リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)を受けた後は,特に手術が閉経前であれば,手術による卵巣摘出により閉経となるため,更年期症状が出る可能性がありますが,症状の出方は人それぞれ違います。RRSO後のサーベイランスも含めて術後の対策について解説いたします。
解説
1RRSOによる女性ホルモン減少の影響と対策
リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)では卵巣を左右ともに摘出するため,手術によって女性ホルモンが減少して急速に閉経となります。女性ホルモンが徐々に減少し自然に閉経するのに比べ,更年期症状を自覚しやすくなったり,症状が強く出たりする可能性があります。症状には,ホットフラッシュや冷え,イライラなどの自覚されるものや,ホルモン減少による骨密度の低下,高血圧,脂質代謝異常症,メタボリックシンドロームなどの自覚されにくい変化があります。特にRRSOを推奨されている30代で受けた場合は,これらの女性ホルモン減少に伴う症状が,長く影響していくため,より注意してみていく必要があります。
通常,日常生活に支障が出るほどの更年期症状がある場合は,対症療法,漢方薬やホルモン補充療法などの治療が行われます。しかし,RRSOを実施した方の多くは,乳がん既発症でHBOCと診断されている方であるため,その場合は乳がん再発の懸念からホルモン補充療法を避けて対応することになります。一方で,がん未発症でHBOCと診断され,RRSOを受けられた方については,ホルモン補充療法を行うことがあります。乳がん未発症でRRSOを実施した方においてホルモン補充療法を行っても,5年程度であれば乳がんの発症頻度は上がらないといわれているためです。ホルモン補充療法が長期にわたる場合は,乳がんの発生により注意を払う必要があります。その他の骨密度低下,高血圧,脂質代謝異常症などに対しては,内服薬治療などが必要となるかもしれません。また,規則正しい生活,適度な運動などはこれらの予防や軽減のため,勧められます。
2その他の影響
また,RRSO後のホルモン減少による性機能の低下と性生活への影響を心配される方も多くいます。RRSOで左右の卵巣・卵管を摘出した場合は約3カ月程度,同時に子宮を摘出した場合は腟の奥が手術創部になるため約6カ月程度経過し,それぞれの手術の傷が癒えた頃を目安に性交渉が可能になります。RRSO後では女性ホルモン減少のため,腟の伸展性の低下や分泌物の減少などを自覚されるかもしれませんし,心理的にも性欲の減退を自覚されることもあるかもしれません。ただ,ホルモンの変動が落ち着くとともに,前述の自覚症状が改善することも十分ありえますし,それでもなお性交渉に困難な状況がある場合は,潤滑ゼリーの使用などで対応するのもよいでしょう。
3腹膜がんのリスクへの対策
RRSOはHBOCと診断された場合の,卵巣・卵管・腹膜がん発症予防として,卵管および卵巣を予防的に摘出する手術です。摘出された卵管や卵巣にがんを認めなかった場合,基本的に卵管がん・卵巣がんはほぼ予防されたといえます。しかし,腹膜から生じる腹膜がんの発症は,RRSO後は確実に少なくなりますがゼロではなく(約1~5%),RRSO後にもサーベイランスを行っていく必要があります。特にRRSO時に,卵管内にごく早期のがん(漿液性卵管上皮内がん:STIC)を認めた場合は,その後の腹膜がんのリスクが上がる可能性があります。RRSO後のサーベイランスに確実な方法はありませんが,婦人科診察,経腟超音波検査,腫瘍マーカーCA125の測定などが行われます。
RRSO後に以上のような影響があるのは事実ですが,RRSOの実施には,その影響や対策による負担を上回るメリット(死亡率の低下)が明らかに証明されています。RRSO後の変化について事前に十分に理解して,RRSOを選択していただければと思います。