第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい

Q21

サーベイランスとは何ですか?検診とは違うのでしょうか?

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A

 サーベイランスとは,遺伝学的検査の結果,がんの発症リスクが高いと推定された方に対して,きめ細かく計画的に,がんの早期発見を目的として継続的に提供される検査のことです。

解説

サーベイランスとは,Q20でがんのリスクが高いと推定される臓器に対して,きめ細かく計画的に,がんの早期発見を目的に行う検査であると紹介しました。これは,市区町村や職場などで行われる通常のがん検診,いわゆる「対策型がん検診」とは異なり,「よりまめに,精密に」検査を行うことにより,がんの早期発見に努める取り組みです。ここでは,通常のがん検診とサーベイランスの違いについて具体的にご説明します。

1通常のがん検診とは

市区町村や職場などで行われるがん検診は,対策型がん検診または住民検診とも呼ばれ,国の指針に定められた方法で行われます。科学的根拠(エビデンス)に基づいて国が実施を推奨しているがん検診は,表1に示す5種類です。

これらの対策型がん検診は,市区町村などの自治体によって対象年齢や間隔,検査方法などに違いがあります。また,検診の費用には公的資金が使用され,無料あるいは一部,少額の自己負担で実施されています。自治体によっては追加費用を払うことにより,さらに広範囲あるいは精密な検診のオプションが提示されることもありますが,なかには国の指針に基づかない検診もあります(詳しくはお住まいの自治体などにお問い合わせください)。
また,職場から通知がきて検診を受ける場合(職域しょくいき検診と呼びます)も,対策型がん検診に含まれることがあります。いずれも比較的安価に定期的ながん検診が実施できるため,HBOCと診断された方であってもサーベイランスを受けていない部位については対策型がん検診を受けることをお勧めします。

2任意型がん検診とは

任意型がん検診は,人間ドック型検診とも呼ばれ,対策型がん検診以外の検診を指します。基本的には全額自己負担となりますが,一部には保険組合などが一定の補助を行うこともあるようです。希望者に対して,医療機関や検診機関が独自に設定した方法でがん検診が行われ,実施機関ごとに検査手法も異なります。
HBOCとはまだ診断がついていないものの,家族歴などから不安のある方や,一度に複数のがん検診を済ませてしまいたい希望がある方などに有用な方法といえますが,費用負担は大きいかもしれません。必要があれば対策型がん検診と上手に組み合わせて,不安な部位のがん検診をカバーできると安心でしょう。

3サーベイランスとは

サーベイランスは,遺伝学的にがんの発症リスクが高いと推定される方に対して,通常検診よりもきめ細かく計画的に,がんの早期発見を目的に提供される検査です。リスクが高い臓器(HBOCの場合は表2に示す臓器)に対して,そのリスクに応じた検査方法がそれぞれの疾患ごとの診療ガイドラインなどをもとに定められ,より効果的な健康管理が可能になると期待されます。
乳がんあるいは卵巣がん既発症きはっしょうでHBOCと診断された方には,乳房サーベイランスなどに健康保険が適用され実施可能です。現時点でがん未発症みはっしょうでHBOCと診断された方に対するサーベイランスは健康保険の適用外ですが,発症リスクの高いがんの早期発見のため,適切なサーベイランスを受けていただくことをお勧めします。もし通院中の施設で対応できない場合には,主治医と相談のうえ,別の医療機関と連携しながらサーベイランスを受けることをお勧めします。
表2に,どのような方法が勧められるのかを示します。米国を中心に推奨されているNCCNガイドライン(用語集参照)2022年版と,国内におけるHBOC診療ガイドライン2021年版を参考にまとめました。ただし,推奨されるサーベイランスは新しい研究結果に基づいて変更される可能性がありますので,最新の情報を得るようにしてください。

「サーベイランス」という聞きなれない言葉で戸惑われるかもしれませんが,がんの早期発見のための大切な検診と位置づけて,ご自身でしっかり管理して,継続的に行うことが肝心です。