第1章 HBOCについて知っておきたい

Q11

遺伝カウンセリングではどのようなことを相談できますか?

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A

遺伝カウンセリングでは,遺伝にかかわるさまざまな事柄をクライエント(相談者)と医療者で話し合います。どのようなことでもご相談ください。

解説

遺伝カウンセリングを受診するきっかけは,自分ががんになり心配だから,家系内にがんが多く気になるから,がんは周りにはいないがインターネットで遺伝するがんがあると知って不安だから,血縁者が遺伝性のがんとわかったから,主治医に勧められて,などさまざまです。
遺伝カウンセリングとはクライエントが疾患と遺伝について十分に理解し,今後の選択を自らの意思で決定し行動できるように支援する場です。遺伝カウンセリングは医療者からクライエントへの一方通行の場ではなく,クライエントからもさまざまな情報を提供していただき,クライエントと医療者とでコミュニケーションをとりながら進められます。遺伝カウンセリングを通してクライエントと話し合う内容は多岐にわたります。は一般的な遺伝カウンセリングの流れです。

遺伝カウンセリングではまずクライエントとその家族の情報を得ることから始まります。来談するに至ったきっかけ,がんで治療をしているのであれば治療の内容や現時点の状態や心理面の確認,家族の状況をうかがい家系図を作成し,どの方が何歳で何のがんにかかったかをわかる範囲内で確認します。その前にプレカウンセリングといって,本番の遺伝カウンセリングの前に電話などで状況をうかがう場合もあります。
次にがんと遺伝について,HBOCについての情報提供を行い,クライエントから得られた情報からHBOCである確率がどのくらいあるのかを検討します。さらに遺伝学的検査の方法や,検査でわかること,わからないこと,遺伝子の変化(病的バリアント)が判明した場合,どのような心理的変化が起こりうるか,家族にはどこまで情報を伝えるか,それとも伝えないかを事前に確認します。HBOCの確定診断がついた場合,ご自身の健康管理として,サーベイランス(Q21参照)の方法,リスク低減(Q3241参照)の方法についても一緒に考えます。また,「なんで自分が…」「自分もがんになるんだろうか」「子どもへの影響はどうなのだろう」などの新たな悩みや不安を抱える場合もありますので,心理的なサポートも行います。さらに,同席していない家族への対応や希望する家族には再度カウンセリングを行う場合もあります。

遺伝カウンセリングは1回限りの受診というわけではなく,気がかりなことが生じたときに,検査を行った後に,人生の節目など,繰り返し何回行ってもよいでしょう。また,親やきょうだい,子どもなどの血縁者にも関連することから,近しい家族には遺伝カウンセリングを受けることを伝えておき,希望がある家族には一緒に遺伝カウンセリングを受けていただくことで,皆で気持ちを確認し,理解を深めるサポートになるかもしれません。一方で,家族に知られたくない情報や,家族の中には「遺伝子の情報なんて知りたくない」という方もいるかもしれませんので,最初の家族の同席は無理がない範囲にとどめておいてよいかもしれません。詳しくはQ14をご覧ください。

検査を受けるかどうか,家族にどこまで情報を共有するか,HBOCと判明した際のサーベイランスやリスク低減手術をどうするかなどの意思決定はクライエントにゆだねられますが,その決定には時間がかかる場合もあります。遺伝カウンセリングでは遺伝学的検査やリスク低減手術の案内も行いますが,遺伝カウンセリングを受けたからといってこれらを行わなければならないわけではありません。まずはご自身が気になっていることを遺伝カウンセリングで相談する,カウンセリングで得た情報をもとに今後ご自身がどうするかをゆっくり考える,という気持ちで遺伝カウンセリングを受けてもよいでしょう。