第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい

Q27

リスク低減手術を検討中です。手術を受ける順番はありますか?

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A

手術を受ける順番について定まった方針はありません。ご自身の状況や考えなどを,医療者と相談しながら納得のいく選択肢から選んでください。

解説

HBOCと診断された女性は,乳がんと卵巣がん・卵管がん・腹膜がん(以下,卵巣がんとします)を発症するリスクを減らすことを目的に,乳房や卵管・卵巣を切除するリスク低減手術ていげんしゅじゅつを受けることができます。
HBOCと診断された場合,乳がんに対しての対策方法は,リスク低減乳房切除術にゅうぼうせつじょじゅつ(RRM)もしくはサーベイランスという選択肢があると考えられています。サーベイランスとは,がんの早期発見を行うため,きめ細かく検査を行っていくことをいいます(Q21参照)。その一方で,卵巣がんについては,サーベイランスの方法が確立されていないため,妊娠・出産の意思がなくなった段階でリスク低減卵管卵巣摘出術らんかんらんそうてきしゅつじゅつ(RRSO)を受けることが勧められています。

いずれかを先に受けたほうがよいか,というご質問に対しては,明確な答えはありません。個々のからだの状態,ライフプラン(妊娠・出産など)やご自身や家族の価値観,また乳がんや卵巣がんを発症された家族や血縁者がいるかどうかや,いる場合にはその発症年齢などから手術の時期や順番について遺伝カウンセリングなどを通して考え,選んでいただくことをお勧めします(なおRRMとRRSOの詳細については,RRMがQ323334,RRSOがQ414445に記載されていますので,そちらもご参照ください)。

まずリスク低減乳房切除術(RRM)には,乳がん未発症でHBOCと診断された方を対象とする両側の乳房に対する両側りょうそくリスク低減乳房切除術(BRRM,bilateral risk-reducing mastectomyの略)と,片方が乳がん既発症でHBOCと診断された方を対象とする対側たいそく(がんではないほうの)乳房に対するリスク低減乳房切除術(CRRM,contralateral risk-reducing mastectomyの略)があります。いずれも,手術により乳がんを発症するリスクを下げることができるとされています。手術の詳細や選択肢(例えば,乳頭温存乳房切除手術にゅうとうおんぞんにゅうぼうせつじょしゅじゅつなど)や乳房再建の希望や方法については,乳腺外科,形成外科,遺伝カウンセリングなどで相談されることをお勧めします。なおRRMを受けるまでの間は,サーベイランスをしっかりと受けていただく必要があります。
RRMを受ける場合,その時期について定まった方針はありません。現在の日本では,RRMを受ける年齢の平均は40歳前後と報告されています。ただし,もし家系内に40歳未満で乳がんにかかった方がいる場合には,その方が発症された年齢よりも早い時期で手術することを検討をしたほうがよい場合もあります。

続いて,卵巣がん未発症でHBOCと診断された方に対するリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は,卵巣がんの発症リスクを下げることだけではなく,死亡リスクを減らすことが証明されているため,手術を受けることが推奨されています。またRRSOには,卵巣がんのリスクを下げることに加えて,乳がんを発症するリスクも下げる効果があるのではないかと考えられています(ただし確実な効果かどうかは明らかになっていません)。
RRSOの手術を受ける時期については,通常35~40歳の間で妊娠・出産の意思がなくなった時期に行うことが勧められています。BRCA2遺伝子の変化(病的バリアント)を保持する方は,BRCA1の病的バリアントを保持する方よりも卵巣がんの発症の年齢が遅いため,40~45歳まで手術を遅らせてもよいと考えられています。ただし,家系内に早い年齢で卵巣がんを発症した方がいる場合には,その方が卵巣がんを発症した年齢よりも早い時期にRRSOを検討したほうがよい場合もあります。
RRSOを行う時期は,やはり妊娠・出産との兼ね合いがありますが,サーベイランスの確立された方法がないことを考えると,妊娠・出産の意思がなくなった時点で検討されることをお勧めします。また,RRSOを受けることにより,早発閉経そうはつへいけいによる更年期障害や骨粗鬆症こつそそうしょうなどのリスクが上がるというデメリットもありますが,内服薬による治療を受けることができます。

病院によっては同時に手術を受けることができますので,主治医の先生にご相談してみるのもよいと思います(コラム7参照)。