第1章 HBOCについて知っておきたい

Q17

検査結果はどのように表されるのでしょうか?

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A

HBOCを診断するための遺伝学的検査を受けたとき,診断につながる遺伝子の変化である「病的バリアント」やその可能性が高い「病的バリアント疑い」が見つかった場合, 陽性(Positiveポジティブ)と判定されます。診断につながらない「臨床的意義不明のバリアント」,「遺伝子多型の疑い」,「遺伝子多型」という結果の場合,陰性(Negativeネガティブ)と判定されます。

解説

HBOCを診断するための遺伝学的検査を受けたとき,その結果はどのように表記されるのでしょうか。
現在,日本で健康保険が適用されるHBOCの遺伝学的検査であるBRCA1/2遺伝学的検査は,国内の検査会社エスアールエル社が仲介して,海外の検査会社Myriadミリアド Geneticsジェネティクス社で解析が行われています。そのため,検査結果報告書は英語で記載されていますが,日本人にもわかりやすく伝わるように,診断につながる遺伝子の変化が検出された場合には「Positiveポジティブ」として赤で「+」,検出されなかった場合には「Negativeネガティブ」として緑で「-」と表記されます()。報告書は治療や家族の早期診断の根拠になる重要なものなので,患者さん用のコピーをもらうようにしましょう。なお,日本の検査会社でも健康保険適用外ですがBRCA1/2遺伝学的検査が行われており,この報告書は日本語で表記されています。

それでは,HBOCの遺伝学的検査を行った場合,どのような結果が出て,それがどのように診断につながるかを整理してみましょう。
HBOCの遺伝学的検査では,BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の重要部位(タンパク質の設計図が書き込まれている“エクソン”という部分)の4種類の塩基配列(A:アデニン,G:グアニン,C:シトシン,T:チミンの並び)とともに,一定領域(1~数エクソン)の欠失や重複も調べます。

1遺伝学的検査で見つかる変化の表し方

見つかる変化として,以下のようなものがあります。

1ミスセンス

1つの塩基が別の塩基に置き換わることにより,3つの塩基の組み合わせ(“コドン”といいます)で指定されるアミノ酸が別のアミノ酸に変化することがあります。これを「ミスセンス」と呼びます。

ミスセンスの例  c.4327C>G:p.R1443G
「4327番目の塩基がシトシン“C”からグアニン“G”に変化することにより,1443番目のアミノ酸がアルギニン“R”からグリシン“G”に変化」していることを表しています。

別のアミノ酸に変わることにより,タンパク質全体の働きに大きな影響を及ぼすことがあり,HBOCの原因となります。別のアミノ酸に変わっても,タンパク質全体の働きに大きな影響を及ぼさなければ,HBOCの原因にはなりません。

2ナンセンス

1つの塩基が別の塩基に置き換わることにより,3つの塩基の組み合わせで指定されるアミノ酸が「そこでタンパク質の合成を停止しなさい」という指令になることがあります。これを「ナンセンス」と呼びます。

ナンセンスの例  c.4327C>T:p.R1443*
「4327番目の塩基がシトシン“C”からチミン“T”に変化することにより,1443番目のアミノ酸がアルギニン“R”から停止“ * ”に変化」したことを表しています。

3フレームシート

また,1 つ~数個(3の倍数ではない)の塩基が欠けたり,重複したり,挿入したりして,3つの塩基の組み合わせがずれることもあります。その部位からすべてのアミノ酸が変化するだけではなく,通常よりも早くに「合成停止」の指令が生じます。これを「フレームシフト」と呼びます。

4ハプロ不全

「ナンセンス」や「フレームシフト」の変化が生じると,通常よりも小さいタンパク質になってその働きが低下したり,小さすぎてすぐに消えてしまうことがあります。すぐに消えてしまう場合,本来1対が2つある遺伝子のうち1つしか働かないことになります。これを「ハプロ不全」と呼びます。この場合,HBOCの原因となります。

2見つかった変化の意味づけ

次に,見つかった変化の意味づけについて整理します。

1診断につながる変化の意義

診断につながる変化として,HBOCの原因となることが確実な「病的バリアント(Deleteriousデリティアリアス/Pathogenicパソジェニック)」やその可能性が高い「病的バリアント疑い(Suspected Deleteriousサスペクテッド デリティアリアス/Likely Pathogenicライクリー パソジェニック)」の2つがあります。いずれの場合も,オラパリブという薬の選択やリスク低減手術(乳房切除,卵管卵巣切除)において,健康保険が適用されます。

2診断につながらない結果の意義

診断につながる変化が検出されない場合として,見つかった変化が「臨床的意義不明のバリアント(VUS)」であったり(Q19参照),「遺伝子多型いでんしたけいの疑い(Favor Polymorphismフェイバー ポリモーフィズム)」であったり,また,病的意義がない「遺伝子多型(No Mutation Detectedノー ミューテーション ディテクテッド)」のこともあります(Q18参照)。詳しくは関連するQ をご参照ください。