HBOCは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(用語集参照)で血縁者と遺伝情報を共有する可能性があります。ご自身にBRCA1/2遺伝子の変化(病的バリアント)が認められる場合,子ども,きょうだいに同じ遺伝子の変化がある確率は男女関係なく50%(2分の1)になります。この場合,父親か母親のどちらかが同じ遺伝子の変化をもっていると考えられます。
解説
がんに限らず遺伝性の疾患には,父親と母親から受け継いだ2つの遺伝子のうち1つに病的な変化があると発症するもの〔常染色体顕性遺伝(優性遺伝)〕と,両方の遺伝子に変化があると発症するもの〔常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)〕があります(図1)。HBOCは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)で子どもに遺伝します。
HBOCの原因遺伝子であるBRCA1/2遺伝子の変化(病的バリアント)は,子どもの世代には性別に関係なく2分の1の確率で受け継がれます(図2)。
例えば,ご自身がHBOCと診断され,子どもが4人いる場合,それぞれの子どもが,2分の1の確率で同じ遺伝子の病的バリアントを受け継ぐことになります。4人とも受け継がれている場合もありますし,4人とも受け継がれない場合もあります。ご自身が陽性(病的バリアントを保持する)であっても,ご自身の子どもが陰性(病的バリアントを保持しない)の場合には,その子ども(孫)も陰性となります。また,ご自身が陰性の場合は,家系に陽性の人がいない場合と,家系のどなたかに陽性の人はいるが,たまたま自分が病的バリアントのある遺伝子を受け継いでいない場合の2通りが考えられます。このため,自分が陰性だから自分の親やきょうだいも陰性であるとは限りません。
血縁者がHBOCと診断された場合,自分も検査を受けるべきでしょうかという相談を受けることがあります。HBOCであるかを知ることはご自身と家族の健康管理に役立ちますので検査が勧められますが,「じっくり考えてから検査を受けたい」や「とりあえず現時点では検査を受けない」など,ご自身の意志が尊重されます。また,検査には推奨される順番があります。例えば,母親の妹(叔母)がHBOCと判明したケースがあるとしましょう。自分も心配だから検査を受けようか悩まれて来院されました。遺伝性疾患の検査は一般的には上の世代からの検査が勧められるため,このケースでは優先されるのは母親となります。まず母親が検査し,陰性であれば,ご自身やご自身のきょうだいは陰性と考えられるため,検査する必要はなくなります。母親が陽性であった場合にはご自身も2分の1の確率で陽性と考えられますので,検査を行う流れとなります。このように,原則は年齢が上の世代からの検査が推奨されますが,実際のケースでは母親が遺伝学的検査を拒む場合や母親が他界しているなどの理由により,下の世代からの検査を行うこともあります。遺伝学的検査の結果を家族や血縁者などに伝えることの意義についてはQ23をご覧ください。
家族や血縁者の影響については,血縁者の年齢や性別なども考慮しながら,遺伝カウンセリングの場で個別に相談するとよいでしょう。