第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい【膵がん・前立腺がん・その他のがん】

Q52

HBOC と診断された方が,乳がんや卵巣がん,膵がん,前立腺がん以外のがんを発症した場合の影響と対策について教えてください。

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BRCA1/2遺伝子の変化(病的バリアント)が認められHBOCと診断された方が,HBOCに関連するがん以外のがんを患うこともあります。HBOCに関連するがんのサーベイランス以外にも通常の対策型がん検診や必要な検査を受けましょう。またHBOC以外の関連がんを発症した際には,そのがんの標準治療を受けることが優先されます。

解説

がんゲノム検査や多遺伝子パネル検査(Q8参照)が実施されるようになり,さまざまな経緯でHBOCと診断される方が増えています。 乳がんや卵巣がん,膵がん,前立腺がん以外に,例えば大腸がんや胃がん,脳腫瘍のうしゅよう子宮頸しきゅうけいがんの闘病中の患者さんがHBOCと診断されるケースもあります。HBOCに関連するがんのサーベイランス以外にも通常のがん検診を念頭に必要ながん検診を受けたり,心配な症状があれば適宜受診しましょう。

1HBOCという診断の治療への影響

がんの発症にBRCA1/2遺伝子がかかわっている場合には,PARP阻害薬やプラチナ系抗がん薬の有効性が期待されています(Q26参照)。すでに乳がんや卵巣がん,膵がん,前立腺がんでは適応があればPARP阻害薬の投与が健康保険の適用となりますが,それ以外のがんの場合にはPARP阻害薬の投与は健康保険の適用外です(保険適用一覧参照)。もしHBOCと診断された方にHBOCに関連するがん以外のがんが発症した場合は,現状においてはがんの種類ごとの標準治療(用語集参照)が優先されます。
近年,乳がんや卵巣がん,膵がん,前立腺がん以外のがんを対象に,がんゲノム検査の結果などでBRCA1/2遺伝子ががんの発症に関与していると考えられる場合には,PARP阻害薬の治験(用語集参照)を紹介されるケースもあるようです。ただし,治験は実施医療施設と参加可能な状態や期間が限られ,さらに必ずしもPARP阻害薬の効果が得られるわけではありませんので,過度に期待することはできません。がんゲノム検査などの医学の発展や,HBOCを対象とした臨床研究の成果によって,がん発症の原因を突き止めて,HBOCと診断された方を適切な治療に導入する医療の進歩が望まれます。

2HBOCに関連するがん以外のがん診断の,家族のがん検診への影響

ご自身がHBOCと診断されていてHBOCに関連するがん以外のがんと診断された場合,ご自身にとってはサーベイランスよりも治療が優先されます。ただし,がんの状態によっては,並行してサーベイランスを実施する意義が大きい場合もあるので,主治医や遺伝診療部門の担当医と相談しましょう。
HBOCと診断された方の血縁者は,遺伝学的検査の結果に応じてリスク低減手術やサーベイランスが可能になります。同じ病的バリアントを共有していれば,これらの予防行動を開始しましょう。同じ病的バリアントを共有していなければ,一般の方と同じリスクであると推定され積極的なサーベイランスは推奨されません。
現時点では,乳がんや卵巣がん,膵がん,前立腺がん以外のがんは,HBOCとの因果関係が十分には解明されていませんが,悪性黒色腫あくせいこくしょくしゅ,食道がん,胃がん,胆道がんとHBOCの関連も報告されています。ご自身や家族がHBOCと診断されていて,乳がんや卵巣がん,膵がん,前立腺がん以外のがんを発症している場合に,ご家族のがんのリスクも高いのかと心配になる方もいるでしょう。ですが「もっと広くがん検診をする必要はないのか?」と不必要に不安に思うことはありません。当然,家族の病歴に応じて個別にがん検診に取り組むことは大切ですが,HBOC以外にも遺伝性のがんはあり,また家族性のがんの場合には生活習慣などを共有することで,がんの発症リスクが高まる可能性も知られていますので,もしご家族の中に特定のがんの方が多いようなら,その臓器を念入りに気をつけて,HBOC以外のがんに対しても適切に対応することが推奨されます。
HBOC以外の遺伝性のがんの可能性を不安に感じる場合は,遺伝カウンセリングの場で相談するとよいでしょう。