第1章 HBOCについて知っておきたい

Q18

遺伝学的検査の結果が「陰性(Negativeネガティブ)」でした。今後どのような対策が必要ですか?

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A

遺伝学的検査を受けて陰性の結果だったとき,多くの方は特別な予防や対策を行う必要はないと考えます。しかし,BRCA1/2遺伝子以外が原因でがんになりやすい体質の方もいるため,ご自身の病歴やご家族にもがんになった方が多いなどで不安な場合,担当医や遺伝の専門家などに相談してみましょう。

解説

遺伝学的検査は,年齢や体調,がんの状況などにかかわらず,生まれもった体質を調べる検査なので,その結果は生涯で変わりません。しかし,どのような遺伝学的検査を行って陰性の結果だったのか,により考え方や今後の対策が変わります。それでは順番にご説明します。

1BRCA1/2遺伝学的検査で陰性だった場合

1一般のBRCA1/2遺伝学的検査では検出できないBRCA1/2遺伝子病的バリアントの可能性

BRCA1/2の遺伝学的検査は,BRCA1/2(タンパク質)の設計図であるDNAの塩基配列(用語集参照)が正しい並びになっているかどうかを調べる検査です。この設計図領域から離れた場所にあるBRCA1/2遺伝子の病的バリアント(用語集参照)は現在のBRCA1/2遺伝学的検査では調べることができません。しかしこのようなケースの頻度はとても少ないといわれています。

2BRCA1/2遺伝子以外の遺伝性腫瘍症候群いでんせいしゅようしょうこうぐんの可能性

遺伝的にがんになりやすい体質は,BRCA1/2遺伝子以外の遺伝子を原因とした遺伝性の乳がん(TP53遺伝子を原因遺伝子としたリ・フラウメニ症候群,STK11遺伝子を原因としたポイツ・ジェガース症候群,PTEN遺伝子を原因遺伝子としたカウデン症候群など)や,遺伝性卵巣がん(RAD51C/RAD51D/BRIP1遺伝子などの原因遺伝子)だけではなく,遺伝性大腸がん,遺伝性胃がん,遺伝性膵がんなどさまざまな遺伝性腫瘍症候群(用語集参照)があります。これらの症候群は,がん発症のリスクや,かかりやすいがんのタイプもさまざまです。ご自身やご家族の病歴から,BRCA1/2遺伝子以外の遺伝性腫瘍症候群を考える必要があるか,調べる必要があるかについては,担当医や遺伝の専門家に相談してみましょう

2BRCA1/2遺伝子を含む多遺伝子パネル検査(MGPT)を行い陰性だった場合

最近は国内でも,遺伝性腫瘍症候群にかかわる複数の遺伝子を同時に調べるMGPTを行うことができる施設が増えてきています。MGPTには,一般的にがんのリスクが高いさまざまな遺伝性腫瘍症候群の原因遺伝子が含まれます。この検査で陰性だった場合には,多くの方はBRCA1/2遺伝子のような特別な予防や対策を行う必要はないと考えられます。しかし,ヒトの遺伝子は約2万1千種類あり,がんになりやすい体質のすべての遺伝子の診断ができているわけではありません。ご自身の症状・病歴や家族歴から遺伝子診断はついていなくても,症状に合わせたリスク管理を行うこともありますので,遺伝性腫瘍の体質の評価と今後の対策について,担当医や遺伝の専門家に相談してみましょう。また,BRCA1/2遺伝子(遺伝性乳がん卵巣がん:HBOC),RB1遺伝子(網膜芽細胞腫もうまくがさいぼうしゅ),MEN1/MEN2遺伝子(多発性内分泌腫瘍症たはつせいないぶんぴつしゅようしょう1型/2型)以外の遺伝性腫瘍症候群に関連する遺伝学的検査やMGPTは健康保険の適用ではなく(2022年現在),多くは約25~60万円以上の健康保険が適用外の検査であることに注意が必要です。

3今後の対策

現在がんの治療中の方の場合,遺伝学的検査の結果が陰性であることで,治療薬が使えないことやリスク低減手術が行えないことに不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。BRCA1/2遺伝子に病的バリアントのない体質であることをふまえて,最も良い治療法については主治医と相談していきましょう。BRCA1/2遺伝子のようながんの発症に強くかかわる遺伝的な体質ががんの原因となることはごく一部です。多くのがんは,環境要因,タバコやアルコールなどの生活習慣,ウイルス感染,加齢など,複数の原因が重なることで生じます。遺伝学的検査の結果,BRCA1/2遺伝子をはじめとした遺伝性腫瘍症候群が否定的であっても,がんにならない(なりにくい)ということではなく,全般のがんのリスクはありますので,年齢に応じた一般的ながんの検診や,必要に応じた検査は行っていきましょう。