第2章 HBOCと診断されたら知っておきたい

Q26

HBOC と診断された方ががんにかかった場合に効きやすい薬はありますか?

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A

HBOCと診断された方が乳がん,卵巣がん,膵がん,前立腺がんにかかった場合には,PARPパープ阻害薬そがいやくやプラチナ系抗がん薬の効果が期待できます。ただし現在のところ,がんの種類によっては,使用できるタイミングが限られている場合や使用できない場合があります。詳しくは担当医と相談してください。

解説

1PARPパープ阻害薬そがいやく,プラチナ系抗がん薬とは

PARP阻害薬は分子標的治療薬ぶんしひょうてきちりょうやくの一つで,DNA(用語集参照)の修復において重要な物質である「PARP」を阻害する作用があります。がん細胞にBRCA1/2遺伝子の変化(病的バリアント)がある場合には,DNAの修復の仕組みがきちんと働いていないという特徴(相同組換そうどうくみか修復欠損しゅうふくけっそん)があるため,PARP阻害薬の効果が期待できます。HBOCと診断された方が乳がん,卵巣がん,膵がん,前立腺がんにかかった場合,がん細胞でもBRCA1/2遺伝子に変化があるため,同様にPARP阻害薬の効果が期待できます。
また,広く使用されている抗がん薬の一つであるプラチナ系抗がん薬(カルボプラチン,シスプラチンなど)も,DNAに障害を起こし,それを修復するためにも相同組換え修復が必要となるため, がん細胞にBRCA1/2遺伝子の病的バリアントがある場合には,効果が期待できると考えられています。
ただ現在のところ,がんの種類によっては健康保険が適用外となり使用できない場合もありますので主治医とご相談ください。またHBOCと診断されていない方の場合でも,PARP阻害薬やプラチナ系抗がん薬が使用できる場合もあります。

2PARPパープ阻害薬そがいやくを使用できるかどうかの検査について

薬に対する効果が期待できるかどうかを治療の前に調べることを「コンパニオン診断」と呼びます(用語集参照)。PARP阻害薬に対しては,生まれつきBRCA1/2遺伝子に変化があるかどうかを調べる検査(BRCA1/2遺伝学的検査と呼ばれる血液を調べる検査です)をコンパニオン診断としても使用しています。そのために,治療を目的としてBRCA1/2遺伝学的検査を受け,結果としてHBOCと診断される場合があります。
他に, 卵巣がんの患者さんに対しては, がんの組織を使ったmyChoiceマイチョイス診断システムという検査もコンパニオン診断として行う場合があります。これはがん細胞に相同組換え修復欠損があるかどうかを調べる検査であるため,myChoice診断システムで陽性(変化あり)と判断された場合でもHBOCの可能性は高くなるもののHBOCとは診断されません。生まれつきBRCA1/2遺伝子に変化があるかどうかを調べるためには,あらためて血液を調べる検査が必要となります。

3PARP阻害薬の効果と副作用について

2022年2月現在,日本で使用可能なPARP阻害薬はオラパリブ,ニラパリブトシル酸塩水和物(ニラパリブ)という薬で,どちらも内服薬です。ニラパリブは卵巣がんにのみ使用できます。オラパリブには「維持療法」として再発を抑制することを目的とする使用方法と,「治療」として病変を小さくすることを目的とする使用方法がありますが,がんの種類によって使用方法は異なります。それぞれのがんの種類に対して健康保険が適用となる使用方法は,臨床試験(用語集参照)によって得られた結果に基づいて決まっています。それ以外の使用方法による効果は明らかになっておらず,健康保険の適用外です。
副作用としては,吐き気,疲労感などが出てくる可能性がありますが,副作用を抑える薬で対応することができますので,つらい症状が出たときは医療者にご相談ください。また骨髄抑制こつずいよくせい貧血ひんけつ血小板けっしょうばん減少など)や肺炎のリスクもあり,薬を減量もしくは一時的に休薬するといった対応や輸血が必要となる場合もありますので,定期的に通院して血液検査と診察を受けるようにしましょう。

PARP阻害薬を含めて分子標的治療薬による治療は費用が高額になります。高額療養費制度こうがくりょうようひせいどという,1カ月の医療費が上限額を超えた場合に,超えた分の治療費が戻ってくる制度があります。上限額は収入によって変わりますので,詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください(本ガイドブックではQ58に解説があります)。