第3章 日常生活での注意点について知っておきたい

Q54

日常生活で避けるべきことや,注意が必要なことはありますか?

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A

HBOCと診断されたこと自体で,日常生活を制限する必要はありませんが,放射線被ばく,ワクチン接種,献血などの疑問点について解説します。

解説

HBOCと診断された方で,がん未発症みはっしょうでも既発症きはっしょうでも,日常生活を制限する必要はありません。ここでは,HBOCと診断された方からよく寄せられる疑問点について解説します。

1放射線被ばく

HBOCは,遺伝子修復いでんししゅうふくにかかわるBRCA遺伝子の病的バリアント(用語集参照)により起こる疾患であり,遺伝子にダメージを与えうる放射線被ほうしゃせんひばくはがんの発症に関与する可能性があり,ある程度の注意が必要です。
例えば,HBOCと診断された乳がん患者さんでは,強い希望がない限りは,乳房温存療法後の温存した乳房からがんが発症するリスクを避けるため,術後に放射線治療を必要とする乳房部分切除にゅうぼうぶぶんせつじょ(乳房温存療法おんぞんりょうほう)よりも,術後の放射線治療を必要としない乳房全切除術ぜんせつじょじゅつが推奨されます(Q38参照)。
CT検査やマンモグラフィによる放射線被ばく量は,放射線治療に比べてはるかに少ないですが,被ばくがないことや乳がん検出の診断能しんだんのうの高さから,HBOCの乳がんサーベイランスには造影MRI検査が推奨されています(Q31参照)。ただし,これらの検査については放射線被ばく量とそれによるメリットとデメリットのバランスで決定されるため,例えば卵巣がん既発症の方に対する術後のCT検査などは,再発の診断に重要であり,定期的に検査することが必要です。

2ワクチン

世界的なパンデミックとなったCOVIDコビッド-19のワクチンや,インフルエンザワクチンなどの予防接種は受けて問題ありません。また,HBOC と子宮頸しきゅうけいがんに関係があるとする報告はありませんが,子宮頸がんワクチンも,もちろん子宮頸がん予防のために受けられます。

3献血

HBOCと診断された方の中には献血けんけつに協力したいと考える方もいると思います。献血では,血液から白血球はっけっきゅうを取り除き,赤血球せっけっきゅう血小板けっしょうばん血漿けっしょうに分けてそれぞれの輸血製剤ゆけつせいざいを作ります。これらの成分は遺伝情報をもたないため,基本的にHBOCの有無は影響しません。日本赤十字社の示す献血基準には,HBOCを含めた遺伝性疾患の有無は記載されていません。ただし,がんの治療中または治療後5年を経過していない方は,除外基準に該当するため,献血はできません。最終的にはご自身の体調なども含めて献血ができるかどうかが決まりますので,お近くの献血センターで確認しましょう。

4臓器移植など

移植いしょく医療には,骨髄こつずい末梢血幹細胞移植まっしょうけつかんさいぼういしょくや臓器移植などがあります。
幹細胞移植は,血液(骨髄血こつずいけつ末梢血まっしょうけつ)中の幹細胞を採取して,移植が必要な白血病などの方に移植し,その方の体内で機能させます。基本的にHBOCと血液疾患に関係があるとする報告はありませんが,日本骨髄バンクのドナー適格性判断基準てきかくせいはんだんきじゅんによれば,遺伝性疾患と診断されている場合はドナー登録が不可となるため,骨髄ドナーとしての登録および提供は難しいといえます。
臓器提供は,心臓しんぞうはい肝臓かんぞう腎臓じんぞう膵臓すいぞう小腸しょうちょう眼球がんきゅうなどさまざまな臓器が対象となります。HBOCは膵がんの発症との関連性が指摘されていますが,各診療ガイドラインや基準にHBOCや遺伝性疾患自体が臓器移植ドナーの除外基準として記載されているわけではありません。しかし,がんの発症は除外基準に含まれているため,がん治療中あるいは経過観察中の臓器提供はできません。臓器移植を希望される方は,まず臓器提供意思登録を進めて,ドナー登録が可能かどうかを相談していただければと思います。

これらの献血けんけつ骨髄こつずい末梢血幹細胞移植まっしょうけつかんさいぼういしょく臓器移植ぞうきいしょくの基準は,適宜改訂されうるものですので,そのつど確認して,ご希望される方は無理のない範囲で協力いただければと思います。