リスク低減手術の際に,偶発的にがんが見つかった場合は,その時点でがんが広がったりしていないか画像検査で確認し,がんの根治手術を追加で行うことが勧められます。また,卵巣がんは早期に見つかったとしても,再発リスクを下げるために術後の抗がん薬治療が勧められます。
解説
Q41,44で示したとおり,リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)はHBOCと診断された方に対して,卵巣・卵管・腹膜がんの予防を目的として,卵管および卵巣を摘出する手術です。ただし,HBOCと診断された方は卵巣がんや卵管がんが発症しやすい状態であるため,RRSOを実施する前の画像検査などでまったく所見がなかったにもかかわらず,手術でがんが見つかることが少なくありません(オカルトがんと呼びます)。その場合,卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの確定診断となりますが,RRSOはがんに対して行う手術ではないため,がんの根治手術としては不十分です。
RRSOは腹腔鏡を用いて行われることが一般的で,手術の際はおなかの中の見える範囲(腹膜,腸管表面,肝臓表面など)の見た目と,腹水の顕微鏡検査でのみ,病気の広がりがないかを評価できますが,リンパ節や胸腔内の検索は手術中には行われません。もしオカルトがんが見つかった場合は,RRSOの実施前に検査していないものがあればCTやMRI,必要に応じてPET-CT検査などを行うことがあります。このような検査の後にがんの根治手術として,開腹手術による子宮の摘出,骨盤と腹部のリンパ節の摘出,大網という腸の脂の膜の摘出などが行われるのが標準手術です。かなり大きな傷の手術になりますが,おなかの中に広がりやすい性質のがんですから,広がっていないかを十分に確認する必要があります(図)。
これらの治療は早期卵巣がんに推奨される手術ではありますが,卵巣自体はRRSOで摘出していますので,どこまで根治手術を施行するかは婦人科の担当医と相談して決めていきます。ただし追加手術をしないと選択した場合は,画像検査ですべての病変を見つけることができるわけではないという限界を理解しておかなければなりません。
また,卵巣・卵管・腹膜がんでは,悪性度の低い早期がん以外は,術後に再発リスクを下げるため,抗がん薬治療が勧められます。HBOCでは漿液性がんという悪性度の高いがんであることが多いため,術後に抗がん薬治療を必要とすることがほとんどです。
多くの卵巣がんが進行した状態で見つかりますが,リスク低減手術で万が一がんが見つかっても,早期がんであれば十分治せる病気です。検査・治療の必要性について十分説明を受けて,治療を受けましょう。