第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい【乳がん】

Q31

乳がんのサーベイランスとは何ですか?

お花の画像
A

 一般の方よりもがんを発症しやすい方を対象として,そのがんを早期発見できるように画像検査を中心に定期的な診察をすることをサーベイランスといいます。HBOCもサーベイランスが行われる対象疾患であり,特に乳がんのサーベイランスでは乳房造影にゅうぼうぞうえいMRI 検査の効果が明らかとなっています。

解説

1サーベイランスの対象者

現在,乳がん検診は,対策型検診(住民検診)で行われている5つのがん検診に含まれています(Q21参照)。対策型検診では「死亡率の低下」を目的に個人のがん発症リスク(がんのなりやすさ)を考慮せず,規定の年齢以上のすべての方を対象に行われています。一方,サーベイランスは一般の方よりがん発症リスクの高い方を対象とし,「早期発見」が目的であることが重要な点です。特に,がんを発症しやすい遺伝性疾患で行われることが多いです。HBOCと診断された方もサーベイランスの対象となりますが,健康保険が適用される対象者は「乳がんまたは卵巣がん既発症である方のみ」であることに注意が必要です。現時点では乳がんおよび卵巣がん未発症の方は対策型検診あるいは全額自己負担によるサーベイランスを受けることが必要です(費用負担についてはQ28参照)。

2サーベイランスに用いる検査

次にサーベイランスに用いられる検査について説明します。対策型検診と同様にマンモグラフィが行われ,加えて乳房造影にゅうぼうぞうえいMRI検査が推奨されているところが大きな特徴です。日本では対策型検診で乳房超音波検査も行われることが多いですが,対策型検診およびサーベイランスのいずれもその効果が十分に証明されておらず必須の検査ではありません。ただし,日本では検査機器が広く普及していること,放射線被ばくがなく,造影剤ぞうえいざいも不要なこと,そして乳腺内に隠れてしまうほどの小さな病変を見つけやすいことから,超音波検査の実施が多いと考えられます。
各検査にはそれぞれの特徴があり,マンモグラフィ,超音波検査,造影MRI検査のどの検査方法,またはどの組み合わせが乳がんを発見しやすいかを検証した臨床試験(用語集参照)の結果,最も乳がんを検出する力が高いのが造影MRI検査でした。そのため対策型検診では用いられない造影MRI検査がサーベイランスに採用されているのです。造影MRI検査は非常に優れた検出力であるために,MRIのみでしか指摘することができない病変が見つかることがあります。その場合にはMRIガイド下針生検かはりせいけんという精密検査も必要となりますが,検査体制を整えた施設でしかできませんので,検査が必要になった際には医療者にご相談ください。

3乳房造影MRI検査の注意点

MRIは乳房以外にも広く行われている検査ですが,乳がんの早期発見のためには造影剤の使用が必須となっています。そのため造影MRI検査はどのような方にもできる検査ではないことに注意が必要です。気管支喘息をもっている方,MRIに使用する造影剤にアレルギーをもっている方,人工透析を行っている方,妊娠中の方などは検査を受けることができません。また使用される造影剤の種類によっては脳に蓄積されてしまうことが報告されていますが,健康への長期的な影響は詳しくわかっていません。
それでは造影MRI検査ができない方に対するサーベイランスはどうすればいいのでしょうか。実施可能なマンモグラフィと超音波検査を用いてサーベイランスを行うことになりますが,マンモグラフィは通常の撮影方法に加えてトモシンセシス(3Dマンモグラフィ)という新しい技術を用いることもNCCNガイドライン(用語集参照)では推奨されています。トモシンセシスは通常のマンモグラフィと比べて乳腺の陰に隠れた病変を見つけやすくする工夫がなされています。また,マンモグラフィでの放射線被ばくを心配される方がいると思いますが,現時点までの研究では30歳以上での実施であれば明らかな悪影響はないと考えられています。

最後に,年齢ごとに推奨されるサーベイランスの方法は異なっておりますので,詳細についてはQ21表1をご参照ください。また,どの年齢においても自分の乳房に日頃から関心をもち意識しておくこと,いわゆるブレストアウェアネス(Q30参照)も大切であることを忘れてはいけません。