乳がん,卵巣がん,前立腺がん,膵がんを発症された方が,薬を選ぶために行う場合のBRCA1/2遺伝学的検査は主治医から提案されることが多いでしょう。乳がん,卵巣がんを発症された方がHBOCの診断を受けるために行う場合, “遺伝の専門の部門(遺伝子医療部門)” から提案されることもあります。がんを発症する前に診断を受ける場合には,遺伝子医療部門から提案されます。遺伝カウンセリングは,遺伝子医療部門のある病院で行われています。まずは主治医に相談してみましょう。
解説
HBOCと診断された患者さんは,受精卵(胚)の時点から,BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子に病気を起こす変化(病的バリアント)を保持しています。これを調べる遺伝子の検査を,生殖細胞系列遺伝子検査または遺伝学的検査と呼びます。では,遺伝学的検査はどの病院で受けられるのでしょう。
遺伝学的検査は,乳がん,卵巣がん,前立腺がん,膵がんを発症した方が,オラパリブという薬が効きそうかを確認するために提案されることがあります。コンパニオン診断とも呼ばれます(用語集参照)。この場合,それらのがんの治療を受けている病院が厚生労働省の基準(保険適用一覧参照)を満たしていれば,その病院で主治医から提案され,検査が行われることが多いでしょう。
遺伝学的検査は,乳がん,卵巣がん(卵管がん,腹膜がんを含みます)を発症した患者さんが,HBOCの可能性があると判断された場合(若い方の乳がん,両側の乳がん,男性の乳がん,卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの方はそれだけで,家系内に乳がん・卵巣がんを発症した方がいる)にも提案されます。この場合も,がんの治療を受けている病院が基準を満たしていれば,その病院で主治医から提案され,検査が行われることもあるでしょう。または,遺伝科・遺伝子診療部などの “遺伝の専門の部門(遺伝子医療部門)” がある病院では,そういった部門に紹介され,遺伝カウンセリングを受けた後に検査が提出されることもあります。
これらの目的のために行われる遺伝学的検査には,健康保険が適用されます。現時点では乳がんや卵巣がんは未発症で,HBOCの可能性がある場合にも,遺伝学的検査が行われることがあります。例えば,母親が乳がんや卵巣がんを発症し,HBOCと診断された場合などです。乳がん,卵巣がんが発症する前に診断できれば,若い年代から丁寧な検診が受けられ,がんの早期発見・早期治療につなげることが期待されます。落ち着いて人生設計を立てられるというメリットもあるでしょう。こうした発症前の遺伝学的検査は有用ですが,現時点では健康保険の適用外であり,自費で行われています。そして遺伝子医療部門で遺伝カウンセリングを受けた後に検査が行われます。
遺伝カウンセリングは,遺伝する疾患・生まれつきの疾患をもつ患者さんやご家族の方々に対して,その疾患や遺伝に関する丁寧な説明を行い,思いに寄り添い最適な方向性を選んでいけるようなお手伝いをする専門的な診療です。臨床遺伝専門医,認定遺伝カウンセラーが協力して対応しています。
HBOCにかかわる遺伝カウンセリングは,疑われた場合の遺伝学的検査の前に,遺伝学的検査の結果を伝えるときに,また診断後も継続して行われています。患者さん一人で受診することもあるでしょうし,受け継いでいるかもしれない子どもたちが同席することもあるでしょう。毎回30分~1時間ほどかけて丁寧に行われています。
遺伝カウンセリングは,遺伝子医療部門のある病院で行われています。お住いの近所にあるかどうかは,まずは主治医に相談してみましょう。全国遺伝子医療部門連絡会議のウェブサイトの中にある「登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム」(http://www.idenshiiryoubumon.org/search/)で都道府県別に施設を調べることもできます。HBOCを多く扱っている病院を探したいときには,日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構のウェブサイトに認定施設一覧が掲載されていますので,ご参照ください(https://johboc.jp/shisetsunintei/shisetsulist/)。
遺伝学的検査や遺伝カウンセリングを提案されたら,スムーズに進められるよう,まずは主治医とよく相談をしてみましょう。