第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい

Q23

遺伝学的検査の結果を,家族や血縁者などに伝えることの意義はありますか?

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A

BRCA1/2遺伝子の変化(バリアント:用語集参照)を知ることで,がんの予防や治療が可能になる場合があります。HBOCと診断されたときは,血縁者も同じ遺伝的な変化をもつ可能性がありますので,家族や血縁者に伝えることにより,HBOCに関連するがんの発症を予防する機会を得ることができ,意義のあることです。

解説

HBOCと診断された場合,血縁者も同じ病的バリアントを保持する可能性が通常よりも高まります。検査の結果,血縁者が同じ病的バリアントをもつ場合は,乳がん,卵巣がん,前立腺がん,膵がんなどのHBOCに関連するがんを発症する可能性が高くなるため,がんの予防に向けた対応が大切になります。HBOCに関する遺伝の情報は血縁者と共有することで多くの人の命を守ることになります。遺伝カウンセリングでは家族や血縁者への伝え方について,医療者と一緒に考えることができます。

1伝える場合

家族や血縁者に伝えるメリットとして,血縁者が遺伝学的検査で陽性だった場合,予防法の計画(サーベイランス,リスク低減手術ていげんしゅじゅつなど)を立てることができます。家族や血縁者がおかれている社会的状況(年齢,性別,健康状態,関係性など)に配慮して伝えることが重要となるため,遺伝カウンセリングに家族や血縁者と一緒に受診することで,不安を軽減しながら的確に情報を伝えることができます。
伝える血縁者に制限はありませんが,ご自身が陽性の場合,第3度近親者(Q13参照)までの血縁者も陽性である可能性が高まりますので,検査を行うことが勧められます。またこれから結婚を控えている方も,パートナーに伝えることにより,結婚後における自分の健康管理や,出産の時期について相談できる環境を整えられるメリットがあります。
陽性の結果を伝えた後に家族や血縁者が遺伝学的検査を希望しないときは,どのような対策が立てられるのか,医療者と話し合いましょう。また,血縁者が今は遺伝学的検査を選択しないと決めたとしても,将来気持ちや考えが変わったとき,取り巻く環境や状況が変わったときなどに,検査を受けたいと思ったらいつでも受けることができます。

2「今は伝えない」と考える場合

家族や血縁者に伝えない場合,血縁者にHBOCの可能性があっても,将来発症するかもしれないがんの予防や早期発見ができず,進行してからがんが見つかることになり治療が間に合わない可能性があります。伝えない理由として,HBOCであることを知られたくない,家族や血縁者を不安にさせたくない,などがあります。また,ご自身のがん治療が心身ともに負担であるため,伝えたくても伝えることができない状況にあることもあります。「自分のせいだ」と思い,伝えることをためらうかもしれませんが,遺伝子とそのバリアントは,先祖から代々受け継いできたすべての生物にみられる多様性の変化の一つですので,ご自身の責任ではありません。
また,家族や血縁者があらかじめ知りたくないと意思表示している場合は,遺伝カウンセリングで相談しましょう。

このように伝えることのメリットや,伝える時期,注意する点は,ご自身や家族や血縁者がおかれている社会的状況や考え方により大きく変わりますし,ご自身の伝える・伝えないの選択や,家族や血縁者の知る・知りたくないの権利は尊重されます。担当医や遺伝カウンセラーなどに相談し,しっかりと正しい情報を得たうえで判断することが大切です。