リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)はHBOCと診断された場合の,卵巣・卵管・腹膜がんを発症するリスクを減らすことを目的として,卵管および卵巣を予防的に摘出する手術です。これらのがんは早期発見法が確立されておらず,進行がんで見つかることが多いため,病気になる前に対応することが重要です。RRSOはHBOCと診断された方の死亡リスクを確実に下げることができると知られており,最大の予防手段として推奨されます。
解説
HBOCと診断された女性は,卵巣・卵管・腹膜がん(以下,卵巣がん)の発症リスクが高まるものの,その早期発見法が確立されていません。リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)はHBOCと診断された方の死亡リスクを確実に下げることができ,最大の予防策として推奨されています。今後の妊娠を考えていない方で35~40歳,遅くとも45歳までにリスク低減手術を受けることが勧められており,一般に腹腔鏡手術によって行われ,摘出した卵管・卵巣は病理検査に提出し,漿液性卵管上皮内がん(STIC)や卵管がん,卵巣がんがないか調べます。RRSOは卵巣がんが発生する卵管と卵巣を周囲の腹膜とともに切除する手術であり,リンパ節の摘出などは行いません(図)。入院期間はおよそ1週間以内です。
また,RRSOと同時に子宮を摘出するほうがよいかに関しては,まだ定まった方針はありません。HBOCと診断された女性は子宮体がんのリスクが増える可能性がある点,乳がん治療に使用されるタモキシフェンにより子宮体がんのリスクが増える可能性がある点で,子宮を摘出する意義があるかもしれません。その一方で子宮を同時に摘出することについて,手術リスクが増加しうることなどの十分な説明を受けて理解することが必要です。また子宮が残っていれば,事前に体外受精で採卵した凍結胚があれば,RRSO後も妊娠は不可能ではありません(Q25参照)。
2020年4月以降は,乳がん既発症でHBOCと診断された方に対するRRSOに健康保険が適用されました。子宮筋腫などの子宮疾患がある方は,子宮と同時に摘出することに健康保険が適用され実施可能ではありますが,子宮に疾患がない方で子宮摘出も希望される場合は,RRSOを含めた手術すべてが自費となってしまいます。また,HBOCと診断された方でも乳がん未発症の方やBRCA以外の遺伝子に病的バリアントを保持している乳がんの方は,RRSOは自費でしか行うことができませんので,費用などは担当の先生に確認する必要があります(Q28参照)。
病的バリアントを保持する遺伝子がBRCA1では35歳以降,BRCA2では45歳以降から卵巣がんが増えてくることから,今後の妊娠を考えていない方は,BRCA1では35~40歳までに,BRCA2では40~45歳までにリスク低減手術を受けることが勧められます。閉経後も,卵巣がんの発症率は増えていくので,閉経後にHBOCと診断された方やHBOCの診断後,サーベイランスをしていた方も,RRSOはいつでも勧められます。また,乳がんの発症をきっかけにHBOCと診断された場合,乳がんの治療の状況などRRSOがいつ行える状況となるかについて,乳がんの主治医と相談することをお勧めします(Q47参照)。乳がんや卵巣がんの家族歴(家族の病歴)があるなどHBOCが疑わしい場合でも,遺伝学的検査によってHBOCと診断されていない方は,RRSOを受けることによるメリットが明らかではないため,リスク低減手術は受けられません。
RRSOによって多くの卵巣がんが予防されますが,腹膜がんのリスクが残るため,手術の後も定期的なサーベイランスが必要です(Q42参照)。また,RRSOによって乳がんの発症リスクを下げる効果があるともいわれています。なお,RRSOによって摘出した卵管や卵巣を調べたところ,すでにがんが生じていた場合は,あらためて卵巣がんの根治的手術を行うことが勧められます(Q45参照)。
RRSOを施行できる施設については,健康保険が適用されたことを機に増えていると考えられ,そのすべてを把握できる一覧はありませんが,日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構のウェブサイトに掲載されている認定施設一覧のうち,遺伝性乳癌卵巣癌総合診療基幹施設,総合診療連携施設などが参考になります(https://johboc.jp/shisetsunintei/shisetsulist/)。ただし,この一覧以外でもRRSOが可能な施設もありますし,リスク低減乳房切除術(RRM)と同時に実施可能な施設もありますので,各施設に問い合わせてもよいでしょう。