第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい【乳がん】

Q33

乳房の再建術について教えてください。

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A

手術によって失われた乳房を手術によって再建する術式のことです。再建するときに自分のからだの一部を用いて再建する方法(自家組織再建法じかそしきさいけんほう)と人工的につくられた素材で再建する方法(人工物再建法じんこうぶつさいけんほう)があります。

解説

乳がんのため乳房を切除しなくてはならない場合に,手術により失われた乳房を取り戻す乳房再建は広く行われており,2006年に自家組織再建じかそしきさいけんが,2013年には人工物再建じんこうぶつさいけんが健康保険の適用となっています。HBOCと診断された患者さんでリスク低減乳房切除術ていげんにゅうぼうせつじょじゅつを受ける方への乳房再建術は2020年から健康保険の適用となりました。
乳房再建は乳房を切除するときに同時に行うこと(一次再建いちじさいけん)も,過去に切除されている胸に対して後で行うこと(二次再建にじさいけん)も可能です。また再建するときに自分のからだの一部を用いて再建する方法(自家組織再建)と人工的につくられた素材で再建する方法(人工物再建)があります。両側の乳房を切除する必要がある場合には両側の乳房再建を受けることもできます。

1自家組織再建じかそしきさいけん

自家組織再建は,人工物再建に比べて乳房以外の部分にも手術の傷ができてしまうことや,手術時間,入院期間が長くなるなどのデメリットがありますが,再建後は自分のからだの一部となるため,再建された乳房の形や触った感じが人工物よりも優れているというメリットがあります。また術後に放射線を受けたことがある場合でも人工物に比べて比較的安全に再建することが可能です。
自家組織を用いた再建方法の中で,現在広く行われている2つの方法を紹介します。

1遊離腹部皮弁ゆうりふくぶひべんによる再建(図1)

おなかの皮膚とともに脂肪組織とそこへ栄養を送る血管を切って乳房の再建に用います。再建の際にこの血管を胸に近い血管とつなげて,移動した脂肪組織に必要な酸素と栄養が届くようにします。おなかには比較的多くの脂肪組織があるため大きな乳房の再建も可能ですが,おなかの手術をしたことがある場合には難しいこともあり,また手術直後に妊娠を希望する人にはお勧めの方法ではありません。

2広背筋皮弁こうはいきんひべんによる再建(図2)

背中の脂肪を広背筋ごと乳房の再建に用います。栄養を送る血管を切らずに移動することができるため,血流障害の心配が遊離皮弁ゆうりひべんより少ないというメリットがありますが,移動できる脂肪組織の量が腹部皮弁より少なく大きな乳房の再建には適さない場合があります。

2人工物再建じんこうぶつさいけん

人工物再建は,自家組織再建と異なり乳房以外の部分に傷がつくことがないことがメリットですが,人工物であるため感染に弱く,長期にわたってメンテナンスを続ける必要があります。また人工物を挿入するために,ある程度皮膚を引き伸ばして皮膚の下にスペースをつくる必要がありますが,放射線治療後の場合はこの皮膚の伸展がうまくいかず人工物再建が難しくなります。またごくまれにではありますが,インプラントを長期にわたりからだに置いておくことにより,乳房インプラント関連未分化大細胞型かんれんみぶんかだいさいぼうがたリンパしゅ(BIA-ALCL)という特殊な病気を発症することが知られています。
人工物再建法の中で,現在広く行われている組織拡張器そしきかくちょうきの挿入後にシリコンインプラントに入れ替える方法を紹介します。

1シリコンインプラントを用いた再建(図3)

乳房が切除された胸の大胸筋の裏側に,組織拡張器と呼ばれる袋状の器具を挿入し,最初の手術は終了します。術後に生理食塩水せいりしょくえんすいをこの袋に注入し徐々にふくらませることにより,皮膚を伸ばして胸のふくらみをつくります。数カ月後に再度手術を行い,この組織拡張器を取り出して,できたスペースにシリコンインプラントを挿入し,乳房再建を完了します。


乳房再建を希望する際には,それぞれの再建方法の特徴を比較して選択することが大切です()。いずれの乳房再建においても,経験の豊富な乳腺外科医や形成外科医の協力が必要不可欠です。乳房再建を希望する際には実績のある病院を選び,術前に乳腺外科医,形成外科医とよく相談して決めることが重要です。