リスク低減手術で切除した乳房に,がんが検出された場合には,そのがんの病理検査の結果に応じて追加の検査や手術,薬物治療が必要になる場合があります。
解説
リスク低減乳房切除術(RRM)の前には,マンモグラフィや乳腺超音波検査,乳房造影MRI検査などの画像検査を行い,乳房内にがんが発症していないことを確認します。ただし,手術前に十分な画像検査を行った場合でも,必ずがんを見つけられるわけではなく,非常にわかりにくい病変や小さな病変は見つけられないことがあります。このように,手術前の画像検査では見つからず,手術で切除した乳房の病理検査で初めて見つかるがんを「オカルトがん(偶発がん)」と呼び,見つかる頻度は0.5~11%といわれています。
オカルトがんが検出された場合には,そのがんの病理検査の結果に応じてその後の治療方針が変わることがあります。がんが取りきれていて,病理検査の結果が「非浸潤がん 」(がんが乳管の中だけにとどまっている状態。ステージ0のこと)の場合は,追加の検査や手術は必要ない場合が多いですが,手術でがんが取りきれていない場合には,追加手術を検討します。また病理検査の結果が「浸潤がん」(がんが乳管の外に及んでいる状態。ステージ1以上のこと)の場合には,追加の検査や治療が必要となる場合があります。通常,浸潤がんの場合には,わきのリンパ節に転移がないかどうかを調べるため,追加手術としてセンチネルリンパ節生検を検討しますが,すでに乳房を切除した後ではセンチネルリンパ節生検を行うことができません(図参照)。わきのリンパ節に転移がないかどうかがわからないと,正確な病期(ステージ)を診断することが難しくなるため,適切な治療が行えなくなる可能性があります。また,浸潤がんのサブタイプや大きさによっては,術後治療として薬の治療〔(抗がん薬やホルモン療法(内分泌療法)〕が必要となる場合があります。
オカルトがんにまつわる問題点としては,手術前にがんがわかっていた場合に比べ,前述のように正確なステージの診断ができず適切な治療が行えなくなる可能性がある点の他にも,手術の際に,リンパ節転移や乳房にがんの取り残しが起こるかもしれない点,手術の健康保険の適用にかかわる点(例えば,がん未発症の場合,RRMは健康保険の適用外ですが,術後にオカルトがんがわかってもすでに受けた手術を含めた診療科は原則健康保険の適用外のままとなります)などが挙げられます。このため,RRMの前には,がんを疑う病変がないかどうかを画像検査で十分にチェックし,疑わしい病変がある場合には針生検などの精密検査で正確な診断を行うことが重要です。