Ⅱ-2 乳癌領域
BRCA1/2 病的バリアントを保持する周術期乳癌患者に対し,プラチナ製剤の投与によるメリットは明らかではない。トリプルネガティブ乳癌(TNBC)においてはBRCA1/2 病的バリアントの有無にかかわらずプラチナ製剤を含むレジメンの術前薬物療法は標準療法である。
乳癌の標準的周術期化学療法はアントラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤を用いたレジメンであり,これらにプラチナ系薬剤を上乗せすることで得られる追加効果がBRCA1/2 病的バリアント保持者においてあるのかの検証を行った。
本ガイドライン2021 年版から今回のシステマティックレビューを施行するまでの間に新たに報告されたBRCA1/2 病的バリアント保持者を対象としたプラチナ製剤の有効性を検証したランダム化比較試験の報告はなかった。Keynote522 試験は再発高リスクTNBC を対象にプラチナ系薬剤を含む術前化学療法に免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブを併用する有効性を示した第Ⅲ相試験1)であり,この試験結果よりプラチナ系薬剤を含む術前化学療法にペムブロリズマブを併用する治療がBRCA1/2 病的バリアントの有無にかかわらず標準治療となった。
GeparSixto 試験では,TNBC においてパクリタキセル,ドキソルビシン,ベバシズマブに対してカルボプラチンの上乗せ効果が検証された2)。TNBC 全体315 人ではカルボプラチンによるpCR の改善が認められたが,BRCA1/2 病的バリアント保持者50 人のサブ解析では認められていない(カルボプラチンあり65.4% vs. なし65.7%)。
BrighTNess 試験は,TNBC を対象とした術前Ⅲ相ランダム化比較試験で,そのうち2 群でアントラサイクリン+タキサンの標準化学療法に対するカルボプラチンの上乗せ効果を検証した3)。TNBC全体318 人ではカルボプラチンの上乗せ効果は認められた(pCR 率:カルボプラチンあり58% vs. なし31%)が,BRCA1/2 病的バリアント保持者46 人のサブ解析では認められなかった。
CALGB 40603 試験は,TNBC を対象とした術前薬物療法のランダム化比較試験でアントラサイクリン+タキサンの標準化学療法にカルボプラチンand/or ベバシズマブの上乗せ効果を検証した4 群の比較試験である4)。BRCA1/2 病的バリアント保持者での解析はされなかった。
TBCRC 031(INFORM)試験は,BRCA1/2 病的バリアントを保持するHER2 陰性早期乳癌患者を対象としたシスプラチンとAC 療法を比較したランダム化比較試験である5)。シスプラチン群のpCR は18%,AC 療法群は26%で,シスプラチンの優越性は認められず,アントラサイクリン系薬剤をシスプラチンで置き換えることは推奨できない。
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