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Ⅱ-3 卵巣癌領域

リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)後の原発性腹膜癌のサーベイランスの方法は何が推奨されるか?

ステートメント

リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)後の原発性腹膜癌のサーベイランスの方法や必要性について,現時点で推奨を示せるほどのデータはない。

  1. 1本FQ の背景

    BRCA1/2 病的パリアント保持者において,RRSO は卵巣癌,卵管癌,原発性腹膜癌の発生リスクを低下させる最も有効な予防法であるが,RRSO 施行後も,原発性腹膜癌発生のリスクが1~4.9%程度あるとされている1)~5)。RRSO を施行した後の原発性腹膜癌に対するサーベイランスに関して検討を行った。

  2. 2解説

    RRSO 後の原発性腹膜癌のサーベイランスの方法について,文献検索を行ったが,サーベイランスの方法に関して直接的に検討した文献は認められなかった。そこで,RRSO 後に原発性腹膜癌を発症した症例に関する複数の後ろ向き研究について検討した。

    ❶ リスク低減卵管卵巣摘出術後の原発性腹膜癌のサーベイランスの方法

    該当文献なし。

    ❷ RRSO 後の原発性腹膜癌を発症した患者の特徴

    BRCA1 の病的バリアントが多い,RRSO 施行時の年齢が高い,RRSO 検体におけるSTIC の併存が多いという報告がある6)。特にRRSO 検体におけるSTIC の併存については複数の報告があり5)7),RRSO 検体にSTIC を認めた78 例を集積したシステマティックレビューによる検討においては,3 例(4.5%)で原発性腹膜癌を認めている8)

    2022 年に発表された17 件の文献,3,121 人のRRSO 施行例を解析したメタ解析によると,RRSO 後に腹膜癌が発生するリスクのHR は,RRSO 時にSTIC を認めない場合と比較して,STIC を認める場合は33.9(95%CI:15.6-73.9)であった。また,STIC を認める場合,原発性腹膜癌発症の5 年および10 年リスクはそれぞれ10.5%(95%CI:6.2-17.2)および27.5%(95%CI 15.6-43.9)であったのに対し,STIC を認めない場合では,それぞれのリスクは0.3%(95%CI:0.2-0.6)および0.9%(95%CI:0.6-1.4)であった9)。なお,このメタ解析では,BRCA1 の病的バリアント,RRSO 施行時の年齢が高いことはSTIC のリスクと関連しているものの,原発性腹膜癌の発症リスクとの関連は明らかでなかった。

    ❸ RRSO 後の原発性腹膜癌を発症した時期

    RRSO 後に原発性腹膜癌を発症した36 例の検討では,RRSO 施行から原発性腹膜癌発症までの期間(中央値)は54.5 カ月であった6)。その他,少数例の報告であるが,RRSO 施行300 例のうち,3 例に原発性腹膜癌が発生し,RRSO 施行から原発性腹膜癌発生までは53,75,92 カ月後であったという報告10)や,RRSO 検体にSTIC を認めた78 例のうち,3 例(4.5%)に原発性腹膜癌が発生し,RRSO 施行から原発性腹膜癌発生までは43,48,72 カ月という報告があった8)。3,121 人のRRSO 施行例を解析したメタ解析によると,STIC を認める場合のRRSO から腹膜癌と診断されるまでの期間の中央値は48 カ月(18-118 カ月)であった。原発性腹膜癌診断の契機は,症状の出現(直腸圧迫感,腹部圧迫感,腫瘤感,疼痛)やCA125 の上昇等が報告されている7)

    これらの報告を総合すると,現時点では原発性腹膜癌に対するサーベイランスについて,推奨するほどのエビデンスはない。しかし,RRSO 検体でSTIC を認めた症例においては,原発性腹膜癌発症の可能性に留意する必要があり,CA125 の測定を考慮してもよいと考える。その一方,STIC を認めない症例においては,原発性腹膜癌発症が10 年で0.9%と低い。STIC の有無による腹膜癌のリスクに差が生じる可能性があることより,RRSO 検体に対しては,STIC を念頭においた十分な病理学的評価が必要である。

  3. 3主な検索キーワード

    BRCA,RRSO,peritoneal cancer,surveillance,cost,patient preference,CA125,imaging,ultrasound,CT,PET-CT

  4. 4参考文献

    • 1) Kauff ND, Satagopan JM, Robson ME, et al. Risk-reducing salpingo-oophorectomy in women with a BRCA1 or BRCA2 mutation. N Engl J Med. 2002;346(21):1609-15.[PMID:12023992]
    • 2) Rebbeck TR, Kauff ND, Domchek SM. Meta-analysis of risk reduction estimates associated with risk-reducing salpingo-oophorectomy in BRCA1 or BRCA2 mutation carriers. J Natl Cancer Inst. 2009;101(2):80-7.[PMID:19141781]
    • 3) Finch AP, Lubinski J, Møller P, et al. Impact of oophorectomy on cancer incidence and mortality in women with a BRCA1 or BRCA2 mutation. J Clin Oncol. 2014;32(15):1547-53.[PMID:24567435]
    • 4) Finch A, Beiner M, Lubinski J, et al;Hereditary Ovarian Cancer Clinical Study Group. Salpingo-oophorectomy and the risk of ovarian, fallopian tube, and peritoneal cancers in women with a BRCA1 or BRCA2 mutation. JAMA. 2006;296(2):185-92.[PMID:16835424]
    • 5) Cortesi L, De Matteis E, Toss A, et al. Evaluation of transvaginal ultrasound plus CA-125 measurement and prophylactic salpingo-oophorectomy in women at different risk levels of ovarian cancer:The Modena Study Group Cohort Study. Oncology. 2017;93(6):377-86.[PMID:28848147]
    • 6) Harmsen MG, Piek JMJ, Bulten J, et al. Peritoneal carcinomatosis after risk-reducing surgery in BRCA1/2 mutation carriers. Cancer. 2018;124(5):952-9.[PMID:29315498]
    • 7) Zakhour M, Danovitch Y, Lester J, et al. Occult and subsequent cancer incidence following risk-reducing surgery in BRCA mutation carriers. Gynecol Oncol. 2016;143(2):231-5.[PMID:27623252]
    • 8) Patrono MG, Iniesta MD, Malpica A, et al. Clinical outcomes in patients with isolated serous tubal intraepithelial carcinoma(STIC):a comprehensive review. Gynecol Oncol. 2015;139(3):568-72. [PMID:26407480]
    • 9) Steenbeek MP, van Bommel MHD, Bulten J, et al. Risk of peritoneal carcinomatosis after risk-reducing salpingo-oophorectomy:A systematic review and individual patient data meta-analysis. J Clin Oncol. 2022;40(17):1879-91.[PMID:35302882]
    • 10) Stanciu PI, Ind TEJ, Barton DPJ, et al. Development of peritoneal carcinoma in women diagnosed with serous tubal intraepithelial carcinoma(STIC)following risk-reducing salpingo-oophorectomy(RRSO). J Ovarian Res. 2019;12(1):50.[PMID:31128592]