現在のがんの種類や状態,治療内容により異なります。治療を受けながらリスク低減手術の選択肢を考えることができる場合もありますが,現在のがんの治療に専念したほうがよい場合もあります。現在のがん治療が落ち着いた段階で,リスク低減手術について考えることもできます。
解説
リスク低減乳房切除術(RRM)には,両側リスク低減乳房切除術(BRRM)と,すでに片側が乳がん既発症でHBOCと診断された方を対象とする対側リスク低減乳房切除術(CRRM)があります。いずれも,手術により乳がんの発症リスクを下げることができるとされています。
卵巣がん未発症でHBOCと診断された方に対するリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は,卵巣がんの発症リスクを下げることだけではなく,生存期間が延長することが証明されているため,手術を受けることが推奨されています。
現在,がん既発症の方が,どのタイミングでリスク低減手術を受けたほうがよいかについては,定まった方法はありません。がんの状態や現在の治療内容,またリスク低減手術による負担やリスクなどを総合的に検討して個々に考えることになります。
例えば,現在治療中のがんが早期であり手術のみで治療が終了する場合には,再発リスクは低いと考えられます。その場合には,がんの再発リスクよりも,新たにがんを発症するリスクのほうが高いことがあるので,リスク低減手術を行うことを検討してよいかもしれません。
その一方で,現在のがんが進行がんの場合は,抗がん薬を含むしっかりとした治療が必要となります。その場合には,新たにがんを発症するリスクよりも,がんの再発リスクのほうが高いことがあり,リスク低減手術よりも現在のがん治療とその後の定期的な検査を行うことが大切です。
進行がんとして診断されて治療を行った場合,治療後しばらく経過して病気が落ち着いたときに,リスク低減手術について,一度主治医に相談してもよいと思います。治療後しばらく経過をみる期間は2~5年間を目安とする報告があります。乳がんのリスク低減手術を見合わせている間は早期発見のためのサーベイランスを受けるとよいでしょう。
具体的には,①卵巣がんを発症した方がRRMを検討する場合,②乳がんを発症した方がRRSOやCRRMを検討する場合,③卵巣がん・乳がん以外のがん(例えば膵がん)を発症した方がRRSOかRRMを検討する場合があります。
1卵巣がんを発症した方が,RRMを検討する場合
早期卵巣がんと診断され,抗がん薬治療も不要な方では,まずは乳がんのサーベイランスを行いつつ,BRRMの選択肢について相談してもよいと思います。
進行卵巣がんと診断された方では,手術や抗がん薬治療が必要となりますので,治療に専念することが大切です。治療後しばらく経過し,病気が落ち着いたときに,RRMについて相談してよいでしょう。
2乳がんを発症した方が,RRSOやCRRMを検討する場合
早期の乳がんと診断された方の場合には,乳がんに対する治療とともにCRRMやRRSOの選択肢について相談してよいと思います。少し進行した乳がんで抗がん薬や放射線による治療が必要な場合には,治療が落ち着いたタイミングでリスク低減手術について考えてもよいでしょう。
他の臓器に転移がみられる乳がんの場合には,長期に抗がん薬が必要となりますので,まずは治療に専念することが大切です。治療後しばらく経過し,病気が落ち着いたときに,リスク低減手術について相談してもよいでしょう。
3卵巣がん,乳がん以外のがん(例えば膵がん)を発症した方が,RRSOかRRMを検討する場合
膵がんと診断された場合には,手術と抗がん薬による治療や抗がん薬と放射線を組み合わせた治療を行う場合があります。長期に抗がん薬などの治療が必要となりますので,まずは治療に専念することが大切です。治療後しばらく経過し,病気が落ち着いたときに,サーベイランスやリスク低減手術について相談してもよいでしょう。
上記以外にも人によりさまざまな状況が考えられると思います。リスク低減手術についてお考えの際には,遺伝カウンセリングなどを通じて医療者へご相談ください。