HBOCと診断されて不安になることは,誰にでも起こりうる自然な心の動きですが,日常生活に支障をきたすような場合には,心の専門家に相談することをお勧めします。心の専門家は症状に応じて,心理カウンセリングや薬物療法を行います。
解説
HBOCやがんが疑われたとき,診断されたときに,病気や遺伝のことについて不安になることは自然なことです。人は困難を乗り越えて適応しようとする力をもっていますが,不安な気持ちを抱えすぎると,食欲低下,不眠,集中力や意欲の低下などの症状が出て,日常生活に影響をきたすこともあります。適応障害,うつ病などの診断がつくような状態になる場合もあります。まずは一人で抱え込まず,家族や信頼できる方など,周りの人に話してみてください。気持ちを言葉にし,誰かに聞いてもらうことは,不安や気分の落ち込みをやわらげる大切な一歩です。思うことを十分に話すことで,問題に思っていることの整理がつき,心がおだやかになっていくこともあります。また,HBOCについての誤解や知識不足から不安が強くなっている場合もありますので,ぜひ担当医や認定遺伝カウンセラーにも相談してみてください。
1心の専門家について
それでも気持ちが楽にならない場合には,心の専門家に相談してみることをお勧めします。特に遺伝の問題は,家族にも関係する心配ごともあるため,家族に気持ちのことを相談しづらい場合もあるかもしれません。心の専門家に相談することは大げさに感じるかもしれませんが,強い不安や気分の落ち込みが続くと,がんの検査や治療を受ける意欲を奪ってしまい,なによりストレスを抱えながら過ごすこと自体がつらいことです。心のケアは,精神科医や心療内科医,公認心理師や臨床心理士などが専門に行っています。まず担当医や認定遺伝カウンセラーなど,医療者につらさを伝えてください。医療者は症状を判断して,必要に応じて専門家に紹介します。医療者に話せないような場合は,がん診療連携拠点病院の相談支援センターで,専門家の情報を得ることができます。また,日本サイコオンコロジー学会のウェブサイト(https://jpos-society.org)には,がん患者さんの心のケアを専門としている精神腫瘍登録医の一覧が掲載されています。
2心理カウンセリングや薬について
心のケアの主なものとしては,心理カウンセリングと薬物療法があります。心理カウンセリングでは,心配事や不安を医師や心理士に話し,気持ちや考えを整理していきます。医師や心理士とのやりとりを通して,気持ちが楽になったり,自分の心の状態を理解したりすることができます。薬物療法は,睡眠薬や抗不安薬,抗うつ薬などを使う治療です。薬を使いはじめるとやめられなくなるのではないかと思う方もいるかもしれませんが,そんなことはありません。必要なときに必要な薬物療法を行うことで,症状の重症化や長期化を防ぐことができ,症状が改善した後には薬をやめることもできます。自分に合った薬を使うことで,がんの治療に向き合う力を蓄えることができます。