第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい【膵がん・前立腺がん・その他のがん】

Q51

前立腺がんのサーベイランスは必要ですか?

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A

 HBOCと診断された男性は,前立腺がんの発症リスクが高いとされ,また一般の方よりも若くして発症するリスクも指摘されています。よって,前立腺がんのサーベイランスを受けることが推奨されます。

解説

1前立腺がんのスクリーニング検査

一般的に前立腺がんの有無を調べるためのスクリーニング検査では,血液中のPSAという腫瘍マーカーを測定します。このPSAの値が高くなるにつれて,前立腺がんの可能性も高くなっていきます。PSAの基準値は3.0~4.0ng/mL以下とされていますが,前立腺がん以外の前立腺肥大症ぜんりつせんひだいしょう前立腺炎ぜんりつせんえんでもPSAが上昇することがあります。よってPSA値が基準値を超えている場合には,専門医による前立腺針生検はりせいけんなどの精密検査を受けて,本当に前立腺がんであるのかを診断する必要があります。近年,国内の前立腺がんの患者数は右肩上がりで増加しており,男性がかかる最も多いがんの一つとなっています。前立腺がん発症の強いリスク因子は年齢であるため,一般的には50歳を過ぎたら定期的なPSAによるスクリーニング検査の開始が推奨されています。

2サーベイランスを始める時期

ところでHBOCと診断された方は,一般の方よりも若く,高い頻度で前立腺がんを発症することが知られてきました。報告により若干の差はありますが,英国とアイルランドからの報告では,BRCA2遺伝子に変化(病的バリアント)を保持する方の場合,75歳までに27%,85歳までに60%が前立腺がんを発症し,BRCA1遺伝子の病的バリアントを保持する方では75歳までに21%,85歳までに29%が前立腺がんを発症していました。これは一般の方と比べて,BRCA2遺伝子に病的バリアントを保持する方は4.45倍,BRCA1遺伝子に病的バリアントを保持する方は2.35倍の前立腺がんの発症リスクがあることになります()。

HBOCと診断された方は何歳から前立腺がん検診を受けるべきか?の参考となる進行中の研究として,海外20カ国共同で行われているIMPACTスタディ(用語集参照)があります。この研究では40~69歳という比較的若いHBOCと診断された男性をターゲットとして,定期的にPSA採血によるサーベイランスを行い,HBOCの家族歴があるものの本人はBRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の病的バリアントがない対照集団と前立腺がんの検出率を比べました。この研究ではPSAが3.0ng/mL以上であったら前立腺針生検はりせいけんによる精密検査を推奨する,という研究方法が用いられております。結果,BRCA2遺伝子の病的バリアントを保持する方の39%,BRCA1遺伝子の病的バリアントを保持する方の32%に前立腺がんを認め,これは対照集団の20~28%よりも高いリスクとなりました。また特にBRCA2遺伝子の病的バリアントを保持する方は,一般人に比べて前立腺がん発症年齢が低く,悪性度が高い傾向を認めたと報告されています。

このようなHBOCと前立腺がん発症との関連を調べた研究のほとんどは,海外からの報告ですが,人種差を超えて,日本人においても同様にHBOCと診断された方は若年の段階から前立腺がん発症リスクが高くなる可能性があると考えられはじめています。HBOCに関連する前立腺がんとはいえ,早期に発見できれば根治可能です。HBOCと診断された方は「40歳」からPSA採血によるサーベイランスを受け,PSA3.0ng/mLを超える場合にはがんの早期発見のために,専門医による前立腺針生検などの精密検査を受けることが推奨されます。