前付け

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患者・市民の立場から本ガイドブックに期待すること

遺伝性乳がん卵巣がんと診断され,私が当事者支援や啓発活動の中で「大切にしてきたこと」,それは,皆さんが悩まれていること,不安に感じていること,必要としている情報が何かを知ることをきっかけに,同じ当事者としての経験や思いを共有することです。互いを知ることからはじまるのですが,当事者といっても遺伝学的検査を検討されている方,がんを発症した方,未発症の方,そして血縁者の皆さん,さまざまな立場の方の相互支援で成り立っています。しかしながら,私たちだけで解決できることばかりではありません。
私たちの知りたいことの大半は,がんや遺伝の専門知識,HBOC診療には欠かすことのできないリスク低減手術やお薬のことばかり。目まぐるしく進む遺伝医療には,情報の収集も気持ちの整理も追いつかないのが現状です。
このような日々の中で私たちがHBOCの最新情報,遺伝,がんの知識にかぎらず,すべての情報が網羅されている“ツール”の存在を願うことは自然なことでした。
 
そして,HBOCと診断される人が増えた分だけ血縁者の数も増え,女性のみならず男性への情報提供も求められ,社会的な周知も欠かせないこのタイミングで,誰もがHBOCを知ることのできるその“ツール”への期待を一手に受けとめてくださったのは,ほかでもない,本ガイドブック作成チームの皆さまです。患者・市民参画として,当事者の声に耳を傾け,一緒に歩いてくれる医療者や専門家がいることを,本ガイドブックの編集を通じて私たちは何度も感じ,こみ上げるものが抑えきれなくなったものです。そのような愛情がたくさん詰まったこの一冊から,HBOC診療らしいきめ細やかなあたたかさを感じていただけるでしょう。皆さまにとって本書がよき道しるべとなり,支えとなることを心より願っております。
 
最後になりますが,「遺伝性乳がん卵巣がんを知ろう!みんなのためのガイドブック」を企画し作り上げてくださった,櫻井晃洋先生,中村清吾先生,作成統括リーダー小林佑介先生率いる領域リーダーならびに作成チームの皆さま,執筆協力者の皆さま,アドバイザーの皆さま,金原出版の皆さまに,心より御礼申し上げます。

2022年5月

一般社団法人ゲノム医療当事者団体連合会 代表理事
特定非営利活動法人クラヴィスアルクス 理事長
太宰牧子