第1章 HBOCについて知っておきたい

Q19

検査の結果が「臨床的意義不明の変化(VUS)」でした。今後どのような対策が必要ですか?

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A

VUSは,今後の研究やデータの蓄積により,がんの発症リスク(がんのなりやすさ)を高めるようなバリアント(陽性)なのか,あるいはがんの発症とは関連のないバリアント(陰性)なのかが明らかになり,そのバリアントの変化の解釈が修正される可能性があります。サーベイランスやリスク低減手術などのがんの早期発見や予防に利用することはできませんが,ご自身の既往歴(ご自身のがんの病歴)や家族歴(家族のがんの発症状況),その他のリスク因子(若い年齢でのがんの発症,性別など)などをふまえたサーベイランス計画が,医療者と話し合いのうえで検討されます。

解説

1VUSの意味と解釈

VUSはバリアント(用語集参照)を認めるが,病的かどうか区別がつかないものをいいます。これは,現時点において,がんの発症に関係するバリアントかどうか,判断できるだけの十分な情報が集まっていないことを意味します。今後研究やデータの蓄積が進むにつれ,病的バリアントの疑いがない「陰性」と判定される可能性もあれば,病的バリアントが疑われる「陽性」と判定される可能性もあります。遺伝学的検査におけるVUSの頻度は人種差がありますが,日本人におけるVUS保持率は,BRCA1/2遺伝子の場合6.5%と報告されています。また,多遺伝子パネル検査では,複数の遺伝子を解析するため,海外の報告ですが30%前後にVUSが検出されます(Q8参照)。
遺伝学的検査において,結果は,①遺伝性のがんの原因となる遺伝子の病的バリアントの保持者,②解析した遺伝子において病的バリアント・VUSが検出されない,③発症リスクに関する意義が明らかになっていないVUSの保持者,の3つに大別することができます(Q17参照)。①は「陽性」と報告され,診断された遺伝性腫瘍症候群いでんせいしゅようしょうこうぐん用語集参照)に関するサーベイランスやリスク低減手術などの遺伝およびがん診療が行われます。②は「陰性」と報告され,今の解析技術でわかりうる範囲で,調べた遺伝子の病的バリアントは認められないことになります。しかし既往歴きおうれきや家族歴に応じて他の遺伝性のがんが疑われるときは,多遺伝子パネル検査などを検討する場合もあります。それに対し,③は現時点において,がんの発症リスク増加と関連する病的バリアントか良性のバリアントか不明です。①で推奨されるサーベイランスやリスク低減手術などの医学的管理は十分に確立されているわけではありませんので,検査結果としては「陰性」と診断されます。

2VUSへの対応

VUS保持者と診断された場合は陰性としての扱いとなり,その遺伝情報を医学的管理の方針決定に利用することができないため,健康保険が適用となるサーベイランス,リスク低減手術やPARPパープ阻害薬そがいやくの対象にはなりません。しかし,ご自身の既往歴や家族歴,その他のがんのリスク因子などを考慮して,リスク評価に応じたサーベイランスを,医療者はご本人へ提案します。VUSが病的バリアントの判定に変わった場合は,サーベイランスやリスク低減手術の対象になります。
VUSの解釈は将来修正される可能性があるため,修正されたときは,検査を行った医療機関を通じてお伝えすることになります。その際に,再度検査料金を払う必要はありません。VUSの場合は通常血縁者の遺伝学的検査は行いませんが,将来,病的バリアントが陽性と診断された場合には,希望があれば検査を行うことができます。

3Inconclusiveインコンクルーシブとは

陽性,陰性,VUS以外の結果として,まれに「Inconclusiveインコンクルーシブ」という結果の報告書が返却される場合があります。Inconclusiveとはバリアントが存在するかどうかがわからない,不確定という意味です。バリアントがあるように見えるけれども,現在の検査の技術的な限界のために明らかにならないだけなのか,またはあるように見えているだけで実際にはないのか,よくわからないあいまいな状態です。別な検査方法で陽性か陰性か明らかになる場合もありますが,不明のままで終わるケースもあります。VUSと同様に,健康保険の適用となるサーベイランス,リスク低減手術やオラパリブの対象にはなりません。