。【エビデンスの確実性:非常に弱】
本ガイドライン2017 年版ではスクリーニングによって採用された論文はなかったが,今回6 本の論文が採用された。対象集団にCRRM を受けたものやRRSO を受けたものが含まれる論文があり,またBRRM を受けた患者の単群の調査で,比較対象を設定していない論文も含まれている。このうち,Ohsumi らの報告では多変量解析が行われており,RRM を行う因子として有意であったのは,MRIサーベイランスを受けている〔OR:3.6(95%CI:2.04-6.37)〕,子供がいる〔OR:4.0(95%CI:2.00-8.36)〕,乳癌の既往〔OR:3.5(95%CI:1.44-10.59)〕,BRCA1〔OR:2.2(95%CI:1.21-4.03)〕,遺伝学的検査時の年齢が5 歳高齢であったこと〔OR:0.79(95%CI:0.68-0.92)〕があげられた16)。また,Evans らの報告ではBRRM を受ける理由として独立して関連した因子は,50 歳未満で姉妹が乳癌死〔OR 2.4(95%CI:1.7-3.4)〕,母親が60 歳未満で乳癌死〔OR 1.9(95%CI:1.5-2.3)〕,子供がいる〔OR 1.4(95%CI:1.1-1.8)〕,乳房生検の既往〔OR 1.4(95%CI 1.0-1.8)〕であった17)。このように,どのような患者がBRRM を受ける傾向にあるかという報告はあるものの,研究毎に患者の意向の評価項目や評価時期が異なり,大きなばらつきを認めていることから,エビデンスの確実性は非常に弱とした。【エビデンスの確実性:非常に弱】
BRCA1/2 病的バリアントの有無が不明確な対象集団による研究が複数ある。研究毎に満足度の評価項目が異なり,ボディイメージ,QOL,health-related QOL,がんに対する不安(cancer anxiety)等が選択されている。また,比較対象もBRRM を施行していない患者やサーベイランス,CRRM と様々である。
BRRM を行った患者を対象とした研究のシステマティックレビュー18)が報告されており,この中でBRRM の結果について対象者の70%が満足し,実施に対する決断についても高い満足が得られている(84~100%)。その他,心理的ウェルビーイング(psychosocial well-being)72%,ボディイメージ66%,セクシャルウェルビーイング(sexual well-being)62%といずれも良好な満足度を示している。最も重要な点は,BRRM を受けた患者の95%がBRRM の実施について後悔していないという報告もあることからも満足度が高いと考えられる点である。一方で,今回新たに加わった9 編のうち,Torrisiらの報告では,40 歳未満の若年者に限定した7 編のレビューが報告されている19)。この中では,術後にボディイメージが低下した報告もあれば,ボディイメージが維持または改善した報告もあり,結果は統一されていない。全体としてはBRRM を行うことで患者の満足度が大きく損なわれるという報告は少ないものの,このような満足度に関してはBRRM を選択していること自体が患者本人の意思によるものであり,ランダム化をされたものではない。このように報告により非直接性,選択・実行バイアス,非一貫性も大きいためエビデンスの確実性は非常に弱とした。【エビデンスの確実性:非常に弱】
BRRM の乳癌発症リスクの低減効果に関しては,本ガイドライン2021 年版で施行したメタ解析および今回新たに加えた2 編のメタ解析の結果からも統計学的に有意にリスク低減効果が認められた。しかし,本ガイドライン2021 年版に引き続きRRSO の影響が除外できていないことには注意が必要である。全生存率改善効果を報告した論文は新たに1 編が加わったが,統計学的有意差が示されていないこと,一番の交絡因子となるRRSO の影響が調整できていないことから,不確実性が残り今後さらなる検討が必要と考えられる。費用対効果は多くの文献で費用対効果の改善またはその傾向が示されているものの,わが国の保険収載下での調査は1 編のみであり,今後わが国でのデータの集積が求められる。患者の意向に関しては本ガイドライン2021 年版では採用文献がなく,今回新たに6 編が加わり,データの集積が進みつつあるが,いずれも保険収載以前の報告であり,今後わが国でのデータの集積が求められる。患者満足度は評価項目が多岐に渡るため一貫したデータがなく結論付けることはできなかった。
合併症の有無や程度に関しては合併症のアウトカムおよび調査期間が論文毎に異なっており,一概に結論付けることができないと考え,エビデンスの確実性は非常に弱としている。
本CQ の推奨決定会議参加対象委員12 名の内訳は,乳癌領域医師2 名,婦人科領域医師2 名,遺伝領域医師2 名,遺伝看護専門看護師1 名,認定遺伝カウンセラー2 名,患者・市民3 名であった。推奨決定会議の運営にあたっては,事前に資料を供覧し,参加対象委員全員がEvidence to Decision フレームワークを記入して意見を提示したうえで,当日の議論を行った。推奨決定会議には参加対象委員全員が参加した。
委員の意見はほぼ「はい」で統一された結果となった。議論の中ではがんの発症者・未発症者とも乳癌発症のリスクが高いことは同等であるにもかかわらず,未発症者への保険収載がなされていないことが,このCQ の一番の問題であると意見が交わされた。今後,保険収載の条件が未発症者にも広がることを目指すためには,本CQ は非常に重要な意味をもつと考えられると全員が共通の認識をもった。
生存率改善効果に不確実性があることから,望ましい効果に対して慎重に考えるべきであるという委員も複数いる中で,未発症者当事者の委員からは,いつ発症するのか不安はとても大きく,望ましい効果は大きいという率直な意見も出された。また,新規乳癌発症抑制効果は未発症だからこそ余計に大きいと考えるという意見もあった。
一方で,ライフステージに応じた気持ちの変化(価値観,年齢,生活背景,外観の変化に基づくもの)があるため,未発症な状態で乳房を切除することに対する効果を一律に判断するのは非常に難しいという意見もあり,このような考え方の差によって委員の中でも投票の結果が大きく分かれることになったと考えられる。
この検討事項については見解の統一が難しいと認識している委員がほとんどであった。
「望ましくない効果」自体が当事者本人の嗜好性が強く反映される介入であり,医学的な合併症以外にも心理的側面(ボディーイメージや乳房の喪失感等)も含めれば当事者個々で大きく異なる可能性があることが示唆された。乳房の手術の経験がある既発症者と異なり,未発症者は手術による合併症や整容性についてイメージがしづらく,乳癌を発症していない乳房を自費で切除するのは非常にハードルが高いことも重要な視点であるという意見もあった。システマティックレビューの段階でも研究デザインやアウトカムも統一性に大きく欠けていることが指摘されており,様々な観点から考えても本アウトカムの評価の良し悪しをどちらかに決定できるものではないということが共有された。
エビデンスの確実性については全員一致で「中」となった。乳癌発症予防効果に関するエビデンスの確実性が高い一方で,RRSO の介入による排除できないバイアスの存在,卵巣癌既発症者に対するBRRM の不確実性等,現時点で解決できない問題があるために,投票した委員の間で見解の相違はほとんどなかった。
価値観は当事者の抱える様々な背景が大きく影響するため,不確実性またはばらつきの存在が強く意識される。またシステマティックレビューで採用された論文の価値観の評価項目にも大きなばらつきが認められており,客観的にも不確実性やばらつきは無視できない問題として委員の間でも共有された。特に対象者が未発症である点が重要で,自身の乳房に対する手術経験がないため,家族の実体験に大きく左右される可能性がある。一方ではそのような情報が少ない場合にはその影響は少なくサーベイランスで十分と考える場合もあり得る。さらに,年齢や家族構成,人生観,セクシュアリティ,コストを含めた価値観はCRRM よりも個人に委ねられる部分が大きいと考えている委員の意見もあり,改めてBRRM に対しては多様な価値観と対峙する必要があることを考える議論となった。最終的に委員の見解はある程度の「ばらつき」の認識は一致していたものの,「ばらつきあり」と「ばらつきの可能性あり」で意見が割れる結果となった。
望ましい効果と望ましくない効果の引き算の差分が「バランス」ということになるが,引く側の効果が「さまざま」と結論付けられたため,各委員の中でもその判断にばらつきがあることが認識された。しかし,全員が概ね,望ましくない効果の大きさは望ましい効果のそれよりも高くはないと考えていることが共有され,すべての委員で意見が一致する結果となった。
この検討事項については海外からの報告をもとに論じることの妥当性とともに,本ガイドライン2021 年版以降,システマティックレビューで採用された論文のうちわが国からの報告がなく,前回にも採用されたわが国からの唯一の論文についてどのように考えるかの議論が活発に行われた。
海外の報告では概ねBRRM を実施することで良い費用対効果が得られているが,これを医療事情が異なる日本に外挿してよいかという点がもっと重要な論点であった。各国の医療事情が異なるとしても,医療行為に対する価値はそれほど変わらないのであろうという考えのもと,介入の優位性を共通認識とした。また,わが国から報告された論文については,すべて国内のデータで行う費用対効果の研究が待たれるが,現時点で部分的であっても日本人データが使用されている論文の結果は重要であり,高い価値があると考える意見が複数あった。
委員の多くは高い乳癌発症予防効果,有意性が示されていないながらも生存率の改善効果に良好な傾向がみられること,BRRM 後の人生設計をより良い方向に構築できる可能性があるなど,容認性については概ねありと考えていた。しかし,その一方で本CQ の対象者が保険診療の下で手術を選択することができない点が問題であり,すべての当事者にとって様々な意味で公正とはいえないという認識もあり,容認性を一段下げる一因になるとの共通認識がなされた。
この検討事項については意見が大きく分かれる結果となった。BRRM を提供する側には未発症者の自費診療に対応ができ,かつ総合的にHBOC に対応できる実施体制が整備されていることが求められる。またBRRM を受ける側にも経済的に選択できる人とそうでない人がいるため,同じ状況におかれている当事者間でも実際にとることのできる行動には差ができる。このような背景が「おそらくはい」と「さまざま」に二分した結果に影響したと考えられる。
全く違う観点の意見として,保険収載の問題以前に,このような選択肢があるという情報が国民に広まっていない可能性についても言及され,遺伝性腫瘍に関する理解が進むことが今後の課題でもあるという意見もあった。
各検討項目の議論を踏まえたうえで,保険適用があるかないか(未発症者であるかどうか)にかかわらず,BRRM を重要なオプションの1 つとしてしっかり情報提供することの重要性が共有された。また,協働意思決定の中でBRRM とサーベイランスを選ぶ際に,後者はあくまでも早期発見を目指すものであり,発症予防効果を狙ったBRRM とは明らかに目的が異なることを理解してもらうことも重要であるという意見があった。未発症者の中でBRRM を本当に検討すべき対象者は生涯の罹患リスクから約70%と見積もられ,残りの約30%はサーベイランスで十分な対象者といえる。このように未発症者にはベースラインリスクの異なる対象者が混在していることを認識して適切な対応を模索する必要がある点についても意見が交わされた。
NCCN のガイドライン20)ではRRM の利点と欠点を含めたカウンセリングが重要で,当事者と十分に話し合ってRRM の実施について決定するべきであるとされている。ASCO のガイドライン21)では予後改善効果はエビデンスが不十分ながら,診断時年齢,乳癌家族歴,罹患した乳癌や他癌の予後,MRI が受けられるかどうか,並存疾患,平均余命といったRRM を考慮する因子を示している。ESMOのガイドライン22)ではRRM のメリットは30 歳以降で実施するとその恩恵が最も大きくなるが,55 歳を超えるとそのエビデンスは弱くなると記載している。しかし,最終的にはRRM の実施は患者の意向によって決定されていると示している。また,BRRM は利点,合併症,心理社会的インパクトを考慮することが必要で,特に乳癌の罹患がない分,術式の違い,乳房再建術の有無といった美容的側面についても言及している。いずれのガイドラインにおいても,BRCA1/2 病的バリアントを保持しない乳癌患者と比較して乳癌発症リスクが高いことを踏まえた十分な説明をしたうえで,考慮し得る選択肢であるとして記載されている。
わが国からのデータが最も望まれる研究の1 つに費用対効果があげられる。特にわが国のデータのみを用いて医療事情に側した費用対効果の情報は,今後BRRM が選択肢となる乳癌患者にとって重要な協働意思決定材料になり得る。また今回の推奨決定会議でも当事者から要望のあったBRRM を実施した後の長期的な心理的側面の研究も重要である。
BRRM は現時点では未発症者に対しては保険診療の対象外となっている。今後,わが国でもBRCA1/2 病的バリアントを保持するBRRM の対象者に保険適用の縛りなく,希望する対象者に提供できるよう,日本からのBRRM を実施した症例,しなかった症例に関するデータを蓄積し,モニタリングしていくことが重要である。
外部評価団体より本文中の表現に関する指摘を受け,当該箇所を修正した。
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