第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい【卵巣がん】

Q40

HBOC で発症する卵巣がん(卵管がん,腹膜がん)に特徴はありますか?

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A

HBOC( 遺伝性乳がん卵巣がん,hereditary breast and ovarian cancerの略)と診断された女性に発症する卵巣がん(卵管がん,腹膜がん)は,診断時にすでに進行したがんとして見つかることが多いですが,プラチナ系抗がん薬やPARPパープ阻害薬そがいやくが効きやすく,一般的な卵巣がんと比べ,予後(用語集参照)がよいのが特徴です。

解説

卵管がんや腹膜がん(おなかの内側をおおっている腹膜から発生するがん)は,卵巣がんに特徴が似ているため,同じように扱われます()。ここでは,まとめて卵巣がんとして説明していきます。

1発症する卵巣がんの特徴

HBOCと診断された女性では,一般の女性と比べ,卵巣がんになりやすいことが知られています。生涯のうち卵巣がんになる確率は,一般の女性が1.3%であるのに比べ,BRCA1遺伝子の変化(病的バリアント:用語集参照)の保持者で約40%,BRCA2遺伝子の病的バリアント保持者で約20%と高くなっています。また,若くして卵巣がんになる傾向にあります。卵巣がんになる年齢は,BRCA1遺伝子の病的バリアントを保持する方は35歳,BRCA2遺伝子の病的バリアントを保持する方は40歳頃からの発症が多く,BRCA2遺伝子の病的バリアントを保持する方のほうが,5~10歳ほど遅く発症します。原因となる遺伝子により卵巣がんを発症する確率や,発症しやすい年齢が異なることは,HBOCと診断された女性の卵巣がんに対する最も有効な予防策であるリスク低減卵管卵巣摘出術ていげんらんかんらんそうてきしゅつじゅつ(RRSO,risk reducing salpingo-oophorectomyの略)の選択に重要な点といえます。
また,HBOCと診断された女性で発症する卵巣がんは,自覚症状が乏しく,診断時に進行したがんで見つかることが多く,おなかの中のいろいろな部位に腹膜播種ふくまくはしゅというしこりができたり,腹水ふくすいが大量にたまることがあります。日本では,卵巣がん全体におけるHBOCの頻度は約15%(BRCA1は約10%,BRCA2は約5%)ですが,高異型度漿液性こういけいどしょうえきせいがんというグループにおける頻度は約30%と高くなっています。

2治療について

HBOCと診断された卵巣がん患者さんでは,卵巣がんの治療でよく使われるプラチナ系抗がん薬(カルボプラチンなど)や分子標的薬ぶんしひょうてきやくの一つであるPARPパープ阻害薬そがいやくが効きやすく,一般的な卵巣がんと比べ,予後がよいといわれています。2022年2月現在,HBOCと診断された卵巣がん患者さんでは,初回治療(進行がん)・再発治療のいずれにおいても,プラチナ系抗がん薬による効果が得られた後の維持療法いじりょうほうとして,PARP阻害薬が使用できる可能性があります。PARP阻害薬の使用にあたり,コンパニオン診断(用語集参照)としてBRCA1/2遺伝子検査やmyChoiceマイチョイス診断システムを提案される場合があります(Q26参照)。
なお,すべての卵巣がん患者さんに対して,HBOCの診断を目的としたBRCA1/2遺伝子検査は健康保険の適用となります。HBOCと診断されることで,ご自身のがん治療に関する有意義な情報が得られる可能性がありますので,ご自身のがんが遺伝性のがんと疑われるのかわからない方は,ぜひ主治医に相談してみてください。