第1章 HBOCについて知っておきたい

Q13

遺伝カウンセリングで家族の病歴を尋ねられました。どこまで伝える必要がありますか?

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A

HBOCをはじめ遺伝性のがんの遺伝カウンセリングでは,多くの場合,ご自身を中心に3世代(「第3度近親者」という言い方をします)までの血縁者,具体的には,ご自身の父母,きょうだい,子ども,父方あるいは母方それぞれの祖父母,おじ,おば,おい,めいの方が,何歳で,何のがんになったかについて順番にお聞きします。そのときにわかる範囲でお伝えください。

解説

3世代の家族の病気についてすべてわかる方もいれば,わからない方もいると思います。一度にすべて詳細に答えなくてはいけないということはありません。そのときにわかっていることを,またわかったときに伝えていただければ大丈夫です。実際に,両親や親戚に聞いたら「わかりました」「違っていました」と次の診察や遺伝カウンセリングで主治医や遺伝の専門家に伝えていただくこともよくあります。
では,なぜ遺伝カウンセリングでは血縁者の病歴をお聞きするのでしょうか。理由は,大きく分けて2 つあります。
1つは,遺伝性のがんの特徴が家系内にみられる場合,遺伝子の検査(遺伝学的検査)を受け診断を確定することでご自身のがん治療や健康管理,また家族の健康管理に役立てていただける情報をお伝えするためです。
もう1つは,血縁者の病歴を整理し遺伝性のがんの可能性を評価するためです。家系内にがんになった方が多く,本人ががんになっていてもなっていなくても遺伝性のがんのことをとても心配している方がいます。いまや日本では2人に1人ががんを発症するといわれていますので,がんになった人が何人もいる家族も少なくはありません。がんの原因は遺伝子の変化によることが多いですが,遺伝子の変化の原因には「遺伝要因」だけではなく,「環境要因」も大きくかかわっており(Q34参照),遺伝に関係なくがんになる人が大多数です。そのため,遺伝性のがんの可能性があるかどうか,家族の病歴(「家族歴」と呼んでいます)を専門家と共有し整理することが大切になるからです。

血縁者に遺伝性のがんに特徴的な傾向がみられる場合を「家族歴がある」,みられない場合を「家族歴がない」という言い方をしますが,医療者から家族歴がなくても「遺伝性のがんの可能性がある」「遺伝カウンセリングを受けてみてはどうか」といわれることがあります。それは,家族歴がない場合でも遺伝性のがんの特徴のいずれか1つでも当てはまっている場合(表1)には,十分に家族の状況を確認しなければがんになりやすい体質を見逃してしまうことがあるからです。
例えば,図-①のように30代の女性が乳がんになった家族がいるとします。この場合,この女性以外の家族にはがんになった人はいませんが,本人が34歳と若い年齢でがんになったので遺伝性のがんの可能性が考えられ,父方の祖母が30代で亡くなっているので乳がんや卵巣がんになっていないか,できれば確認していただきたいこと,この方(発端者)から遺伝子の変化が起こることも考えられること,がんになっていない方でも遺伝学的検査を受けた結果,遺伝性のがんであることがわかることもあることを遺伝カウンセリングでお話しすることがあります。この例に限らず,家族歴一つをとってもいろいろなことが考えられますので,主治医や遺伝の専門家と家族歴を確認する必要があるわけです。

「近親者」と「親等」の違いについて
「第1度近親者」,「第2度近親者」という言い方は,遺伝情報の共有の程度を表しています。法的な親類関係の遠近を表す「1親等」,「2親等」とは異なります。あくまで,遺伝情報を共有しているかどうかを軸にした表現です。例えば,きょうだいといっても,父母ともに同じであれば「第1度近親者」で遺伝情報は50%共有しますが,異父あるいは異母の場合には「第2度近親者」で遺伝情報は25%共有していることになります(表2)。