HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん,hereditary breast and ovarian cancerの略)は遺伝性のがんの種類の一つです。BRCA1,BRCA2という誰もがもつ遺伝子に,生まれつき変化した状態(病的バリアント)がある方が,その遺伝子に病的バリアントがない方と比べると,がんを発症しやすい体質であることを意味します。「乳がん」「卵巣がん」という言葉がついている名称ですが,BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子がよく働いている臓器(乳房,卵巣,前立腺,膵臓など)でがんができやすいことがわかっています。既往歴(ご自身のがんの病歴)にかかわらず,一般的に日本人では約200~500人に1 人(0.2~0.5%)がHBOCに該当するといわれています。
解説
遺伝性のがんには,HBOC以外にもいくつかあります(Q4参照)。からだの細胞内のDNA(用語集参照)を修復する遺伝子,細胞の分裂を制御する遺伝子など,本来はからだの細胞のがん化を制御するような働きの遺伝子に,生まれつき変化が起こっている状態(病的バリアント)があることにより,本来の遺伝子の働きが果たせず,がんが発症しやすい体質になっていることを「遺伝性腫瘍症候群」と総称します。
HBOCには,遺伝子のBRCA1,BRCA2が関係しています。BRCA1遺伝子はヒトの染色体(用語集参照)のうち第17番染色体にあり,細胞分裂や細胞分裂の際に偶然生じるDNAの変化を修復する機能をもっています。BRCA2遺伝子は第13番染色体にあり,BRCA1の遺伝子からつくられるタンパク質と結合し,その働きを補助しDNAの修復にかかわります(図1)。
HBOCは、生まれつきこのBRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に本来の機能がうまく働かない変化がある状態です。
性別や年齢にかかわらずすべての人はBRCA1遺伝子,BRCA2遺伝子をそれぞれ両親から1つずつ受け継いでいます(Q4参照)。例えば両親のうちどちらかがBRCA1遺伝子の片方に病的バリアントを保持している(HBOC)とすると,その親から病的バリアントを受け継ぐ可能性は2分の1です(図2)。
この遺伝様式を常染色体顕性遺伝(優性遺伝)と呼びます。病的バリアントがある遺伝子を受け継ぐことで,がんの発症しやすい体質を受け継ぐということです。
HBOCであったとしても,がんそのものを受け継ぐのではなく,これは「がんが発症しやすい体質」を受け継ぐことになります。常染色体顕性遺伝では,同じような体質を親やきょうだい,子どもが共有する可能性もありますが100%ではありません。また家族が同じ体質をもっていたとしても,同じ年代や,同じ種類のがんを発症するとも限りませんし,HBOCであっても,生涯がんを発症しない方もいます。